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冒険者ギルドと冒険者

「100年とちょっとか~……まさかここまで時間が経っているとは……」


 食事を済ませた後、簡単に調べられる範囲で調べてみた。そしたら、ものすごい事実が飛び出してきた。


 100年と少し。俺が地下迷宮に籠っている間に、それだけの時間が経っていたようだ。


 まさかぁ? とか、ありえなくね? とか、否定したい思いがいっぱいあった。


 そもそもだ。人の寿命なんて100年もないないのだから、俺が生きている時点で、100年経っているのはおかしい! はい、論破!


「なんて、言えたらよかったんだけどな……」


 実は俺。活動時間を伸ばすため、老化防止の魔術などを常時施している。そのため、俺の寿命は魔術が途切れない限り、ほぼ無限といえる。その上、俺は何かに集中すると結構時間を忘れるたちだ。それでよく怒られたっけな……。


 地下迷宮内は一部の区画を除き、昼と夜が無い。時間の感覚なんて簡単になくなってしまう。気付かなくても無理ないのかもしれない……。いやいや、それでも100年は無いでしょ……100年は……馬鹿でしょ、俺。


「しっかし、どうするかな~……これ」


 状況はおおよそ理解できた。なら次はこれからどうしていくかだ。


「とは言っても……やる事は変わらないか」


 生まれ育った国が無くなり、自分を取り巻く環境が大きく変わったことに、多かれ少なかれ思う事はある。けど、何年もほったらかしにしていたわけだし。今更それを嘆く気にもならない。


 それに、俺が今まで行なってきたことは、結果的に国の為ではあったけれど、国の為を志して行ってきたことではない。環境が変わろうと、それは変わらない。


「よし、なら、俺は、俺らしくいつも道理に動こう! 悩んだって仕方ない」


 研究者であり、探究者で、冒険者なんだ。地上の環境が変わろうと、やるべきことは変わらない。


 地下迷宮の探索、それただ一つだ。




「確か……地下迷宮の管理は、今はギルドとかいうのがやってるんだったけか?」


 再び地下迷宮の探索許可を得るため、俺は『ギルド』というのを探した。


「ここか」


 しばらく歩き回って、ようやく『冒険者ギルド』と書かれた看板が掛けられた大きな建物の前に辿り着いた。


 メルカナスだった時は、地下迷宮および冒険者達を国が直接管理していた。だが今ではこの『冒険者ギルド』という組織が、独自で管理しているんだとか。大分変ったものだ。




 冒険者ギルドの中に入ると、とりあえず受付のカウンターへと向かった。


「本日はどの様なご用件でしょうか?」


 カウンターの傍に近付くと、すぐさま中から職員らしき人がやって来て声を掛けてくれる。


「地下迷宮に入るための許可が欲しいんだけど、どうやったらもらえるんだ?」


「地下迷宮へ、ですか? それは冒険者を雇い向かわれる形ですか? それとも冒険者として向かわれる形ですか?」


「冒険者として、かな」


「それでしたら、ここで冒険者登録をお願いします。そうすることでギルドの登録冒険者となる事が出来ます。地下迷宮への探索許可は、ギルドの登録冒険者に成ったのち、別途申請をしていただければ、許可が貰えるようになります。ご登録しますか?」


「じゃあ、それでお願いします」


「畏まりました。では、こちらに」


 そう言って俺はギルドの奥へと案内させられた。




 案内されたのは、ギルドの裏手側に併設された、練兵場の様な場所だった。


「ライラ嬢。今日の相手はこいつか?」


 訓練場に来ると、すでにそこに居た一人の男が立ち上がり、俺をここへと案内したギルドの職員にそう尋ねた。


「はい。お願いします」


「了解した」


 ライラ嬢と呼ばれた職員の返事を聞くと、男は軽く伸びをして身体を解し始めた。


「あの、これは?」


「今からあなたをテストします。ご存じかと思いますが、冒険者というのは大変危険な職業です。戦えない人間はただ死ぬだけ。

 ギルドは冒険者を守る組織であり、そのように死ぬ冒険者を危険な地下迷宮へと送り出すわけにはいきません。ですので、貴方が冒険者として生きていけるだけの能力を持っているかどうか、テストさせていただきます」


 ライラさんは、ニッコリと笑顔を浮かべ説明してくれた。


 テストか……今はそんなことやってるんだ。俺、そんなテストとか受けたことないや。まあ、地下迷宮は危険だし、そういうのは必要だよな。


「テストは今から?」


「後日でも構いませんが、こちらとしては、万全な状態でなければ戦えないという人間にはマイナス評価を下さなければなりません。それでよろしければ、後日改めて行うことも可能です」


「なるほど、分かった。今でいい」


「ではドルフさん。お願いします」


「あいよ」


 ペコリと一礼すると、ライラさんはその場から離れ、練兵の端へと下がった。


「じゃあ、まずはルールを説明するぞ」


「お願いします」


「装備は自前の装備でも、そこにある物でも構わない」


 訓練場の一角、そこに何種類かの武器と鎧、盾が立てかけられていた。


「自前の装備って危なくないか? 一歩間違えれば怪我じゃ済まないぞ」


「なんだ、怖いのか?」


「いや、別にそういうわけじゃないんだが……」


「気にすんな。これは冒険者として戦えるかどうかをテストするんだ。怪我? 死ぬ? そんなのに怯えて挑めないっていう人間は、そもそもお呼びじゃねえ。そうだろ?」


「まあ、確かにな」


 返事を返すとドルフは小さく笑みを返した。


「よし、続きだ。勝敗の決め方は、相手に負けを認めさせるか、再起不能にする事。大まかなルールはこれくらいだ。他、よろしいかな? 少年」


 ブンと剣を振るい、俺の眼前に付きつけるとドルフさんは説明を終えた。


 日の光を浴びて、突き付けられた剣の刃が輝く。大振りの大剣。もちろん、実戦用の磨かれた物だ。これで叩き切られたら、たぶん人は死ぬだろう。そういう圧が感じられた。


「それ構わない。けど、一つ質問良いか?」


「なんだ?」


「俺、魔術師なんだけど……魔術師も同じ形式でテストするのか?」


 そう質問を投げかけるとドルフさんは、驚いた表情を浮かべ、固まった。


「あれ、違うのか?」


「ああ、悪い。まったく魔術師には見えなかったんでな。剣を腰に吊るしてるもんで、つい、な」


(ああ、なるほど、そう言う事か)


