表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/163

一つの可能性

   ――Another Vision――


 冒険者を集めての話し合い。それが終わると、会議室として使われていた部屋にはフィルマンだけが残された。


 つい先ほどまで、冒険者達が激しく言葉を交わしていたが、今はそれがなくなり静かになっていた。


 そんな静かな空気の中、フィルマンはぼうっと天井を眺めていた。


「いつまでそうやっているんだい?」


 しばらくそんな風に物思いにふけっていると、唐突に声が掛かった。視線を其方へと向けると、いつの間にか、傍には仲間の魔術師エヴェリーナが立っていた。


「気になる事があってな。ずっとそれを考えていた」


「もしかして、例の誰かの意志の介入って話し?」


「ああ、そうだ」


「それはあり得ないって言ったでしょ」


「確かにそうだな……」


「それでも納得できない?」


「ああ、どうしても引っかかっちまう」


「そうかい……相変わらずだね。そもそも、なんでそんな事を考える? 誰かが意図してこの状況を作り出しているだなんて。どっから出たはそうなんだ? またあんたの勘ってやつか?」


「勘……か。確かにそれもある。だが、それだけじゃない」


「何か根拠があるって言うの?」


「明確なものではないがな」


「そう。けど――」


「分かっている。不可能だ。と言いたいんだろ?」


「そうだよ。どうやったって無理。あの場に集まっていた魔術師全員がその結論を出していたはずだよ。あの賢者様だって同じ回答だった」


「それは理解している。俺は魔術の専門家じゃない。だから、その判断は、お前たちに従う。だが……だがな、俺は魔術の専門家ではないが、戦いの専門家ではある。だからこそ感じ入る事がある。

 敵を崩す時。最も有効な手段は、内部からの攪乱だ。先日の殺人事件で疑心暗鬼になっている中での、この状況。どうにもできすぎている気がする。それだけに、誰かの意志を感じてしまうんだよ」


「なるほどね。確かに冒険者達が力を合わせなければならないって状況で、あの殺人事件が起きている事は気になるところだね。けど――」


「回答が出ない。ない頭で考えたところで、意味はないと分かってはいるんだがな……けどどうしても気になっちまうんだよ」


「相変わらずね。けど、あんたのそういう勘って、案外当たるじゃない。もしかしたら私達の知らない方法があるのかもね」


「だと厄介だな……」



   ――Another Vision end――




「ああ、やっと終わった~」


 冒険者を集めての話し合い。それに何だかんだで時間を取られてしまった。


 話し合いが終わり、外へ出ると、既に時刻は夕暮れ時へと変わっており、日の光は弱くなり始めていた。


「あんな感じで良かったか?」


 長い拘束時間から解放され、その喜びから声上げると、共に呼び出されていたヴェルナが声を掛けてきた。


「良かったって、何がだ?」


「求められた意見への答えじゃ。妾なりに分かる範囲で答えてみたが……あれでよかったのかと聞いておる」


「ああ、そういう」


 ヴェルナがあの場に呼ばれた訳。それはおそらく、ヴェルナの持っている賢者としての地下迷宮に関する知識を当てにしたためだろう。賢者として立場や権威を守ろうとしているヴェルナなら、あの場で間違った知識を広めてしまうのは避けたかったはずだ。だら、その確認を俺へと投げてきた。


「まあ、あれでよかったんじゃないか? たぶん俺も、あの場であれを問われていたら同じことを言ったと思うよ」


「そうか、それは良かった」


 俺からの回答を聞くと、ヴェルナは安心したのか、ほっと安堵の息を吐いた。


「にしても、なぜ、あやつはあのような事を疑ったのじゃろうか?」


 そして、一つの不安が解消されると、ヴェルナは次の疑問を零した。


「あのような事って?」


「誰かの意志の介入。という質問じゃ。普通に考えて、地下迷宮内での出来事に、誰かの意志が介入するなど不可能ではないか? そんな事が出来たのなら、そもそも冒険者という職そのものが必要ない事になる。そうであろう?」


「まあ、そうだな……」


 地下迷宮での出来事――特に迷宮獣などのシステムに介入し、意図的に操作するといった事は不可能である。それは冒険者であれば誰だって良く分かっているはずだ。だが、あのフィルマンという男はそれを尋ねてきた。それは確かに不可解な事だった。けど――


 一度、辺りへと目を向けてみる。村の中では、相変わらず冒険者達の姿が見られる。その姿は普段とあまり変わらない。けれど、その中には何処か緊張めいた警戒心などが感じ取れていた。


 冒険者殺害事件。その事件が起きてから、冒険者達の間に、同じ冒険者を疑い、警戒すると言った空気が見られていた。


 疑心暗鬼。皆が同じ冒険者の中に、自身の命を狙う敵が潜んでいるのではないか? そう思っているのだろう。そんな静かな混乱の中で引き起こされたあの状況。もしかしたら、と考えてしまうのは仕方ない事かもしれない。


「なぜ、あのような分かり切った質問をしたのじゃろうな。すぐに気付きそうなものであろうに……」


「仕方ないよ。人間すべてを知っている訳じゃない。知らない何らかの方法で、それが出来るかもしれないって思う事だってある。 だから、尋ねた。それに――」


 ふと足を止めた。


 あのフィルマンの質問。それは、ヴェルウナの言う通り、分かり切ったくだらない質問だったかもしれない。けど、それで気付かされる事もあった。だから、変に引っ掛かってしまったのだ。


「師匠。どうかしたか?」


 唐突に足を止めた事を不審に思い、ヴェルナが問い返してくる。


「実は……あるんだよ」


「あるって何がじゃ?」


「迷宮獣の命令権を得る方法」


 静かに答えを返す。それには、ヴェルナも大きく愕きを見せた。


「師匠……それは事実か?」


「うん。方法がかなり特殊で、可能性は低かったら、ほとんど考えてなかったけど、確かに一つだけ方法がある」


「それは、どのような方法じゃ?」


「『魔術奪取(スペル・キャプチャー)』」


「なんじゃ? それは……」


「発動された魔術に介入し、そのコントロールを得るっていう特殊な技だ。

 迷宮獣って言っても結局は召喚魔術によるものだ。刻印された術式や、それらの管理システムは強固に保護されていても、発動された術――召喚獣そのものには召喚獣が持つ魔術抵抗しかない。それに介入できないことはない。それを使えば――」


「師匠……なぜそれをあの場で言わなかったのじゃ?」


「可能性が低すぎるから言わなかったんだよ。『魔術奪取』はかなり特殊な技術で、俺でさえ存在を知っているだけで、方法は知らない。だから、使える人間が居るとはちょっと考えられなかったんだよ」


「そうか……じゃが、0ではない。という事か」


「うん。だから、警戒はしておいた方がいいかもしれない」


「嫌な話じゃな……誰かが、妾達を陥れようというのは」


「そうだな」


 人口の太陽が消えていく。それに合わせる様に、辺りには影が差しこみ、暗がりへと沈んでいく。その光景は何処か、これからの事を示しているよに思えてならなかった。

お付き合いいただきありがとうございます。


ページ下部からブックマーク、評価なんかを頂けると、大変な励みになります。よろしければお願いします(要ログインです)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