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戦火

   ――Another Vision――


「さて……どうしたものかな」


 眼前に浮かぶ光景。複数の魔獣が頭上を飛び回り、今にも襲おうと隙を伺っている。一歩でも間違えれば死が見える光景。それを前にすると、沈んでいた気持ちが浮き上がってくる。


「で、どうするの?」


 追って来たエヴェリーナがフィルマンのすぐ横に降り立つと、そう問いを投げてきた。そして、それに続く様にして、クレッグもこの場に降り立った。


 迷宮獣の襲撃。予想されていた事態であったが、事前察知は叶わず、半ば奇襲に近い形に成ってしまった。それにより多少の混乱は起きたものの、今はそれも収束している。問題はこれからだ。


 混乱は収まった。だが、冒険者達の統率はいまだに取れていない。あの数の魔獣を相手にするには、1PT程度では敵わない。となると、この場に居る冒険者達の協力が必要不可欠である。このまま統率が取れない状況では、結局喰われる形に成ってしまう。


 まずは、その統率を取る事からなのだが――



『グワアアアアアア!』



 魔獣が咆哮を上げて、急降下を始める。


 敵は、悠長にこちらの準備を待ってはくれない。


 それを見て、フィルマンはゆっくりと戦斧を肩にかけ、攻撃態勢を整える。


「エヴェリーナは、各PTへの連絡と、状況の確認。クレッグには編成を任せる」


「あんたはどうするの?」


「決まってるだろ――奴らを叩いてくる!」


 気持ちが一気に昂る。


 これだけの魔獣とまとめて戦う機会など、まずありえない。そんな状況が目の前にあるのだ。気持ちを抑える事など出来はしない。


「さぁ、さぁお前ら! 敵は目の前に居るんだ! 狩りの時間だ! やれる奴は俺に付いて来い!」


 フィルマンはそう告げると、その衝動に突き動かされるかの如く、駆け出し、迫りくる魔獣の集団へと飛び込んでいった。




   *   *   *




「らあああああ!」


 気迫のこもった声と共に、戦斧を振り下ろす。それにより、巨大梟の身体が引き裂かれ、消滅する。


「ふうぅ~」


 深く息を吐き、顔を上げる。そこにはまだまだ魔獣の姿があった。


 一体、二体倒したところで数の減りは見えない。それどころかまだ集まってきているのか、見られる魔獣の影が増えている様にさえ見えた。


 そんな魔獣達の姿を前に、ニヤリと笑みが零れる。


「フィルマン!」


 そんな時だった。上空から声が届く。エヴェリーナの声だ。杖に腰かけたエヴェリーナが宙を飛び、そこからフィルマンを見下ろしていた。


「なんだ!」


「冒険者達へと連絡はあらかた付いたよ。今、クレッグの指揮の元、編成が進んでる。そっちは持ちそう?」


 エヴェリーナが状況を伝えると共に、こちらの状況を尋ねてくる。


 フィルマンは我先にと飛び出していった。それは、別にただ戦いたいからだけではない。あの状況で、統率を取るためには時間が必要だった。だが、その時間を敵は待ってはくれない。だからフィルマン達が率先して前に出て、魔獣を散らす事で、その時間を稼いでいた。


 敵の数は多い。そんな中を突き進めば、必然的に消耗は大きくなる。だがそれでも、フィルマンは笑って答えを返した。


「まだまだ足りねぇな。こんなんじゃまだ満足出来ねぇよ」


「そう、ならよかった」


 そんな相変わらずなフィルマンに釣られ、エヴェリーナも笑いを零す。


「じゃあ、こっちも少し暴れさせてもらおうかしら」


「なんだ、お前もやる気なのかよ」


「あんな見せられたら私だってね――」


 エヴェリーナが杖から飛び降りる。すると、そのまま落下し――空中に着地した。そして、空いた杖を手に掲げる、詠唱を開始する。


「大気よ唸れ! 雷鳴よ轟け! 我が魔力よ、稲妻となりて、我が敵を薙ぎ払え! 連鎖雷撃チェイン・ライトニング!」


 詠唱と共に、エヴェリーナの眼前に魔法陣が浮かび上がり、最後に杖を振るうと、そこから真っ直ぐ電撃が走り出す。


 エヴェリーナから放たれた電撃は、真っ直ぐ巨大梟を捕らえ貫くと、そこからさらに弾けた電撃が、さらに別の目標を捕らえ貫いていく。そして、そこからまた弾けた電撃が別の目標を捕らえ――雷撃はまるで蜘蛛の巣の様に散り、波紋の様に魔獣達の間を駆け抜け広がっていく。


『『グワアアアアア!』』


 雷撃に貫かれた魔獣達から叫び声が上がる。


「まだまだ行くよ」


 杖を振るい終えたエヴェリーナが再度、杖を構え、詠唱を開始する。


「我が魔術の炎よ。豪華となりて、敵を焼き払え! 爆ぜろ爆炎! 焼き尽くせ! 魔術多重化メタマジック・マルチプル火球(ファイア・ボール)!」


 エヴェリーナの周囲に複数の火球が灯ると、それらが一斉に発射され、魔獣達の群れへと投げ込まれていく。


 複数の閃光が同時に弾け、幾つもの爆炎が空覆う魔獣達を包み込んでいく。


「相変わらずえげつない魔術だ……」


「あいつ等相手じゃ、これでもまだまだ足りないよ。そら、来たよ!」


 炎が魔獣達を包み込んでいく。それにより、魔獣のいくつかを吹き飛ばせただろう。けれど、それでも魔獣はそれに耐え、炎の中から飛び出してくる。


「悪いな。それで終わりじゃねぇんだ」


 そこへフィルマンが跳躍する。そして、炎を突き破ってきた魔獣の目の前に飛び出すと――


「死ねよ! 雑魚がぁ!!」


 戦斧を振り下ろした。

お付き合いいただきありがとうございます。


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