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闇からの足音

   ――Another Vision――


 ドスーン、ドスーン。と暗闇の中で地響きの様な足音が響いた。


 木々を揺らす様な、大きな足音。それが響き渡ると、それを聞いた者達の間に緊張が走る。


 ここは、地下迷宮森林区に複数存在ずるフォレストガーデンの一つ、第15層にあるフォレストガーデンの中だった。


 平時なら、この夜の時間でも、フォレストガーデンにはのんびりとした平和な時間が流れていただろう。だが、今この時は違っていた。

 フォレストガーデンは冒険者達の村だ。そのフォレストガーデンに集まった冒険者達が一か所に集い、皆各々の装備で全身を覆い、戦闘態勢を築いていた。


「グレッグ。奴が来るぞ」


 そんな冒険者達の集団の中、隊列の中央辺りに立った一際目立つ装備の冒険者に、その傍に控えていた冒険者が声を掛ける。


 その声を聴くと、一際目立つ冒険者――グレッグが頷いて返事を返し、口を開いた。


「手筈通りやれば勝てるはずだ! 敵はたかだかゴーレム種1体! 幾多の死線を超えてきた冒険者なれば、この程度の相手に後れを取らぬはずがない! 全軍構え!」


 グレッグが号令を掛けると、隊列の後方――居並ぶ家々の屋根の上に並んだ冒険者達が、弓に弩などの武器を一斉に構える。


 ズドーン、ズドーン。足音が近付いて来る。そして、フォレストガーデンを囲う木柵の向こうに、その足音の主が姿を現した。


 巨大な人型の影。頭部には一対の眼光を光らせ、黒色の鋼鉄に覆われた身体。紛うことなくゴーレムの姿そのものだった。


 ゴーレムは地下迷宮内で複数種確認されている。地下迷宮内では割と一般的な敵であった。だが――あのタイプのゴーレムはグレッグの記憶の中には無いのものだった。そこに、一抹の不安を覚えてしまう。


 けど、このまま見ている訳に行かない。よって――


「放て!」


 グレッグは即座に攻撃の合図を下した。




 グレッグの号令に従い、冒険者達が一斉に矢弾を放つ。それらがまるで雨の様になり、そのゴーレムへと降り注いだ。


 カンカンカン――……。だが、その攻撃から帰ってきたのは、矢弾が虚しく弾かれる音だけだった。


「効かない……か。固いな」


 ゴーレムの装甲は厚い。生半可の攻撃では弾かれる。それは理解していた。だが、ここに集まった冒険者達は皆、中級冒険者以上の手練れだ。当然彼らの武具は強力なもので、ゴーレムの装甲でさえ容易に釣らぬ武具を持っているはずだった。なのに効かない。その事に、小さく愕きを見せる。


「どうする。グレッグ」


 そんな状況を前に、傍に控えていた冒険者が、対応を問いてくる。


 射撃手の攻撃だけでは倒しきれない。そんなことくらいは想定していた。だが、効かないことまでは想定外だった。それ故の確認だろう。


「ここまま行く。遠隔武器がダメでも、直接攻撃を叩きこめば、貫けるはずだ。射撃手はこのまま待機。前衛にはそのまま準備させろ」


「分かった」


 指示を返すと、冒険者はすぐにその場を離れ、伝令に走った。




 ズドーン、ズドーン、ズドーン! 足音がさらに大きくなり、そしてついにゴーレムが腕を振り上げた。ゴーレムが木柵へと辿り着いたのだ。


 バーン!! ゴーレムの腕が振り下ろされる。すると、意図も容易くフォレストガーデンを覆う木柵が砕かれた。たった一発。それだけ、フォレストガーデンの防壁は砕かれてしまった。


(魔術で強化され防壁だぞ! あんな簡単に……)


 フォレストガーデンは地下迷宮の中という特殊環境下にある。それなら当然そこを闊歩する迷宮獣に対する防備も備えられている。その木柵は見た目以上に強固なもののはずだった。だが、あのゴーレムの前では見た目通りの強度であるかのように簡単に貫かれてしまった。


「突撃態勢! 奴を叩き潰せぇ!!」


 パワーはすさまじい。だが、それで怯む冒険者ではない。どんなに恐ろしかろうが、挑み続けるのが冒険者だ。その程度で止まるはずがない。


「「うおおおおおおおお!」」


 冒険者達が一斉に声を張り上げ、ゴーレムへと襲い掛かった。


 魔術によって強化された武具と身体能力。それによって繰り出される強烈な一撃。それの前にすれば、たとえどんなに強固なゴーレムであっても耐えられるはずがない。そう、思えた。だが――



 ガキーン!! 大きな衝撃音が幾つも響いたかと思うと、冒険者達の攻撃が弾かれた。


「うそ……だろ……」


 戦慄が走る。


 能力自慢の冒険者達。それに一級品の武具と魔術による身体強化を合わせた必殺の一撃。それさえも、あのゴーレムの前には届かなかった。


 その光景が、冒険者達の間に大きく動揺を広がる。



「グレッグ!」


 どこからか大きく叫び声が上がる。


「なんだ!?」


「空を見ろ!」


「なに!?」


 言われて視線を向ける。すると、そこにはさらなる絶望的な光景が広がっていた。


「なんだ……これは……どういうことだ!」



『『グワアアアアアア!』』



 頭上には、無数の魔獣の影があった。迷宮獣の姿だ。


 あり得ない。あり得ない光景だ。


 森林区には多くの迷宮獣が闊歩している。だが、それらは単独であり、群れを作る事もなければ、連携して襲ってくることはない。だが、頭上にある光景は、まるで一つの意志を持っているかのように、迷宮獣達が一斉にフォレストガーデンへと迫って来ていた。



「グレッグ!」


「今度はなんだ!?」


 再び叫び声が上がる。


 今度はゴーレムが居る方角だ。再びそちらへと向ける。すると、ゴーレムが動いた。


 ゴーレムの漆黒の身体。その身体に四肢に沿う様にして走る淡い光のラインが強く発光する。そして、頭部の眼光が強く輝いたかと思うと、そこから閃光が走った。


 ゴーレムの頭部から発射された光の筋が、地面を貫いたかと思うと、それが辺りを薙ぎ払う。


 爆音が響き渡り、辺りの建物が一瞬にして崩れ去っていく。


 理解が追い付かない。何もかもが、想像の範疇を超えている。これが、現実なのだろうか? そんな疑問さえ湧いて来てしまう。



「あ、あああああ……」


『グワアアアアアア!』



 叫び声、断末魔。そんな阿鼻叫喚の声が響き渡る。


 戦線は崩壊した。もはや、冒険者達は、襲い来る魔獣たちを前に、なすすべなく食われていくだけだった。



 ドスーン、ドスーン、ドスーン。そんな地獄絵図の中、あの漆黒のゴーレムは無機質な姿をさらし、無言の行軍を続けていた。



 チリーン――……

お付き合いいただきありがとうございます。


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