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晩餐会Ⅰ

 大事ともいえる事柄が発覚し大きく慌てたものの、それが他全体に波及するわけでもなく、晩餐会は予定通り進行していた。


 流れていた曲が変わり、誰だか分からない男性が壇上でスピーチをして――……


 そんな風に晩餐会は変わらず進行していた。


「ユリさん、ユリさん」


 しばらくして話すこともなくなり始めた頃、どこからかそう声が掛った。


 誰かと思って振り向くと、そこには少し前に出会ったエーリスが柱の陰から俺を呼んでいた。


 一旦、イーダとヴェルナの傍から離れ、俺はエーリスの元へと向かう。


「お前、何してるんだ……?」


 柱に身体の半分を隠した格好。はたから見たら、明らかに変な奴だ。


「これは……緊張で恥ずかしくなって、つい……」


「緊張? 何にだ?」


「それは……って、僕の事はどうでも良いんだ。それより、賢者様は……近くに居られるのですか?」


 そう言いながら、エーリスは少しずつ柱の陰へと隠れて行った。なんなんだ、こいつは……。


 そう言えば、賢者を紹介することに成ってたっけか。もしかしてそれで緊張してるのか? こいつは。


「ヴェルナなら、そこにいるぞ」


 俺はヴェルナの方を指し示す。


 すると、エーリスは勢いよく姿勢を正し


「ヴェ、ヴェルナ様は、ど、どちらですか?」


 上擦った声を出しながら、辺りを確認した。


「そこ」


 再度指し示す。


「えっと……あちらのお子さんですか?」


 俺の指し示した方向を見て、エーリスは首を傾げる。


「誰がガキじゃ!! 妾はこれでも17じゃ! 立派なレディじゃぞ!!」


 目ざとく聞きつけやがった。ヴェルナがギロリと睨み返してきた。見事に地雷を踏み抜きやがったぞ、こいつ……。


「え? あ、すみません!」


「誰じゃ、この無礼な奴は! お主の知り合いか!」


 ギロリと今度は俺の方を睨みつけてきた。だからなんで、俺の方に飛び火するんだよ……。


「ゆ、ユリさん。こちらの方は、ユリさんの知り合いの方ですか?」


「知り合いっていうか……こいつが、お前の探してたメルカナスの賢者、ヴェルナだぞ」


「え、ええええええええええ!」


 答えを返すと、エーリスは大きな驚きを見せた。


「女性の方とは聞いていましたが……こんな、子供だったとは……」


 カチン。と何かが弾ける様な音を聞いた気がした。お前はなんで2度も同じ地雷を踏み抜くんた……。


 でも、まあ、子供といいたくなる気持ちは良くわかる。ヴェルナは一般的な成人女性と比べれば、結構というかかなり背が低い。子供と表現したくなるのもわからなくはない。うん。言わないけど。


「だから妾は子供ではないと言っているであろうに!! 何なのじゃ、貴様は! 妾に喧嘩でも売っておるのか? 良いじゃろう、消し炭にしてやろうか!?」


「わわわ、ごめんなさい!」


「謝れば良いという問題ではないぞ! いいか――」


「いい加減にしろ! いちいち騒がしいんだよ」


 鋭い手刀がヴェルナの頭を叩く。イーダだ。


「お主……よくも……」


 頭を押さえ涙目になりながら、ヴェルナはイーダを睨み返した。


「そうやっていちいち騒ぐから子供だって言われるんだよ。少しは自覚しろ」


「ぐぬぬぬ、覚えておれよ……」


 イーダの言葉に、ヴェルナは反論できず、小さな歯ぎしりを返す。


「で、誰なんだ。そいつ」


 そして、そんな面倒くさそうなヴェルナを無視し、代わりにイーダが尋ねてきた。


「ああ、こいつは――」


「私は、造営官補佐のエーリス・リストライネンです。賢者様にお会いできて光栄です」


 バッと勢いよく頭を下げる。


「だ、そうだ」


「造営官補佐、なるほどのう。妾が当代賢者のヴェルナ・レイニカイネンじゃ」


 頭を摩りながら顔を上げヴェルナが、挨拶を返す。


「ほ、本物の賢者様ですか?」


「本物以外に何があるというのじゃ」


「ああ、光栄であります!」


 ヴェルナの手を取り握手を交わすと、エーリスは感極まった声を上げた。握手を交わされたヴェルナはというと――エーリスの態度に、若干引き気味である。まあ、あんな風に迫られたら、誰だってああなるよね。




