破壊の足音
――Another Vision――
夜空に複数の閃光が弾け、空に舞う魔獣達を吹き飛ばし、焼き払った。
「らあああああ!」
そんな爆撃を抜けてきた魔獣に、大振りな戦斧を携えた男が迫り、一刀両断していく。
まさに一騎当千。数は圧倒的に相手の方が多いのに、前方ではたった数人の冒険者が敵を蹴散らしていた。
「すごいな……」
そんな光景を前に、それを眺めていたクレッグは口から感嘆の言葉が零れる。
クレッグもあの場に居るフィルマン、エヴェリーナと同様に、地下迷宮未踏破領域に挑む最上級冒険者と呼ばれる人種だ。それ故、クレッグが自身の能力がフィルマン達に劣っているものとは思っていなかった。
だが、あの光景を見せられてしまえば、どうしても力の差を感じでしまう。
クレッグとフィルマンでは力の特性が違う。それは解っているが、やはりこういう局面では、ああいった派手な戦いが出来る人間の方が、士気を上げやすく、状況を打開しやすい。それだけに、あの能力には正直嫉妬してしまう。
「うらあああああ!」
フィルマンが大きく戦斧を振るう。それにより、また魔獣が両断され、消えていく。
数はまだ圧倒的に敵の方が多い。それでも、敵が消えていく。その光景を前にすると、この場に集まった冒険者達の士気が上がるのが分かる。
厳しい戦場。けど、活路が見える。それが戦士たちの気持ちを奮い立て、戦意を高揚させていく。
このままいけば勝て、そう思わせてくれた。
だが――
「奴は何処とだ……」
クレッグの頭に不安がよぎった。
ただ数の多いだけの魔獣。それだけなら、クレッグだってどうにかできた。けど、そうならなかったのには、原因があった。その、原因がまだここに現れていない。それが、大きな不安となって、クレッグの頭に過った。
そして――
バーン!
大きな衝撃音がフォレストガーデン全体に響き渡った。
「なんだ!?」
「なに!?」
「来たか……!」
フォレストガーデンの防壁の一つが砕かれていた。対迷宮獣用に強化された防壁。それがあっさりと砕かれていた。これは間違いなく奴だ。
舞い上がった土煙の向こうに、何かの姿が映る。巨大な人影。一見すると巨人の姿に思えるそれが、ゆっくりと足を進め、土煙の向こうから姿を現す。
黒色の金属に包まれた身体に、四肢へと走る薄っすらと魔力の燐光を放つライン。そして、頭部に輝く一対の眼光。下層のフォレストガーデンを破壊したゴーレムだ。
「全周警戒! 防壁が破られたって事は、敵は空からだけじゃないぞ!」
現れたゴーレムを見て、クレッグはすぐさま、この場に集まった冒険者達に指示を飛ばす。
防壁が破られたという事は地上戦力を受け止めるものはなくなる。それを示すかのように、ゴーレムが建つ、崩れた防壁の位置から幾つもの地上を走る魔獣達が流れ込んで来ていた。
「フィルマン!」
「分かってるよ!」
空だけでなく、地上の魔獣も現れた。これは、かなり危機的状況にある。だが、それでもまだ何とかなると言える状況だった。だが、奴――あのゴーレムは別だ。あのゴーレムを倒せなければ、どの道勝利は無い。それを訴えかける。
フィルマンもそれを理解しているのだろう。声を飛ばすと、すぐさま動いた。攻撃を目標を空から、あのゴーレムへと切り替え、フィルマンは一気に駆け出す。
「雑魚はどいてな! 凍てつく風よ! 大地を凍らせ、眼前のすべてを薙ぎ払え! 冷気の一撃!」
駆けるフィルマン。それを、上空に居るエヴェリーナが援護する。
詠唱を一つ唱え、杖を振るうと、彼女の前方。ちょうどフィルマンが向かう方向の景色が、一瞬にして凍てつき、そこに居た魔獣達が凍り付く。
そうして動かなくなった魔獣達を無視し、フィルマンは一気にゴーレムへと迫る。そして――
「砕けろおおお!」
フィルマンの力の籠った一撃が、ゴーレムへと振り下ろされる。
ガキーン! バコーン!
強烈な激突音と、何かを砕くような破壊音、それらが同時に二つ、響き渡った。
「なに!」
フィルマンが振り下ろした戦斧は――ゴーレムの装甲を砕くことなく、弾き返されていた。
一瞬、言葉が失われる。
冒険者最大の力を持つと言われるフィルマン。そのフィルマンが最大限力を乗せた一撃。それさえも、あのゴーレムの前には、ほとんど意味をなさなかった。
「あれでも……ダメなのか」
焦りが生まれる。
冒険者最大の物理攻撃。それですらあのゴーレムに効かないというのなら。どうやって勝てばいいのか? まったくと言っていい程、考えが思い浮かばなかった。
『ゴオオオオオ――……』
ゴーレムが動く。一歩前へと踏み込むと、ゴーレム眼光が輝きだし――
「まずい! 全員! 回避しろ!」
ゴーレムの頭部から、閃光が発射され。
その光の筋が地面を穿つと、そのまま縦に薙ぎ払われ、真っ直ぐフォレストガーデンを切り裂いていく。そして、その射線上にはクレッグ達、迎撃編成の為に集まっていた冒険者達の姿があった。
クレッグがとっさに回避指示を出す。だがそれで、どれだけの冒険者が対応できただろうか? 何人かの冒険者がその閃光に飲み込まれ、一瞬の内に蒸発していく。
「あ、ああああ、ああああああああ――……!」
冒険者の中から叫び声が上がる。
被害規模が測定できない。一瞬して消えた冒険者を前に、残った冒険者達は恐怖に包まれる。
攻撃手段は見いだせない。そして、こちらは一瞬にしてやられた。そんな状況の中、果たして正気を保てるだろうか?
この場は一瞬にして恐怖に包まれ、混乱に包まれていった。
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