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地上で見たもの

 長い長い暗闇を抜けると、鋭い光が差し込んできて、俺の視界を白く焼いた。


 少し時間を置くと次第に目が慣れ始める。すると白く焼けた視界の先に青々とした空が見えた。


「やっと帰ってきた……か」


 何処までも何処までも続いていそうな青く澄みきった空。そんな青空を見上げると、押しつぶされそうな閉塞感から解放され、気持ちよさと同時に、帰ってきたのだと安心感を覚える。


 地下迷宮(アンダー・メイズ)の中には青空は無い。一部人工的に作り出された太陽の様な光源があるが、どこもかしこも壁や天井があり、こういった開放感は無い。それだけに、今は見える青空が特別なものに見えた。


「ああ~疲れた。さすがに寝たい」


 帰ってきた。そう実感できると、今まで忘れていたかのような疲労感みたいなものが、一気に思い出される。


 ここへ来るまでの間、帰ったらまずするべき事なんかを思い描いていたが、それらすべてがどうでも良く思えてくる。


「まあいいや。ひと眠りしよう。まずはそれからだ」


 一旦すべてを忘れ、欲望に身を任せる。


 地下迷宮(アンダー・メイズ)への入り口――地下への門(ゲート)の傍には、昔から宿屋がある。冒険者用の宿だ。


 冒険者用の宿と聞くと、安価な宿屋に思えるが、実はそんなことは無い。


 冒険者の宿が、基本的には安宿であるのは確かにそうであるが、冒険者中には稼ぎの良い冒険者もいるため、それ用の高級な部屋もある場合が多いのだ。そこなら、今までの疲れを取るには十分だろう。


 のろのろとした足取りで、宿屋へと向かい、すぐさま一番いい部屋を借りる。そして、その部屋に辿り着くと直ぐに、備え付けのベッドへと飛びこんだ。


 久々のふかふかなベッド。とても気持ちいい。


「最高だ~……」


 柔らかいベッドに包まれ、微睡へと落ちていった。




 一時の幸福。それが終われば、また変わらぬ日常が返ってくる。


 辛い事なんかも多くある生活だけど、それでも俺はこの生活が好きだった。


 また、そんな冒険者生活が再び幕を開ける。




 この時の俺は、いつものようにそう思っていた。




 ほぼ丸一日眠り、目を覚ますと、俺は本来やるべき事を忘れ、再び地下迷宮へと向かってしまった。


 職業病とでも言うのだろうか? 長い時間をかけて身体に染みついたその行動ルーチンが、俺を再びそこへと向かわせてしまっていた。


 まあ、それならそれで別にいい。国への報告は後回しで、先に調べられる事は調べ、それから報告すればいい。


 必要な物は、途中で出会った冒険者から購入すれば問題ない。多分。だから別にいい。


 そう、思っていたのだ―――――


 ガシャン。


「えっと……これは?」


 地下への門(ゲート)の前に立つと、俺はそこを守る衛兵に呼び止められてしまった。あれ? 俺、なんかしただろうか?


「貴様、許可なくここへの立ち入ることは禁じられている」


 ちょっときつめな言葉で、衛兵がそう告げてくる。


「許可? 許可なら貰ってますよ。ちゃんと国から」


「許可をもらっている? ならばその許可証を見せなさい」


「分かったよ」


 ごぞごそと許可証を探す。あれ? 許可証なんてあったっけ? いまさらながらそんなことを思う。そういえば今まで許可証の提示なんて求められた覚えがない……。


 まあ、宮廷魔導師の印章を見せればそれで大丈夫だろう。


「これでいいか?」


 そう言って宮廷魔導師の印章を見せる。すると、衛兵は眉を顰めた。


「なんだね、これは? ギルドの証明章ですら無いじゃないか」


「ギルドの証明章? まあいいや。俺はちゃんと国から許可をもらっている。だから、通してくれ」


「ダメだ、ダメだ。許可を得てないものを通すわけにはいかない。ちゃんと許可を取ってからにしてくれ」


「だから、国から許可は貰っていると言ってるだろ?」


「国ってどこの国だ? ここはギルドによる管理がなされていている。国から許可が出ているからといって、ギルドから許可が出てなければ入れない。そういう決まりだっただろ」


 はぁ? 国から許可が出てても、ギルドの許可がないと入れない?? 一体どうなってるんだ? わけがわからないぞ……。ここはメルカナス直轄管理だったはずだろ! てか、ギルドってなんだよ!


「ほら、分かったら、とっとと諦めてくれ。俺達だって忙しいんだ」


「……分かったよ」


 意味が分からなすぎる。とりあえず状況が分からないので、一端諦める事にする。


 俺が潜っている間に、管理体制に変更でもあったのか?


 地下迷宮の中では連絡が取れないので、それを知らないのは無理もない。とりあえず、何がどう変わったのか、確認しておかないといけなそうだ。


 ふと足を止めて、街を見返してみた。寝ぼけていたのだろう、ここまでの街並みを、俺はほとんど記憶していなかった。


 地下への門(ゲート)へと至るまでの大通り。地下迷宮へと通い詰めた日々で見慣れていた街並み。今目の前に広がる景色は、記憶にあるその光景をほんのわずかながらに残したながら、それとは別の景色が広がっていた。


「何だこれ……すげぇ変わってやがる……」


 ほとんど見慣れない景色と言って差し支えの無い光景を前に、俺はほのかな不安を覚えるのだった。

お付き合いいただきありがとうございます。


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