「エーリス。こんな所に居ったのか。急にいなくなるから、探したではないか」


 エーリスとの自己紹介を終えたくらいの頃、エーリスを追って一人の男が俺達の元へとやってきた。


 細身で40過ぎたくらいの男性。その男がエーリスの姿を見つけると、ほっと息を付いた。


「スペンサー様。すみません。つい、知人を見つけてしまったもので……」


「お前という奴は……もう少し慎みを持てと言っているであろうに。ここは、普段顔合わせる様な人たちだけではないのだぞ。気を付けたまえ」


「すみません」


 スペンサーから説教を告げられると、エーリスは小さく反省の色を見せながら頭を下げた。


「慎みだと、言われておるぞ」


「それはあんたに対しても言える事だろ」


 そして、それはなぜかこっちにも飛び火していた。いちいち揉めないでくれないか、面倒だから。


「それで、お前の知り合いとやらは、どなただ?」


「あ、こちらの方々です」


 スペンサーの説教が一通り終わると、今度はこちらへと目を向けてきた。

「ヴェルナ・レイニカイネンじゃ」


 スペンサーの視線を受けると、ヴェルナが素早く紹介を返した。


「レイニカイネン……まさか、賢者様であられますか? し、失礼しました。お見苦しいところをお見せしてしまい。申し訳ありません」


 相手の存在を認めると、スペンサーはすぐさま頭を下げた。


「よい。その程度で怒りはせぬよ。それより、お主は何者なのじゃ?」


「これは失礼しました。私はスペンサー・ソールズベリー。今は造営官を務めさせて頂いております。まさか、賢者様が出席なさっているとは、お会いできて光栄です」


 ゆっくりと自己紹介を告げると、スペンサーは頭を下げ握手を求めてきた。ヴェルナはそれに握手を返す。


「なあ、造営官ってなんだ?」


 そんな二人のやり取りを見て、気になったことを小さくヴェルナへと尋ねる。


「造営官というのは、政務官の一つじゃ。主に公共施設の管理運営、設営などをしておる。そういう役職じゃ」


「なるほど」


 ヴェルナの説明を聞き、納得する。やはり、一定の社会的地位が有るだけに、この手の事は詳しいみたいだ。


「そう言えば、賢者様。聞きましたぞ。レイニカイネンの遺産を一つ、復元に成功させたそうではないですか。大変すばらしい事です。おめでとうございます」


「なに、そう褒めるでない。父上や爺上が研究を続けてきたものじゃ、妾だけの力ではない」


「ですが、これでまた一歩、失われた技術の解明が進んだのです。それだけ大きな一歩ではありませんか。大変喜ばしい」


 スペンサーは大仰しく褒めたたえると、その後すぐに表情を改めた。


「それで、その物の普及事業は、我々に任せていただけますかな?」


「無理じゃな」


「なぜです?」


「復元に成功したと言っても、物が古すぎる。詳しい解析やテスト、実験をするには、パーツのほとんどを作り直さなければならん。普及はその先じゃ。じゃから、まだ何とも言えぬ。

 まあ、お主等がそれらにかかる費用すべて出してくれるというのであれば……考えなくもないが……どうなのじゃ?」


「それは……厳しいですな。我々の方はそれ程資金が潤沢ではないのでな」


「なら、お主等が望む様な答えは返せんぬ」


「そうですか、それは残念です」


 ヴェルナの話を聞くと、スペンサーは肩をすくめた。


「何の話だ?」


「先日動かした魔導機関の話じゃよ。あれは金になるかもしれない、そう思ってそれの関連事業なんかを優先的に任してみぬかと聞いてきたのじゃよ。個人ではどうやっても量産化などは出来ぬからな」


「良いのか? 断って」


「どこかしらに任せなければならないのは確かじゃが、あれはまだどれ程のものか分かっておらぬ。どれくらいの能力を持っていて、何に使用できるかはこれからじゃろ? それが分からない段階で持っていかれるのは、安く買いたたかれるのが落ちじゃ。それは避けたい」


「なるほどね」


「じゃが、それより本当に良かったのか?」


「何が?」


「その……あれを完全に妾の物にしてしまって……。あれを作ったのはお主じゃろ? なら――」


 先日、俺はヴェルナの目の前に、魔導機関を完全な形で復元させた。それが、その後どうなったかというと、それはそのままヴェルナの物という事に成った。というかした。


 だが、作成者は俺であり、復元したのも結局は俺だ、なのに金になるかもしれない魔動機関をヴェルナが貰うことに対しヴェルナは強い引け目を感じているようだった。


「構わない。もともと作って放置してたものだし、もうとっくに実用化され、普及してる物だと思ってたから。そもそも、あれはアルヴィに譲ってたものだし、それを引き継いだのはヴェルナだ。だから、これでいいんだよ」


「そうか、すまないな。ありがとう」


 俺の回答を聞くと、ヴェルナは目を閉じ感謝の言葉返してきた。




「ヴェルナ様が出席なされていると聞いたのですが、こちらですか?」


「おお、こっちだ、こっち」


「おお、これはこれはヴェルナ様。お会いできて光栄です」


 スペンサーと挨拶を交わし、しばらく歓談すると、そこから次々と人が人を呼び、人が集まり出した。


 ヴェルナは自分が賢者であることや、現在の賢者の立場を低く卑下していたけれど、今の状況を見るに、賢者の影響力というのは、まだまだ大きいものなのだと思えた。


 そんな人の輪の中で、ヴェルナのついでとばかりに注目を浴びてしまったイーダが、無理な作り笑いを浮かべ何かを耐えるように強く手を握りしめていたのは、見なかったことにしておこう。

お付き合いいただきありがとうございます。


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