最強の騎士
「うおおおおおおお!」
開始の合図が告げられると、対戦相手の騎士が駆け出し、ガエルとの距離を一気に詰める。
「はあああああ!」
そして、気合の籠った掛け声と共に、剣を上段から振り下ろす。
体重の乗った強烈な一撃。冒険者の間で強打、いや狂乱の一撃と呼ばれるスキルのそれだろう。
まともに受ければ、一溜まりもない。実戦では無いのに、それを使うのかと思わされる。
だが、その強烈な一撃は、いともたやすく受け止められてしまった。
ガキーン! と鋭く大きな音が響き、剣と剣がぶつかり合うと、動きはそこで止まる。
「な!」
ガエルが不敵に笑い、相手騎士が驚きの表情を浮かべる。
そして、ガエルは受け止めた剣を大きく振るうと、相手事振り払い、距離を取る。
「動きは悪くない。力も十分、身体の使い方も悪くない。だが、残念だったな。その程度の力では、俺には届かない。今度はこちらから行くぞ」
ガエルが再び剣を構えなおす。
そして今度はガエルの方が駆け出し、剣を振るう。
「うおおおおおおおおお!」
ブウォンと風を切る音。ガキンという金属がぶつかり合う音。そして、次に見えた光景では、相手騎士が遠くへと吹き飛ばされていた。
「が……か……」
圧倒的な力の前に、防御は殆ど意味はなさず、その上から叩き切られた感じだ。もはや立つ事は出来ないだろう。
一撃の元に勝敗が決してしまった。
「圧倒的じゃな」
一瞬の内に終わったその光景に、ヴェルナがそう感想を零す。
単純な感想だ。けど、そう表現するしかないよね。
決着が付いたのを見て、観客から大きく歓声が上がる。
そんな観客たちを見て、ガエルは少し詰まらなそうに息を付く。
「これで終わりか? ここにはこんな奴らしかいないのか? 俺に敵う奴はいないのか?」
そして、ガエルはここへ集まったすべてのすべての人へ向けて、そう高らかに告げた。
それを聞くと、会場は一旦静まり返る。
「何じゃ、あれは?」
「いつものパフォーマンスですよ。ガエルは勝つとあんなパフォーマンスするんです」
「不満を買わぬのか?」
「まあ、最初は結構不評でしたが……彼に勝てる人間が居ませんからね。次第にあれが、彼の強さの証明みたいになって、定型化してます」
「……気に食わなんな。よし、師匠。奴を懲らしめてこい」
「は?」
こいつ、なんかとんでもない事言い始めたぞ。
「師匠ならあやつに勝てるであろう?」
いやいや、何言ってんの? こいつ。
「いや、どう考えとも勝てるわけないだろ。見ただろ、さっきの試合。あんな化け物、無理だって」
「そんな事ない。師匠なら勝てるはずじゃ」
だから、何を根拠に……。
一片の疑いもない視線を向けてきやがる。言っとくが、俺にもできない事ってあるからな!
助けを求めようとイーダに目を向けると、こいつはこいつでこの状況を楽しんでいるのか、笑っていやがる。
「なんだ? 次の相手は貴様か?」
耳ざとく聞きつけ、闘技場の中央からガエルが俺の方へと剣を向けて、そう告げて来た。
気付かれたか最後、周りがそれに気付き、周囲の目が俺へと見けられる。
「あいつ、ガエルに挑むつもりか?」「命知らずめ」「お? ガエルの試合がもう一戦の見れるのか?」「良いぞ、その意気だ若いの!」
次第に周囲の雰囲気が乗っていき、空気は俺がガエルに挑む空気へと変わっていく。勘弁してくれ……。
一度ヴェルナの方へと目を向ける。期待の籠った眼差しだ。こんな空気の中、こんな目を向けられ、逃げ出すなんて、出来るわけないよな……。
溜め息を付き、諦める。
「分かった。行ってくるよ……」
「よし、行け! あの調子に乗ったデカ物を懲らしめてこい」
ヴェルナの有難い(?)声援を受けながら、俺は観客席を下りていき、闘技場へと降りたのだった。
――Another Vision――
「あいつ、大丈夫か?」
クスクスと笑いながらイーダが尋ねて来る。
「大丈夫じゃろう。師匠に負けは無い」
「それ、なんか根拠あって言ってるの?」
「根拠? そんなものはない」
「おいおい。それであんな化け物に挑ませたのかよ」
「根拠はないが、師匠は最強じゃ。故に負けは無い」
「なんて狂信だよ」
ヴェルナの回答にイーダは呆れたような息を付く。
「よし。それだけ言い切るなら、掛けないか? あいつが勝ったら金貨1枚やる。あいつが負けたら、私が金貨1枚貰う。どう?」
「うぐ。金貨1枚……」
「なんだ? 負けは無いって豪語したんだから、ならリスクなんてないのと同じだろ? それとも、お前は負けるかもって思ってるのか?」
「そんな事はない!」
「じゃあ、受けられない。なんてことはないはずだ」
「わかった。その勝負。乗ろう。じゃが、負けても文句を言うでないぞ!」
「ククク。了解。勝負成立」
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