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協力

   ――Another Vision――


「邪魔だ! どけぇ!」


 勢いよく戦斧を振り、目の前の魔獣を両断する。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 息が上がる。気が付くと、フィルマンはあのゴーレムと離れた位置で、地上の魔獣達に囲まれ孤立していた。


 破壊された防壁から地上の魔獣が流れ込み、それにより場が乱れ、気が付くとこの状況に追い込まれていた。


 このままではまずい。統率が取れていない状態で、さらに危険なゴーレムが野放しな状態。このままではすぐに壊滅してしまう。


「エヴェリーナ!」


 フィルマンは、こういう状況で頼りになる仲間の名を叫び、視線を上げた。


 エヴェリーナは魔術を使い戦場を駆け回る事が出来る。こういう場面ではその足回りが役に立つ。それを使えば、すぐにでも状況を立て直せる。そう、思えた。だが――


「くっ!」


 上空に居たエヴェリーナの状況は、あまり良いものではなかった。エヴェリーナは上空に舞う魔獣達に囲まれ、攻撃を受けていた。


 エヴェリーナは魔術師だ。魔術師は魔術を行使するために重い装備が付けられない。それ故防御が薄く、また詠唱時間による攻撃の遅さから、攻撃を集中されると何もできなくなるという弱点がある。あの状況では、エヴェリーナは敵の攻撃を避け続けるしかなかった。


「援護は……ダメか」


 エヴェリーナが動けないのなら、動けるようにすればいい。そう思うが、それも難しい状況にあった。


 エヴェリーナは空に居る。そんな場所に、助けに行ける人間など限られている。この場には居ない。居たとしても、どうやってその人物にそれを伝えるのか? その術がなかった。


「クッソ!」


 悪態が零れる。


 状況は悪化していく。それを何とかしなければと思うが、それを行う手立てがない。


『グルガアアア!』


 そんな中、こちらの事情など知った事かという具合に、魔獣達がフィルマンへと襲い掛かる。


「どけよ! 雑魚が!」


 それをフィルマンは戦斧を振るい薙ぎ倒す。


 いまだ魔獣の数が減る様子が見えない。ゴーレムでさえままならないのに、他の魔獣の対処すら出来るか分からなくなっていた。このままではまずい。焦りが募る。そんな時だった。



『突然ですが、よろしいでしょうか?』



「なんだ!?」


 唐突に声が響いた。知らない声だ。それもただ耳に届いたのではなく、頭の中に響くようなクリアな声だ。


『これは……念話(テレパシー)?』


 同時に、別の声も響いた。こちらは聞きなれた声。エヴェリーナの声だ。


『強引にですが、パスを繋がせていただきました。今の状況では、この方がやり取りが楽かと思いまして……唐突にすみません』


 すぐに、謝罪が返ってくる。それ自体は別にいい、それよりもだ。


「お前は誰だ? 何の目的がある?」


 唐突な介入。知らない相手からでは、これに不信感を持つしかない。だが、それには思いがけないところから返事が返ってきた。


『済まぬな。この方が話しやすいと、妾から頼んだのじゃ。驚かずにいてくれると助かる』


 聞き覚えのある声だった。この声は確か……賢者の――ヴェルナの声だ。


「賢者か、何の用だ」


『こんな状況じゃ、決まっておろう。協力の要請じゃよ』


「協力だと?」


『そうじゃ。このままではやられるだけじゃろ? それは妾達も望むところでは無い。じゃから、協力せぬか?』


「いったい何の用かと思えば……何をさせるつもりだ?」


『指揮権をすべてよこせとは言わぬ。じゃが、少し妾達に耳を貸してほしい』


「何か策があるのか?」


『策と呼べるほどのものではないが、あるにはある――』


「言ってみろ」


『時間を稼いでほしい。これ以上被害を広げる訳には否ぬであろう?』


「はぁ?」


 これだけの事をしたのだからと、期待して答えを待ってみたものの、帰ってきた答えは当たり障りのないものだった。


「時間を稼いでなんになる? それで何が出来るって言うんだ?」


 苛立ちを覚える。時間を稼いだところでどうにかなるなら、最初からやっている。そもそも、この状況ではそれすらまともにできない。


『状況が厳しいのはこちらも理解しておる。じゃから、そのための協力は最大限行う。混乱した状況を立て直すため、念話によるパスを繋ぐ。それで状況を立て直してほしい。その上で、あのゴーレムの足止めを行ってほしいという事じゃ』


