閃光と
――Another Vision――
「さっさと、死んでください!」
再びリューリが駆け出し、クレアへと迫ってくる。
迷いなく斬撃が振り下ろされる。相変わらず鋭い斬撃。本当にこの攻撃を捌ききる事ができるのかと不安に駆られる。
――――迷うな!
一歩踏み出し、相手の斬撃に合わせ、剣を這わせて受け流す。
ガリガリと剣の削れる音と火花が、眼前に舞い散る。そして、そのまま流しきる。
リューリが流された勢いをそのままに、二撃目を振るってくる。今度も同じだ。剣を這わせ、受け流す。
大丈夫。上手くできている。動きの流れや、型、本質などはわからない。けど、今まで見てきた動きはいくらかある。それを思い出し、模倣する。
三撃目、四撃目と受け流し、躱していく。
「チッ」
防戦一方。反撃に転じられてはいない。けれど、崩せなくなった防御に苛立ちを覚えたのか、リューリの苛立つ表情が見て取れた。
「はあぁ!」
リューリの何度目かの斬撃。
『ダメですよ。そんな後先考えない守りでは。攻撃には、どうしたって一連の流れが出来てしまいます。それを読み、理解し、対応しなければ――』
流れの変化。リューリに動きに少しだけ変化が見えた。
重心のズレ、構えのズレ、斬撃の軌道のズレ。それらが大きな違和感として映る。
(何が来る? フェイント!)
這わせた剣にかかる負荷がほとんどない。まるで、リューリ自らが剣の軌道をずらし、剣と剣との摩擦をなくし、次の斬撃へと即座に繋げるかのような動きだ。そして、クレアの方には空撃ちに終わらせた防御の分、次の対応を遅らせる。そういう動きだ。けど、その動きは見えている。
リューリが防御の際に空いたクレアの脇腹へと斬撃を繰り出してくる。
ガキン! 大きな音と、火花が舞い散る。
「な!」
見えている。分かっているのなら、わざわざ相手の誘いに乗る必要などなく、本命の攻撃へと対処できる。クレアは本命の攻撃を余裕もって対処する。
むしろ、ここに隙がある。
この一撃で仕留めるつもりだったのだろう。次の攻撃に移るための動作を捨てた、全力の一撃。それを防げたのなら、今度はリューリ側に大きな隙ができる。
強烈な一撃に、身体が少し流されるものの、完全には崩されない。振りぬいたリューリの剣をはじき返す。そして、がら空きとなったリューリの胴へと一刀――
「はああ!」
鋭い斬撃を叩きこみ、吹き飛ばす。
手に、ビリビリと固い感触が伝わる。固い。リューリは全身を金属鎧で覆っている。クレアの斬撃ではそれを突き破る事は出来なかった。
吹き飛ばされたリューリは数を後退し、膝を付く。
鎧で守られた。けれど、ダメージが0で終わったわけではない。鎧の上からの殴打ダメージが響いているのか、リューリは傷元押さえながら、表情を歪める。
「やってくれたな……」
「負けるつもりはありませんから」
再び剣を正眼に構えなおす。
負けはしない。今の斬り合いで強くそう実感できた。
「あなたの力量を見誤っていた事は認めましょう。ですが、状況は何も変わりませんよ」
リューリが再び立ち上が剣を構えなおす。
「負けません」
「その意気込みは結構です。けれど現実を直視する事も大切です。あなたのその行動は、結局無駄なあがきでしかない」
そう告げると共に、リューリはまるで戦うのを諦めたかのように、剣を下した。
「やりなさい」
そして、一言そう告げた。
複数の足音が迫る。目を向けると、武器を手にした騎士たちが一斉に襲い掛かってきていた。
完全に忘れていた。敵は、目の前のリューリだけではない。リューリと向き合っている内に、いつの間にか、その意識が抜け落ちていた。
騎士達が迫り、各々手にした武器を振り上げる。
一人目の騎士の斬撃。それを剣で受け流す。
二人目の斬撃、それはバックステップを踏み、避ける。
三人目の斬撃、それは横跳びで避ける。が、完全には避け切れず、浅く脇腹を裂く。
ガチャガチャと足音が迫り、次々と騎士達が襲い掛かってくる。
人は瞬間的に大きく強くなどなれない。
戦い方を変え、手応えは感じた。だが、それが完全に馴染んだわけではない。一つの攻撃は捌けても、同時に二つ、三つとなると、途端に対応しきれなくなる。
目が追い付かない。捌ききれない。ここままでは――
迫りくる騎士達の向こうに、リューリの姿が見えた。リューリは冷たく笑っていた。
「だから、無駄なあがきでしか無いんですよ。抵抗などしなければ、痛い思いをせずに死ねたのに。馬鹿な人」
騎士の斬撃がクレアの肌を引き裂く。痛みで身体の動きが鈍り、足が止まる。
(だめだ、止まるな!)
動きの止まったクレアへ向けて、騎士の一人が剣を大きく振り上げてくる。あれが振り下ろされれば、今度こそ死ぬ。
先ほどとは違う。もはや、動く余禄などは残っていない。
「さようなら――」
騎士の振り上げた剣が、クレアへと振り下ろされた――
バーン!
衝撃音。傍の壁が土煙を上げたかと思うと崩れ去り、その向こうから何か大きな影が姿を現した。
『我が魔術の光よ。その閃光をもって、眼前の景色を焼き払え! 閃光爆発!』
何かが輝く、それは一気に広がり視界すべてを真っ白に染め上げる。
「イーダ!」
「いちいち命令するな!」
風を切る音が耳に届く。そして、一拍遅れるようにして、小さな呻き声と人の倒れる音が耳に届いた。
「な、なにが……」
少し時間が空くと、すぐに焼けた視界が晴れていく。
「壁崩すとか、非常識すぎだろう……」
「正面の通路は防備が厚かった。なら横から回るのが定石じゃろう?」
「だからってこれは……」
聴きなれた声。
晴れた視界の先、崩れた壁の傍に見慣れた人影があった。
「まあ、間に合ったのじゃから、文句を言う必要はないじゃろう」
巨大な岩石人形の肩に乗ったヴェルナと、岩石人形の傍に立つイーダの姿がそこにはあった。
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