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向けられた銀閃

   ――Another Vision――


「なあ」


「何じゃ」


「つまらないんだけど」


「なら来なければ良かったじゃろうに……」


 目の前の光景を眺めながらのイーダの愚痴に、ヴェルナは呆れた声を出した。


 今、ヴェルナ達は城の一角にある会議室に来ていた。


 大きな机を、数人の男と、それからヴェルナとイーダが囲い。ああでもない、こうでもないと終わりの見えない議論を交わしていた。


「何の話をしているんだ?」


「お主は本当に……公共事業に関する話じゃよ」


「公共事業?」


「道路整備や治水事業、図書館、役場の管理やらなんやら、それらに付いての話じゃ」


「ああ、だから港がどうとか言ってたのか」


「そういう事じゃ」


 ここへ来てから終始詰まらなそうにしているイーダに再度呆れた息を付く。本当に何のためにこいつは此処へ来ると言ったのか呆れて来る。


「ヴェルナ様はどう思われますか?」


「ふぇ?」


 そして、終わりの見えない議論を横目にしながら、そんな風にイーダと会話をしていると、唐突に意見を求められた。


 イーダにはああ言ったが、実は半分くらい聞き流していた。いきなりの事で戸惑う。


「え……と。なんの話じゃったか?」


「昨今の物流事情に付いてです。人口増加に伴う、需要の増加と供給の増加。それに対する物資の運搬能力不足。これに対する対処法はいかがなものかと、その意見を聞きたく思います」


「え? 運搬の能力……? え~っと……」


 自分の不勉強さを呪う。もともと来るつもりなどなかっただけに、今問題にされているような事柄に付いては殆ど知らなかった。それだけに、意見などすぐには出てこなかった。


「道路の拡張整備を行い。交通量を増やすとか?」


 考えた末、どうしようもなくなり半ば適当な答えを返す。


「物資不足の危険は多岐にわたります。それらすべてをそれで賄うとなると、膨大な予算と時間がかかります。とても現実的とは言えません」


「じゃ、じゃあ、船舶の増産に、海路の増設ならどうじゃ?」


「冬場は港が凍ります。その時はどうするのです?」


「それは……備蓄で賄うとか?」


「その為の倉庫と保存方法は?」


「うぐ…………」


 意見を上げるたび、上げるたび、言い返され、半ば晒上げの状態にされられる。これは、少し心情的に辛いものがある。


「まあまあ、イアン殿、賢者様をそんなにいじめなさるな。この問題対し、適切な答えを出せていないのは我々も同じ。その不満を、そんな風にぶつけるものではありませんよ」


「しかし……そうですね。失礼しました」


 同席していたスペンサーになだめられると、イアンと呼ばれた男は謝罪を告げ、席へ戻った。


 解放された。そう思って息を付く。すると、隣の席から小さな笑い声が聞こえた。


 目を向けると、もちろんイーダが笑っていた。


「言い負かされてやんの」


「他人事だっと思ってお主は……」


 そんなこんなで会合は終わりの見えない道を進み、そのまま終わりを迎えるかに見えた。


 だが時間が経ち、しばらくすると変化があった。




 ガチャリと唐突に扉が開かれると、会議室に二人の騎士が入ってきた。


「何かあったのかね?」


 こうやって騎士が会合の席に踏み込んでくる。それは、だいたいの場合、何か問題が起きた事を意味する。会議室に居た出席者の一人が、騎士に状況を尋ねた。


「外で少々問題が起こりました。なので、安全の為、しばらくこの部屋から離れないでください」


 出席者の質問に、騎士は取り留めのない答えを返した。


 ごく普通の対応。けれど、なぜだろうか? ヴェルナはそこに小さな違和感を覚えてしまった。そして、その違和感を感じてしまった所から、普段なら気にしない些細な違いが目に付いてしまった。


「お主、どこの者だ?」


 些細な違い。それは、騎士の身に付けていた装備だ。鎧や武具、それらはアリアストの騎士団共通の装備で、何ら問題の無いものだった。けど、その騎士が身に付けていた部隊章は、王城を警備する騎士団が付けているものではなかった。


 ()()()()()()()()のシンボル。ヴェルナの記憶にない部隊章だった。


「どこの者と聞かれましても……警備の者ですが……」


「警備? 警備を担当する騎士団が変更になったという報告は受けていないぞ? いつ変更になったのじゃ?」


 再び問い返す。すると騎士は、鋭く睨み返してきた。そして、傍の騎士に目配せをすると――剣を引き抜いた。


 敵意。それがはっきりと形になった。


「うおおおおおおお!」


 もはや隠す気などない。そう告げるかのように、騎士たちは剣を引き抜くと手近な相手へと切りかかった。



『我が魔力よ。心の枷となりて、汝の心を縛りその自由を剥奪せよ!』



 それを見てヴェルナはすぐさま、魔術の詠唱を開始する。


 詠唱が遅い。間に合わないか、と一瞬思ったが、ギリギリの所で騎士の動きは停止して、難を逃れた。


 もう一人の騎士は、いつの間か背後に回り込んでいたイーダが、騎士を羽交い絞めにし、いつの間にかに引き抜いていたダガーで首筋を引き裂き絶命させる。


 パタリ。と動かなくなった騎士二人が倒れこむ。


「お主……何も殺すことは無かろうに……」


 一瞬の判断が功を奏し、こちらに怪我人は出なかった。だが、状況が分からぬ状態で死者を出すのは、少々行き過ぎな様に思えてしまった。


 血を見てしまったことで少し動揺してしまう。


「知らないよ。向こうはやる気だったんだ。私はこれ以外の方法が取れるほど、器用じゃない」


 イーダの返しに、ヴェルナは溜め息を返す。


 確かに、あの状況ではあれ以外の方法での対処法など思い浮かばない。


 今この状況で手段に付いて言い争っても仕方がない。そう判断して、ヴェルナは動けなくなっている騎士の方へと目を向ける。


「何か縛れる物を持ってきてくれ。それから武器を取り上げさせろ。こやつはまだ動く」


 手早く指示を飛ばす。


 唐突の出来事で動揺が広がっていたのか、ヴェルナの声には誰も答えを返さなかった。


「早くせよ!」


「は、はい!」


 強く念を返す。するとようやく我に返ったのか、周りの者達は動き始めた。

お付き合いいただきありがとうございます。


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