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呼びかけ

   ――Another Vision――


「うらあああああああ!!」


 ガキーン! 剣戟音が響き渡り、振り下ろした戦斧がゴーレムの装甲を叩くと、フィルマンの身体は弾き返される。


『ゴオオオオ――!』


 そして、飛んでいったフィルマンを目にすると、ゴーレムが腕を振り上げ、襲い掛かってきた。


「クッソ!」


 ゴーレムの攻撃を見ると、フィルマンはすぐさま戦斧を掲げ、それを盾にするようにしてゴーレムの攻撃を受け止める。


 ガキーン!


「がっ……!」


 凄まじい衝撃がフィルマンの身体を襲い、攻撃を受け止めた腕と足が悲鳴を上げる。


 並みの攻撃ではない。鍛え抜かれた身体に、魔術の強化を施したフィルマンの身体。それが直接ではないにしろ、攻撃を受け止めただけで、耐えられそうもない程のダメージを受ける。尋常じゃないパワーだ。


「「おおおおおお!」」


 遠くの方で、冒険者達が上げる鬨の声が聞こが届く。空には、魔術師達の魔術による閃光が瞬く。


 多くの冒険者達の頑張りにより、状況は好転し始めている。後は、最大の脅威である目の前のゴーレムをどうにかするだけだった。


「クソが……!」


 だが、フィルマンが果敢に挑んでいるにもかかわらず、ゴーレムは無傷であり、撃破の目処が立っていなかった。


「時間を稼げっていったって……いったいどこまで待たせるつもりだ!」


 状況は好転しつつある。それだけに、最大の障害が排除できない事に苛立ちを覚えたのだった。


   ――Another Vision end――




「イーダ……」


「私は……今、どうなっているんだ?」


 少し虚ろな表情を浮かべたイーダが、俺を見返してくる。今は、俺に対する敵対心は無い――消させてもらった。


「今は、俺の精神支配下にある。完全な自由な思考って言うのは……できないと思うけど。それでも、最低限の自我はあると思う」


「私は、あんたの言いなりってわけか……」


 説明を返すと、イーダはカラカラと笑いを返した。思考の一部を奪われ、何を考えているか分からない虚ろな表情。そんな表情を浮かべたままの姿は、とても見ていられるものではなかった。


「何で、私を殺さなかったんだ?」


 イーダから問いが返ってくる。それは、出来れば耳にしたくない問いだった。


「殺せる訳ないだろ。なんで殺さなくちゃならない」


「私は人殺しだ。そんな人間。生きていていい訳が無いだろ?」


「望んでやったわけじゃない。非難される事じゃない」


「変わらないよ。結局私は、自分で自分を止められない。また何処かで誰かを殺す……次はあんたかもしれないし、クレアかもしれない。もう、知っている誰かを殺すのは嫌なんだ。だから……殺してくれ」


「…………」


 応えられるはずのない願いが届けられた。


 生きている限り、望まぬ形で傍に居る誰かの命を奪う可能性がある。そんな状態なら、死んだ方がましだと考えるのは、仕方のない事なのかもしれない。けど、だからと言って、こちらが近しい誰かの死を受け入れられるわけではない。


「それは……できない」


「何でだよ……こうするしかないのに……なんでダメなんだ?」


「これしか方法が無い訳じゃない。もっといい方法があるかもしれない。それなのに、それに選択する事は出来ない」


「無理だよ。これ以外の方法なんてない」


「なぜそう言える?」


「私が何もしてこなかった訳ないだろ? 色々考えて、試してきたさ。けど、何も……どうにもできなかった。あんたと同じ魔術師にも頼ったさ、けど、私に掛けられた呪いを消す事なんて出来なった。これしかないんだよ」


「そんなの……」


 否定を返したかった。だが、魔術師としての性が、不確定な事柄を確定的に口にすることが躊躇われ、その先を口にすることが出来なかった。


「それに、もう私に居場所なんてない」


「そんな事はない。事情を話せば、クレアもヴェルナも受け入れてくれるはずだ」


「けど、それだけじゃダメだろ? 冒険者って言ったって、自分達だけの社会じゃない。他の冒険者との付き合いだってある。それこそ、フォレストガーデンなんかもある。そこに、私を連れて入れるのか? 他の冒険者を襲い、殺した私を……受け入れてくれるのか?」


「それは……」


 怒りに満ちフィルマンの瞳が思い出される。報復と言い、奴はクレアに戦斧を振り下ろした。それは、ごく一面的なことかもしれない。けど、もしこのまま、またイーダが他の誰かを殺す事があったとして、そこに抗えない事情があったからと言って、他の冒険者達が受け入れてくれるだろうか? それはおそらくあり得ない。きっと、フィルマンの様に、俺達に敵意を向けてくるだろう。そんな状況を、果たして容認できるだろうか? 少なくとも俺は、そんな事を望まない。


「だからさ……もう、私に構うのはやめにしてくれ。もう――」


「俺が止める」


 今、俺が出せる答えは、これだけだった。


「止めるって、何を?」


「望まない命令に逆らえないのなら、俺がそれを止めさせる。それなら、もう、誰かを殺すなんて事、しなくていいだろ?」


「だから、それは出来ないって……」


「出来る。例え、制約の魔術が解けなくても、今みたいに魔術で抑え込めば、望まない事をしなければならないなんて事は避けられる。だから……」


「それで、納得しろって事か……」


「ああ、だから、戻ってこい。イーダ」

お付き合いいただきありがとうございます。


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