 俺は一応、サブ武器として剣を扱う。訳があって昔から剣術を嗜んでいた。その癖がいまだに残り、剣を用いて戦うことがある。


 地下迷宮の中では、シビアなリソース管理が要求される。その為、魔術というリソースを温存するために冒険者の魔術師は魔術を扱う以外に一つか二つほどサブ武器を用いる事が多い。通常は扱いやすい(クロスボウ)やスリングなどを選択するものだが、昔の癖で俺は剣を選択している。そのせいあってメイン武器と間違えられ、魔術師とみられないことが多々あるんだけどな……今回の様に。


「悪いが魔術師でも同じテストだ。冒険者なら近接(クロス・レンジ)での戦闘が要求される。それを見るためにもな」


「なるほど了解した」


「よし、じゃあ、始めるぞ」


 確認事項を終えると、ドルフさんが懐からコインを一枚取り出した。


「こいつが開始の合図だ。魔術師なら、今から防御用の魔術が使用しても構わないが、直接相手に掛ける魔術の使用は、合図が出てからだ」


(へぇ~。事前準備させてくれるのか。随分とぬるいんだな)


「なに、そんなに気負うことは無い。ちょっと力を見るだけだ。勝たなきゃいけないってわけじゃ無い。じゃ、行くぞ」


 ピンとコインが弾かれ、宙に舞う。そして、そのままゆっくりと降下し――カツンと地面に落下した。開始の合図だ!




 カツンっとコインが地面を叩く。


『止まれ!』


 開始の合図が告げられた。


 ピリピリとした緊張感の中、俺と相手――ドルフさんは向かい合い、睨みあう様にして立つ。が、どちらも動かなかった。


 はたから見れば、期を伺い、間合いを取り合ってるように見えるかもしれない。


 剣を構えたドルフさんに、隙らしい隙は見えない。けれど、それに対し、俺の方は構えらしい構えを取ってはいなかった。


 10秒……20秒と時間が過ぎていく。それでもどちらとも動くことは無かった。


 30秒……40秒と時間が経過する。さすがにどちらも動かない事を不思議に思ったのか、傍で見ていたライラさんが首を傾げる。


(そろそろかな?)


「もういいか?」


 戦場で向かい合う相手。実戦ではないとはいえ、武器を持った相手に対して、余りにも軽いと思える声音で、俺はそう口にした。


 俺のその言葉でドルフさんは何かに気付いたのか、ハッとした表情をして、それから苦笑いを浮かべた。


「ああ、降参だ。俺の負けだ」


 ドルフさんが両手を上げて、負けを宣言する。


「どうも」


 俺はそれに、軽く礼を返した。


「ちょっと! ……どういう事ですか?」


 審判役というわけでは無いようだが、直ぐ傍で一部始終を見ていたライラさんは何があったのか理解できない様子で、質問を投げかけてきた。


「少年。説明を頼む」


「説明? ああ。『拘束(ホールド)』の魔術を使ったんだよ。だから、ドルフさんは身動きが取れなかった」


「身動きが取れないんじゃ。後は止めを刺されて終わりだ。どうしたって勝てはしない。よって、俺の負けだ」


 カラカラと笑う様な声音で、ドルフさんは続けた。


「魔術? あんな短時間で?」


 ライラさんは眉を顰めた。


 魔術は通常、詠唱を必要とする。一部の魔術はごく短時間の詠唱で済むものも存在するが、ほとんどの魔術は2から3秒程度の詠唱が必要となる。


 至近距離からの戦闘。普通に考えれば、魔術の詠唱より先に剣を振り切る事ができる距離だ。何かしら策を用意しないと、魔術による無力化などできない距離だろう。変に思われても仕方ない。


「魔術一つで無力化されるほど、俺は軟じゃないと思ってたが……こんなに簡単に無力化されるとはな。こいつ、相当な魔術の使い手だぞ」


「そう……ですか」


 ライラさんはまだ納得できていない様だ。


 魔術には種類がある。『拘束(ホールド)』のような相手に直接かけるタイプの魔術は、相手の抵抗力――だいたいは意志の力によって抵抗される――によって効かない事があるため、100%成功するわけではない。


 それでも並みの相手であれば、高確率で効果を発揮させられるが、慣れた手練れの相手となれば簡単に抵抗され、弾かれる。


 多分、このドルフという男は、結構な手練れなのだろう。それだけに、こんなに簡単に魔術がはまったことに不審がられてしまったのかもしれない。


(まあ、変に言いつくろうにも、詠唱高速化以外小細工はしてないからなぁ……疑われるのは仕方ないといえば、仕方ないのかもしれない)


「とりあえず合格って事で、良いのか?」


「ああ、文句なしの合格だ」


 ドルフさんは大きな声で答えてくれる。けれど、ライラさんはいまだに不満なのか、それに同意するそぶりは見せなかった。

お付き合いいただきありがとうございます。


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