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反転

   ――Another Vision――


「た、助けてくれ~……」


「く、来るなぁああああ!」


「わああああああ!」


 フォレストガーデンの中心地は、阿鼻叫喚の地獄絵図になりつつあった。


 ゴーレムからの強力な一撃。それにより、出来始めていた陣形が崩壊した。そこに集まった冒険者に向けて魔獣達が群がり始め、一気に状況が悪化してしまったのだ。


「慌てるな! 冷静に対処すれば問題ない! 気持ちを落ち着かせろ!」


 クレッグが手にした長弓(ロング・ボウ)を放ち、魔獣の一体を打ち抜きながら、混乱の渦にある冒険者に呼びかける。だが、その声は冒険者の耳の届くことなく、虚しく響き渡った。


「クッソ……!」


 冒険者達は恐怖に飲まれ、完全に理性を失い始めていた。こうなってしまっては、どうやっても統率を取る事が出来ない。状況は最悪と言えた。


「どうすれば……」


 ふと頭の片隅に、前日の――かつて自分が管理していたフォレストガーデンの情景が思い出される。多くの死者を出した失態。あんな事態にはさせまいと思っていたが、結局同じ末路を辿っていた。このままでは同じ結末を迎えてしまう。どうにかしなければと焦りが募る。そんな時だった。


『クレッグ。聞こえるか?』


「フィルマンか!?」


 冒険者の叫び声が響き渡る中、とてもクリアな声が、頭に響いた。フィルマンの声だ。


「フィルマン! どこに居る?!」


 混乱したこの状況。それを打開するためには、能力のある人間が道を切り開き、希望を見せる事が手っ取り早い。クレッグはフィルマンの姿を探した。


『悪いが念話(テレパシー)だ。その場に俺はいない』


「どういうことだ?」


『話すと長くなるから端的に告げる。今から、何人かと念話(テレパシー)のパスを繋ぐ。お前はそれを利用して、冒険者達をまとめ統率し直してくれ』


 手早く支持が飛んでくる。


 混乱し、上手く言葉が交わせない状況。その状況で、この念話による会話はありがたい。だが――


「悪いが、それは出来ない」


『なぜだ?』


「混乱が酷くて、まともに言葉を聞いてくれない。それをどうにかしなければ状況は変わらない。だから――」


『なら、それを沈めればいいのですね』


 フィルマンとの会話に、唐突に別の声が割り込んできた。女性の声だ。エヴェリーナとは違う、聞いた事無い声。その声が頭に響く――


 上空で光が弾けた。


 フォレストガーデンのクレッグ達が立ち位置から後方当たりの空で、その光は弾け散らばった光がフォレストガーデン全体を降り注いだ。


 ふと、心の中にあった焦りや不安、そう言った雑念的なものが薄れていく。


「これは……」


『一時的なものですが、これで少しは場が落ち着くでしょう。後の事はお願いします』


「なるほど」


 誰だか知らないが、今のは助かる。


 先ほどの光は『平静(カーム)』と呼ばれる、神官が扱う奇跡の一つだ。恐怖や不安などの心の乱れを取り除き、精神を安定させる。そういう奇跡だ。これにより、一時的にだが、この場の混乱が収まる。これで再び、こちらの声が届く様になる。


『いけそうか?』


 再びフィルマンから確認の言葉が返ってくる。それにクレッグは――


「ああ、問題なさそうだ」


 今度は同意を返した。




   *   *   *




「ふう~――……」


 フィルマンが深く息を吐き、ゆっくりと視線を上げる。視線の先には、あのゴーレムが建物崩しながら突き進む姿が映った。


 屋根の上から見下ろす街路には、幾つもの魔獣の影は駆け抜けていた。今だ、魔獣の数が減る気配を見せない。


 混乱していた状況は、ヴェルナの仲間の神官のおかげで大分おさまりを見せて来ていた。この状況であるのなら、無理に雑魚に構う必要もない。あの魔獣は無視でいい。


 となると、残るは眼前のあのゴーレムだ。


「奴は倒す必要はないと言ったが……」


 ゆっくりと戦斧を構える。構えた戦斧の刃に目を向けると、はっきりと亀裂が目に入った。そう長くは持ちそうにない。


「さて、どこまで待ってくれるかね……」


 戦斧の刃から視線を話すと、再びゴーレムへと向けた。そして、しっかりとその姿を見せると、


「さて、第二ラウンド開始だ」


 フィルマンは大きく跳躍し、ゴーレムへと向けて真っ直ぐと走り出した。

お付き合いいただきありがとうございます。


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