出会い
気が付くと日が暮れ始め、時間は夜へと変わり始めていた。
「はぁ……」
ため息が零れる。
結局今日だけではPTを組むことはできそうになかった。
「選り好みするのがよくないのかねぇ……」
手っ取り早く下層へと潜りたい。けど、そうなると並みの以上のPTを組む必要があり、その場合ある程度の実績が求められる。そうなると、その時点でまず俺自身が弾かれてしまう。
どっかしらで心よく引き受けてくれる人がいるのでは? なんて甘い想像をしてみたけれど、現実はそんなに甘くはなかった。
まあ、当たり前だよな。PTメンバーの選定を間違えると、それは結果として死につながる。なら、そこでの甘えは許されない。
「さて、どうしようか……」
近くの椅子に腰かけ、ぼ~とギルドの中を眺める。
日が暮れ始め、外は暗くなっているというのに、ギルド内はいまだに冒険者達であふれていた。
ギルドのホール内に吊るされた灯――魔導灯が室内を照らし、夜であるにも関わらず、昼間と変わらない明るさと活気を作り出していた。
技術が発達し恒常的な明かりを手に入れた今では、夕暮れは一日の終わりを意味するものではなく、夜の時間の幕開けを意味するもの変わっているようだった。
夜の闇の中、明かりの下で賑わうその景色を見ていると、つい笑みが零れる。
時が経ち、技術が発達すれば環境も変わる。昔から信念としてそう考えていたが、いざその変化を目にさせられると、それは大きな実感と感動を与えてくれた。
かつては存在しえなかったその景色を眺めながら、楽しむ。――――現実逃避。だって仕方ないじゃん、どうしようもないんだから……はぁ。
「あ、あの!」
半ば思考を放棄して目の前の光景を眺めていると、横合いから唐突に声がかかった。
視線をそちらへと向けると、一人の女性が立っていた。
癖のない綺麗な髪黒髪に、青く透き通った瞳。細身の体に整った容姿は、冒険者達が集うこの場所には不釣り合いなものに思えた。ギルドの職員だろうか?
「なに?」
軽く返事を返す。
「えっと……PTを、探しているんですよね?」
「そうだけど……それがどうかしたか?」
「あ、良かったぁ~。やっと見つけた」
答えを返すと、女性は大きく安堵したような息を付いた。
「あ、すみません。私、クレアって言います」
「ユリだ」
「ユリさん、ですか。PTを探しているのでしたら、私たちとPTを組みませんか?」
クレアと名乗った少女はそう言って手を差し出してきた。
願ってもない提案だった。半ばあきらめていたところでのこの提案は助かる。だから、俺はその提案に迷いなく、OKを返した。
* * *
「こっちです」
クレアに連れられ、俺はとある酒場の一角へと向かった。クレアによるとPTの面々がそこに集まっているのだとか。
「お? ようやく帰ってきたみたいだ」
目的の酒場へと付くと、すでにその酒場で待っていたクレアの仲間がこちらへと手を振ってきた。
男性一人と女性一人。
男性の方は小奇麗な格好で、冒険者と説明されなければ、そうと認識できないような恰好だった。
一方、女性の方はダボ付いた古臭いローブのような物を身にまとい、暗器なんかを隠し持っているんじゃないかと想像させるような怪しげな恰好をしていた。
この二人がクレアのPTメンバーなのだろう。
「お待たせしました。えっと、こちら、ユリさんです」
「ユリです」
流れで、軽く自己紹介をして頭を下げる。
「ユリ君ね。なるほど、僕はヴィンス・ラザフォード。冒険者だ。よろしく」
挨拶を終えると、男性の方が立ち上がり、自己紹介とともに手を差し出してくる。
「どうもです」
手を取り握手を返す。
「それで、こちらが――」
「イーダだ」最後の一人が名乗る。
「四人か、これでようやくPTらしくなったなったかな」
「これでやっと地下迷宮に潜れるんですね」
「ああ、これで申請ができるようになる。よく頑張った」
「あ、ありがとうございます」
ヴィンスがクレアを褒めると、クレアはそう感謝を大きく表現し、頭を下げた。
ここへ来るまでの道中軽く現状のPT状況を聞いていた。PTを組み始めたばかりで、メンバーがまだそろっていなかったと言うのは本当みたいだ。
「ユリ君。ちょっといいかな?」
「なんですか?」
「来たばかり、いきなりで悪いんだが、君の事についていくつか聞いていいかな? PTで動くうえで知っておかなければならない事だと思うんだ」
「かまいませんよ」
「ありがとう。じゃあまずは、レベルを聞こうかな? いくつかわかる?」
(レベルか……ここでも聞かれるのか……)
ちょっと悩む。正直に答えたら、また変な目で見られるかもしれない。できればそれは避けたい。だからと言って変にごまかしてもなぁ……ここはあたりさわりのないように答えておこう。
「悪い。そういうのはよくわからないんだ。ついさっき冒険者登録を終えたばかりで……」
「そうだったのか……じゃあレベルは1ってことかな。了解した。じゃあ、次は、クラスとスキルを聞こうか、何かあるかい?」
「クラス? スキル?」
また知らない単語が出てきた。今の冒険者は専門用語が多いなぁ……これは覚えていかないと大変だぞ。
「クラスは、冒険者としてのタイプみたいなものかな? どういう役割をこなせるかってこと。スキルは、特殊技能って言った方がいいかな? 冒険者として使えそうな技能の類。何かあるかい?」
「なるほど、そういうことね。それだと……」
再び困る。基準が分からん。魔術、剣術、工学、知識、それら冒険者として必要な技能は一通り持っているつもりだ。それを答えればいいのか? けど、それって冒険者としての基礎技能じゃないのか?
PTを組んでの行動などしたことが無いだけに、この辺の基準や感覚がいまいち分からない。
「答えられないかな?」
「いや、そういうわけじゃ――」
「まあ、初めてじゃ仕方ないよね。とりあえず、見たところ戦士みたいだし、そういうつもりでいるよ」
いや、ちょっと待て、俺は戦士じゃないんだが……まあ、いいけど戦士として動くことはできなくはないし……。
「聞きたいことは以上かな。ありがとう。これからはよろしく頼むよ」
そう言ってヴィンスは肩を叩く。
「私からもよろしくお願いします」
続けてクレアも頭を下げた。
こうして俺は、冒険者としてPTを組むことが出来た。まだまだ、冒険者として分からないことだらけだが、ここから俺の新たな冒険者生活が始まる。そんな気がした。
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