闇夜のお告げ
――Another Vision①――
日が沈み、辺りは夜の暗闇へと沈んでいく。
アリアストの小高い丘の上に立つ王城もまた、夜の闇へと沈み、人口の明かりが灯り始める。
そんな、城の内部に灯った明かりが微かに照らされた中庭に、一人の男が立っていた。
歳は30くらいで、白地の質の良さそうな生地に獅子の意匠が刺繍されてた高そうな衣服に身を包んだ男性。
銀狼騎士団団長ヴィルヘルム・ラリヴィーラ。それが、ここに立つ男の名だった。
ヴィルヘルムは薄暗い中庭から夜空を眺めていた。今夜はちょうど新月で月明かりは無く、多くの星が煌めいていた。
バサバサっと何かが夜空を掠めた。梟だ。灰色の梟が、大きく羽ばたき、ヴィルヘルムの頭上の夜空を飛び去って行く。
そして、ヴィルヘルムの頭上を掠め飛ぶと同時に、梟は一通の封筒をヴィルヘルムの元へと落下させた。
ヴィルヘルムは手早く封筒を拾う。そして直ぐに開封し、便箋へと目を通し、そこに書かれた文面を理解すると、小さく笑みを浮かべた。
「暗がりで一人笑みを浮かべる。随分とご機嫌な様子じゃないか」
小さく笑みを浮かべるヴィルヘルムに、どこからか声をかける男の姿があった。
浅黒い肌に、長身の男――ガエル・サンチェスだ。
「ガエルか。遅いぞ」
ゆっくりと暗がりから出て来ガエルに、ヴィルヘルムはそう叱責を飛ばす。
「今は勤務時間外だ。貴様の命令を聞く理由はないはずだが」
「そうだな。だが、今からは違う。ガエル、お前への命令は正規の物に切り替わる」
「正規? ほう、もう動くのか」
「ああ、あちらの準備も整った。明日、行動に移す」
ヴィルヘルムの返答を聞くとガエルは、肩を揺らし笑い始めた。
「ついに、ついに暴れられるってわけだ」
「ああ、お前の望み通り、この城に巣くうゴミどもの血祭りにあげろ」
「ああ、ああ。依頼通り、すべて喰らいつくしてやるぜ」
ガエルがさらに声を上げて笑う。その目は闇の中で赤く輝いていた。
――Another Vision②――
城の大浴場から上がると、クレアはようやくエリンディス達と別れ、元のクロムウェル家に割り振られた部屋へと戻ってきた。
大きめの扉を開き、広間へと入ると、広間には夕食を終えたと思われる父ジェラードが座っていた。
「戻ったか。今までどこにいた」
「エリンディス様の元です」
「あのエルフの令嬢か……」
ジェラードから、少しだけ苛立ちの気配を感じたが、それに付いて強く何かを言われることは無かった。
今日は予定が無いと聞いていた。故に、今日の行動に付いて特区別何か言われるいわれはない。一緒に居たのがエヴァリーズのからの要人ともなれば、クロムウェル家にとって良い方向へ向く可能性もある、故に、強く言うことができないのだろう。
だが――
「試合。見さしてもらったぞ」
闘技場での事は別だ。
「エルフの娘一人にあのような……まったく。あのような様で、冒険者をやって行けると思っているのか? お前。冒険者として早死にするくらいなら、拘りを捨て、本来あるべき姿へと戻ったらどうだ」
「父様に関係ありません。私の生き方は、私が決めます」
「お前の命は、お前だけの物ではないのだぞ!!」
バッと机を強くたたき、怒鳴りつけて来る。
強く怒りを見せたジェラードに、クレアは鋭く睨み返した。
「明日は円卓の席での会合だ。そこにはお前も出てもらう。良いな」
「分かりました」
最後にそう答えを返すと、すぐさま父から視線を外し、自身の部屋と歩いていた。
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