「なるほどな。だが、それで結局どうなる? ゴーレムを破壊する術はあるのか?」


『ある』


「へぇ。はっきり言うじゃねぇか。どうするつもりだ?」


『それに付いては詳しくは話せぬ。じゃが、方法はある。が、今すぐどうこうは出来ぬ。じゃから、時間を稼いでほしい』


「…………」


 返ってきた答え。それに、フィルマンはしばしの沈黙を返した。


 目下最大の脅威はあのゴーレムにある。それに付いて彼らは倒す術があると言った。それに任せていいかどうか? その判断に迷っていた。


 それに、それ以外の部分で問題があった。


「周りの雑魚をどうする? いまだに数が増え続け、減る気配がない。どうにかする術があるのか?」


『それに付いては問題ない。そのまま殲滅し続ければ、いずれ居なくなる。この場に居る迷宮獣達をどうにかするくらいは、お主等でも出来るであろう?』


「倒す事くらいは出来る。だが、それで消えるというのはどういうことだ? どこまでも開いてくる相手を潰したとところでなんになる?」


『それに付いては、正確な数に付いては確認できておらぬが、迷宮獣の数はせいぜい100体程度が上限じゃ。無限ではない。それを考えれば、いずれ増加も止まる』


「何か根拠があって言っているのか?」


『一応ある』


「言ってみろ」


『迷宮獣が誰かの意志の元に動いている。前にお主はそれを疑っておったな?』


「ああ」


『済まぬがそれは正解じゃ』


「否定していなかったか?」


『可能性の低さから切り捨てておった。じゃが、方法が無い訳ではない。

 魔術略奪(スペル・キャプチャー)。迷宮獣はしょせん召喚獣。魔術によって複製、呼び出された存在でしかない。刻印された術式そのものをどうにかできなくても、行使した魔術――それが魔術により作られているものであるのなら、そのコントロールを奪うすべはあるそうじゃ。迷宮獣が集団でここを襲っているのは、おそらくそれによりコントロールを奪われているからじゃろう。

 じゃが、それは呼び出されていたもののコントロールを奪っているだけに過ぎない。自身の配下として追加の迷宮獣を呼び出す術どがある訳ではない。よって、必然的に敵の数は有限となる』


「なるほど。だが、100という数字は何処から来ている?」


『それについては、何処かの馬鹿が、この区画のおおよその面積と、単位面積当たりの迷宮獣の分布数なる物を調べていてな。襲われた区画、進行状況から計算して出した数字じゃ。実際にはもっと少ない可能性はあるが、上限数としては妥当じゃ』


「なるほど、賢者故に知る数字という事か」


『そう言う事じゃな。 どうじゃ? 信用にたるものであったか?』


「…………」


 ヴェルナの問いに、フィルマンは沈黙を返した。


 実のところ、フィルマンはこの賢者の話を信用していいかどうか迷っていた。賢者はあの――殺人犯を仲間だと言った男の仲間だ。当然それは、あの殺人犯と賢者が繋がりを持つことになる。それを信じていいかどうか、迷っていた。


『どうするの?』


 聴かれているであろうに、繋がったパスからエヴェリーナの声が届く。それにフィルマンは小さく息を吐いた。


「良いだろ。お前の言葉、信じ察せてもらう」


『了解じゃ』


『フィルマン!?』


 了承を返すと、納得したヴェルナの声と、驚いたエヴェリーナの声が響いた。


『信用していいの? 奴らはマークをやった奴の仲間なのよ!?』


 そして、エヴェリーナから問い返しが返ってくる。


 確かに、信用していいかどうか怪しいところはなくはない。だが、現状況では信用するに相対するものが無い訳ではなかった。


「確かにそれはある。だが、少なくとも奴らかは俺達に危害を加えようという意志は感じられない。この状況で俺達を騙し、陥れようというのなら、もっと前の段階で致命的な打撃を与える機会はあったはずだ。なのに、していない。

 どの道この状況で、俺達に手立ては見いだせない。なら、乗ってみるのも悪くない」


『そうだけど……』


「話しは終わりだ。賢者、念話のパスはどれだけ繋げられる?」


『少し時間がかかりますが、あと数人程度は』


「なら、これから言う人物にパスを繋いでくれ」


『了解しました』




「――さて、待たせたな、雑魚ども」


 一通り話が終わると、フィルマンはゆっくりと視線を目の前の魔獣達に戻した。そして、それから戦斧を構える。


「反撃開始と行こうか」

お付き合いいただきありがとうございます。


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