戦闘技術
「ふぁ~ん」
欠伸を一つ噛み潰す。
明け方の涼しい風が吹く中、俺は冒険者ギルドの裏手に併設された練兵場に立っていた。
目の前で見慣れない不揃いな鎧に身を包んだクレアが、軽い運動を行い、身体を解していた。
俺はクレアに呼び出され、この時間、この場所に来ていた。
「で、何をするんだ?」
目の前の俺を呼び出したクレアに問いかける。
ここに呼び出された目的は告げられていない。けど、まあ、装備を一式持って来いって事だったから、大方予想は出来るけど……。
「少し、手合わせをお願いします」
一通り準備運動を済ませると、クレアはそう告げた。
「予想通り……か。分かったよ」
開始に合図が告げられると、クレアが一気に距離を詰めてくる。
「や!」
気迫の籠った掛け声と共に、鋭い一刀が繰り出される。
俺はそれを素早く見切り、避ける。
斬撃が空を切る。クレアはそれを見て、俺を睨みつけると、二撃目、三撃目と攻撃を繰り出してくる。相変わらず鋭い。だが、力が籠っているだけに、攻撃と攻撃の間には溜があり、不正確さが残る。
当たれば大ダメージを負う事に成るが、避けるのは容易い。
俺はクレアの連撃を軽く避けて見せる。
「くっ」
簡単に避けられてしまった事が悔しかったのか、クレアの歯噛みする姿が目に映る。
一瞬隙が生まれた。
連撃が続けられなかったのか、剣を振り抜いたクレアに、少しばかりの隙が見えた。
俺はその隙を見逃すことなく、素早く一刀を切り上げる。
カチン。極限まで加速した曲刀の刃が、クレアの首元を多く金属プレートにぶつかり、小さく火花を散らすとそこで止まる。
そのまま振り抜いていたのなら、首を切り落としていたであろう一撃。必殺の一撃。
勝負あり、だ。
「……まいりました」
クレアは負けを認めると、力が抜けたのか、その場に崩れ落ちるようにして座り込んだ。
「どういたしまして?」
剣を下げる。
これでよかったのだろうか? とりあえず、言われた通り相手をしてみた。けど、こんなあっさり終わらせて良かったのか?
「強いですね。やっぱり。全然勝てる気がしなかった」
溜め息を零すように、そんな誉め言葉を告げられた。
「どうも……ありがとう」
素直に喜べない。ちょっとやり過ぎたのでは無いかと不安になる。
知らない相手なら、全力で行ってもよかっただろう。けど、見知った相手、それもPTメンバー相手なら事象が少し違ってくる。こうも力の差を見せつけてしまっては、それで心をへし折ってしまうかもしれない。それで冒険者をやめでもされてしまったら、折角のPTが成り立たなくなってしまう。それは非常に困る。
そんな不安から、再びクレアへと目を向けると、クレアは別段気にしている様子はなかった。
ちょっとほっとする。
クレアが一度息を付く。そして、表情を改めると、俺の方へと向き直った。
「ユリさん。お願いがあります」
「な、なに?」
偉くまじめなクレアの表情に、少し気圧されてしまう。
「私に、戦い方を教えてください」
強く、そう宣言すると共にクレアは頭を下げた。
「戦い方?」
問い返す。
「はい。剣術やその他の戦い方です。私は、今よりもっと強くなりたい。いえ、前へ進むためには、もっと強くならないといけないんです。だから……」
「それで、俺に、か……」
「すみません。ユリさん以外に、強い人を知らないので……」
「なるほどね」
ポリポリと頭を掻き、悩む。
『師匠。妾を、お主の弟子にしてくれ!』
『妾は、賢者としてまだまだ未熟じゃ。じゃが、妾は賢者として、この地位を守っていかなければならぬ。じゃから、お願いじゃ――』
どこかで見た光景。先日のヴェルナの申し出の時の事が思い出される。あの時と似ている。
正直言うと、この手の話は受けたくない。理由は単純に面倒だから。
けど、ヴェルナの時は、ヴェルナが俺の名を継ぐ立場の人間って事で、無視できなかった。だから、地下迷宮の探索に協力する――つまりPTに入ってもらうという条件付きで、同意した。
けど、クレアの申し出にはそういった、無視できない理由などはない。しいて言えば同じPTのメンバーだから位だ。
同じPTメンバーなら、クレアの能力向上は自分にとってプラスになるのではないかとは思うけれど――
少し考え、それから首を横に振った。
