冒険者とパーティ
「これがギルドの登録証明になります。再発行は難しいので無くさないでください」
元居た受付の前に戻ると、ライラさんがそう言って小さな金属プレートを差し出してくれた。そこに『ユリ・レイニカイネン』と刻まれていた。
俺は差し出されたそのプレートを受け取る。
「ありがとう。これで、地下迷宮に入れるわけだな」
「いえ。地下迷宮へ入るための許可は別途申請が必要に成ります」
「あ、そうなの? じゃあ、それをお願い」
「すみませんが、今の状態では地下迷宮への探索許可は出せません。申し訳ありませんが、準備を整え、再度お越しください」
「は? なんで?」
「地下迷宮はとても危険な場所です。ですので、ギルドでは単独での探索は許可しておりません。PTでの行動を推奨していますので、まずはPTを組んでください」
「PTを組んでいないと許可は出せないと……?」
「はい。PTを組んでから、またお越しください」
ニッコリと笑顔を浮かべ返されたその言葉に、俺は固まる。
てっきりもう問題はなくなっていたと思ったら、再び大きな問題が浮上した。
「このまま許可出せない?」
「ダメです。ちゃんとPTを組んでからお越しください」
「俺強いよ。それでもダメ?」
「ダメです。あなたが凄腕の魔術師であることは確認しています。ですが、地下迷宮はあなたが想像している以上に危険な場所です。単独での探索は許可できません」
「そ、そうか……」
「では、またのお越しを」
ニッコリと笑顔で追い返されてしまった。
PT。それは3~6人程度の冒険者の集まりを指す言葉だ。
地下迷宮での探索には多くの技能が必要となる。戦闘技能、魔術、機械工学、知識、などなど。多くの技能を必要とされる。だが、それらすべてを個人で賄うことは非常に難しい。
よって、それら技能を分担し、より確実に、より安全に立ち回るため、冒険者達はこのようなグループを作るのだ。
「PTかぁ……」
ため息が零れる。
PT。それの必要性は十分理解できる。理解できるのだが……。
如何せん俺は集団での行動が苦手なため、それに抵抗感を覚える。
「どうすっかなぁ……」
だが、抵抗があるからと言って避けていては始められない。ここはあきらめるしかない。
こういう時、知り合いとかいたら楽なんだろうけど……100年の時を超えた俺にそんな相手などいるわけもなく……。悲しいなぁ……。
「とりあえず探すだけ探してみるか」
ざっと冒険者ギルドの中を見回し、それらしい人を探す。
冒険者ギルドは、その施設そのものが冒険者同士の交流を促し、PT結成を促す場所となっているらしく、多くの冒険者が集まっていた。
それらの冒険者を見て、手ごろな相手を探し、それから声を掛けた。
「ちょっといいか?」
「ああん? 誰だ? テメェ」
声をかけると、威圧するような返事が返ってきた。これはいきなり外れを引いたかもな……。
「今、PTを組んでくれる者を探しているんだが……どうだろう? 俺とPTを組まないか?」
「PTだぁ? オメェ、レベルいくつだ?」
「レベル?」
「レベルだよ、レベル。到達階層。まさか、テメェ、自分の実力も示せねぇような雑魚じゃねえよなぁ?」
「ああ、そういうことね」
レベル――到達階層。なるほどね。
地下迷宮は下層に行けば行くほど出現する魔物や、障害が強力なものとなる。故に、階層を下るにはそれだけ実力が必要に成ってくるというわけだ。そこから、到達階層に応じて実力を測るようにしているのだろう。
「ほら、いくつだ?」
「えっと確か……」
記憶を探る。正直到達階層とか一々覚えてなかった。
「確か、128階層……だったかな?」
何とか記憶をひねり出し、答えを返すと、聞いていた冒険者はぽか~んと呆けた表情を返してきた。
「ぷっ、くくく……ははは……ああはははは――」
そして、しばらくすると大きく声を上げ笑い始めた。
「なんだよ。何かおかしかった?」
「おかしいって、当たり前だろ。嘘ならもうちょっとうまく吐きやがれ」
「嘘じゃねえよ」
「お前、馬鹿だろ。現在の最大到達階層は33層。あの大賢者レイニカイネンだって60層に到達したって根も葉もない噂が伝説になるレベルだ。128層なんてどう考えてもあり得ないだろ。そんな嘘、 誰だって信じねえよ。
レベルの高いPTに入りたかったんだろうが、ちゃんと現実ってものを知ってから来な」
ドンとどつかれ、拒否されてしまった。
「はぁ……。弱ったなぁ……」
PTを組む。その話を聞いた時から頭の片隅にあった問題が浮上してしまった。
PTというのは、基本的に同レベルくらいの実力の者で固まる。そうでないと、足を引っ張りあう事に成り、望んだレベルの行動が出来なくなるからだ。
そのため、レベルの高いPTに入ろうとすると自然と実力や実績の確認がなされる。
さっきのレベルの確認がその実績の確認だろう。
そこまではいい。その行動自体に何か問題があるとは思わない。当然の行動だろう。だが、現状俺に実績、能力を示すための手段がほとんどない。そうなると俺が高レベルPTに入る事は不可能といえる。
早々に下層へと降りたい身としては、これは由々しき事態だ。
「これは……真面目に困った問題かもしれない……」
本日の戦績10戦0勝。誰もPTを組んでくれなかった……合掌。
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