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エルフの大使

   ――Another Vision――


「お初にお目にかかります。私はエヴァリーズの大使エリンディス・エレニリースと申します。お会いできたことを幸運に思います。賢者レイニカイネン様」


 金細工のアクセサリーで両目を覆ったエルフが、可憐な所作で頭を下げた。


「ヴェルナ・レイニカイネンじゃ」


 雰囲気に流され、自己紹介を返す。


 なぜ、エルフがヴェルナの元をわざわざ訪ねて来るのか? ヴェルナにエルフとの繋がりもなければ、父や祖父にもそういった繋がりは無かったはずだ。なのにわざわざ……少しだけ困惑してしまう。


「当代の賢者様は、お若いのですね」


 顔を上げるとエリンディスと名乗ったエルフは、クスリと小さく笑った。


「不服か?」


「いえ。先代のヴァルト様はもっと高齢の方だったので、つい」


「ヴァルトは祖父で、先々代じゃ」


「あら。それは失礼しました」


 訂正を返すと、エリンディスは深く謝罪を返した。


「先々代という事は、先代様は――」


「もうなくなっておる。3年ほど前にな」


「そうですか……ヴァルト様のお子様となれば、まだ若かったと記憶していますのに」


「言うて40を超えておる。人では決して若くなどはない」


「そう……ですね」


 深く悲しそうな表情返してきた。


 父や祖父の話。少しは落ち着いてきたとはいえ、まだまだ触れられたくはない話だ。それだけに、少し不快感を持ったが、エリンディスの悲しそうな表情を見ると、強く言い返せなくなる。


「お主は爺上――ヴァルトと知り合いだったのか?」


「はい。とても良くしてくださいました」


「そうか……」


 少しだけ首を傾げる。


 エルフはメルカナスでは珍しい。それだけに、そんなエルフと繋がりが有ったのなら、祖父は少しくらいその事を話してくれていそうなものなのに、ヴェルナはそのような話を一切耳にしたことが無かった。


「こちらから無理を言っての、個人的な関係だったので、おそらく話せなかったのでしょう。私との事を、外交に持ち込まれるのは困りましたから」


「そうじゃったか」


 エルフとの関係。エルフは排他的で、人の国と深く良好な関係を築いている所は殆どない。その上、エルフは独自の高度な技術を保有しており、エルフの暮らす土地は肥沃な土地である事が多いため、それらは人にとって大きな利となる。それ故、エルフの国との国境辺りでは、何かと問題が絶えないと聞く。それらを避けるために口外しなかったというのは頷ける。


「それで、お主はなぜ妾を尋ねてきたのじゃ?」


 祖父との関係はなんとなく理解できた。だからといってわざわざ、ヴェルナの元へ尋ねて来る理由は、ちょっと思い浮かばなかった。


「まずは、ヴァルト様、並びにそのご子息様に付いて、お悔やみ申し上げます。知らなかったとはいえ、葬儀に参列できず、申し訳ありません」


「それは良い。父上も爺上も、葬儀は親族のみで執り行った。お主が来なかったことなど、責めはせぬ」


「そうでしたか」


「それで、本題はなんじゃ?」


「そうですね。それは貴女様とお近づきに成りたかったから。ですかね」


「はぁ?」


 すっと、エリンディスが一歩前へ出ると、ヴェルナへと手を差し出してきた。


「私と、お友達に成りませんか?」


 そして、ニッコリと笑った。


「なぜ、妾と?」


 差し出された手を見返し、問い返す。


「忘れられない想いを、繋ぎとめるために、ですかね。身勝手な申し出で申し訳ありません」


「どういうことじゃ?」


「それはいずれ貴女にも話すかもしれません。ですが、個人的な話なので、今はすみません」


 ニコリと笑い返してくる。そこに、悪意などは見られなかった。


 小さく息を付く。いまだに相手の事がよく分からない。けど、エルフで他国の大使。そんな相手の申し出を無下にできるはずもなく、仕方なく握手を返した。


「ありがとうございます」




 エリンディス達エルフが退室し、しばらくすると日が暮れ始め、外の空は茜色に変わり始める。


 そろそろ晩餐会が始まる時間だ。


 そんな目的の時間がもう少しと迫った頃、城内の探索に出ていたユリが控え室へと戻ってきた。


「遅かったではないか。何か面白いものでも見つけなのか?」


 扉を開き戻ってきたユリに、ヴェルナはそう声をかけた。するとユリは小さく苦笑いを返した。


「面白いもの……というか、変な奴に絡まれた……」


「何じゃ、それは」


 答えを返したユリからは、どことなく疲れた様子が見て取れた。


「まあ、でも。結構楽しめたかな」


「そうか、ならよかった」


 一度は疲れた様子を見せたものの、どこか晴れやかな表情を見せたユリに、ヴェルナは少し安心する。


「師匠よ。一つ聞きたいのじゃが、良いか?」


 そして、先ほどから気になっていた事を問いかける。


「なんだ?」


「お主に、エルフの知り合いなんかはおるか?」


 エリンディス。先ほどのエルフについてだ。彼女がヴェルナとの繋がりに拘った理由が結局よくわからなかった。祖父との繋がりもいまいちピンとこない。なら、なぜなのか。少しだけ気になってしまった。


 エルフは非常に長寿な種で知られる。100年以上は普通に生きる。なら、彼女のこだわりにユリが関係してるのではないか? その可能性が少しだけあった。


「いなくはないけど……なんでだ?」


「なら、エリンディスという、エルフを知っておるか?」


「エリンディス……? 悪い。そんな名前のエルフには覚えがないな。なんでだ?」


「いや、知らないならそれで良い」


「そ、そうか?」

お付き合いいただきありがとうございます。


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