「ごめん。無理だ」
「え……」
答えを返すと、クレアはひどくショックを受けた様な反応を返した。
「それは……私じゃ、見込みが無いって事ですか?」
落ち込み、少し怯えたような表情で尋ね返してきた。
そんな表情を向けられると、ちょっと良心が痛む。でも、無理なものは無理なんだ。許してくれ……。
「ああ、違う。能力的な事じゃなくて、そもそも戦闘スタイルが違い過ぎるから、俺じゃあ教えられる事が無いって事。だから、無理」
「戦闘スタイル? 同じ戦士じゃないんですか?」
いや、俺、戦士じゃねえから! て突っ込みを入れたくなる。けど、まあ、今は剣をメインにしてるから、そう取られるか。
「クレアは長剣を両手で持って思い切り振り抜く戦い方――強打のスキルを中心とした戦い方をするよね? 多分、両手剣用のスタイルが基礎となっているのかな?」
地面に突き刺さったクレアの剣に目を向け、尋ねる。
なんの変哲もない、オーソドックな形の長剣。扱いやすく、様々な戦闘スタイルでも用いる事が出来る。それ故、それだけでは戦い方のすべては判断しにくい。
「良くわかりましたね」
「そうか。じゃあ、やっぱりスタイルが違い過ぎる」
「?」
クレアは首を傾げた。
「ユリさんも両手剣を使っていますよね。なのに、スタイルが違うんですか?」
クレアが俺の手にしている曲刀へと目を向ける。サイズが俺の背の高さほどある、大振りの曲刀。片手で扱うにはあまりにも大きすぎる。
「ああ、これ? 持ってみな」
曲刀を差し出す。
それを、クレアは一度首を傾げてから手に取る。そして、手に取ると大きな驚きを見せた。
「軽い」
「エルフ族の曲刀。エルフ達が作り出した、特殊な曲刀なんだよ。それ。
エルフ達の戦い方はちょっと特殊だから、その武器もそれ用に特化している。両手用の武器だけど、他の両手用の武器とは全然違うんだ」
そもそも俺は、その両手用の武器であるこの曲刀を片手で扱っている。両手用の戦闘スタイルもあったもんじゃない。
「そう、だったんですか」
「エルフの戦い方は、スピードを重視した戦い方だからね。イーダの斥候の戦い方にちょっと似てる。だから、クレアみたいな純粋な威力を重視した戦い方とはかけ離れてるんだよ」
「それじゃあ、確かに、教える事は難しいですね」
「そういう事」
説明を終えると、納得したのか、クレアは軽く息を付いた。
「戦い方……難しいですね」
「そうだな。人にはそれぞれ合った戦い方がある。単純に強い人の真似をすればいいってわけじゃないからな」
「ほんと、難しいです」
そう零すとクレアは少し思いつめた様に遠くを眺め、それから気持ちを落ち着けるように、大きく息を吐いた。
「一つ気になったのですが、ユリさんはなんでエルフの武器を使った戦い方してるんですか」
「え? あ~」
話せば当然疑問に思う事だろう。
理由としては単純にそれが性に合っているからというものだが、問題はたぶんそこじゃない。
エルフ自体はそこまで珍しい種族ではない。だが、エルフは非常に排他的であり、自身の伝統や知識などを強く守ろうとする。それ故、彼らの国に立ち入ろうとする他者を必ずと言っていいほど排斥し、エルフ達の持つ知識や技術などは殆ど外へと出回らないようにする。エルフの国の外で生きる者も、それらの話をほとんどしない。
故に、エルフの武器を扱い、エルフの戦い方を基礎とする俺の戦闘スタイルは非常に奇妙なものと言える。
「実は昔、数年ほどエルフの国で暮らしてたことが有ったんだ。その時に少し習ったんだよ。今の戦い方はそれがベースに成ってる」
「エルフの里に……すごいですね」
「なんでそんな所にって、今思うと不思議だけどな。今じゃ、あそこには入れて貰えないだろうし」
俺がエルフの国で暮らしていたのは、俺がまだ育ての親である師匠の元で過ごしていた頃の事だ。もちろん、師匠は人間だった。それなのに、エルフの里で暮らしていた事を考えると、本当に不思議だ。
話の流れで、かつて過ごしたエルフの国の光景が思い出され非常に懐かしい気持ちになる。
100年の時が立ち、あの国はどう変わったのだろうか? つい、そんな事を思った。
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