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強者の戦い

   ――Another Vision――


 真っ白な雲が流れてきて、靄が辺りを包み込む。


 森林区の上層には雲ができる。その為この辺りは視界が悪くなりやすい。


 これらの雲は身を隠すためにはありがたいが、戦闘時になるとそれが邪魔になる。それが煩わしくあるが、安定した戦場などありはしない。こういった悪天候――特殊環境下の戦闘こそ冒険者に求められる戦場だ。それだけに、この空模様はフィルマンにとって、絶好に戦闘日和と感じられた。


 沸き立つ思いから、つい笑みが零れてしまう。


「フィルマン。そろそろ来るよ」


「分かっているさ」


 フィルマン同様、この場で待機していたエヴェリーナがそう合図を掛けてくる。そろそろ狩りの時間だ。


『グワアアアアア!』


 雲の向こうから何かの咆哮が響く。そろそろだ。


 雲を裂く様にして、一つの人影が枝から枝へと移りながら、こちらへ向かって来るのが見えてくる。そして、そのすぐ後に――巨大な影が雲の中から姿を現した。


 フクロウだ。巨大梟(ジャイアント・アウル)と呼ばれる巨大なフクロウ型の魔獣だ。背丈は人の3倍近くあり、羽を広げた姿は人の5倍にも及ぶ。そんな魔獣が、先ほど現れた人間を追って、こちらへと向かって来る。


「さて、狩りの時間だ」


 魔獣がすぐ目の前まで迫ってくる。それを見てフィルマンは戦斧を持ち上げ、肩にかける。それが、一種の合図となりPTが行動を開始する。


「仕掛けます」


 後方に展開していた射撃手たちが一斉に弓や弩を構え、迫りくる魔獣へと発射する。ジャイアント・アウルの身体を巨大だ。それ故に彼らの攻撃は外れる事無く、魔獣の身体を捕らえる。だが、巨大さ故の頑丈さから、それらの矢弾は魔獣の身体を深く抉る事はなく、浅く引き裂くだけにとどまる。けど、それでいい。それだけで、魔獣は激高し、こちらへと視線を向けてくる。


 そして、攻撃を仕掛けようと翼を羽ばたき、飛翔する。


「我が魔術の炎よ。豪華となりて、敵を焼き払え!」


 だが、そうはさせない。飛翔した魔獣のちょうど上部で、放たれた魔術の炎がさく裂し、飛翔した魔獣を叩き落とした。上空への逃げ場は封じたのだ。飛行する魔獣は厄介だ。だが、彼らの中で高度な戦闘機動能力有する者は少ない。そうなると、魔獣は前に進むしかなくなる。そして、その進行方向にはフィルマンが立っていた。


「来いよ」


 魔獣は攻撃の回避を諦め、その身をぶつける様に襲い掛かってくる。それにフィルマンは――跳躍し、真っ向から挑みかかった。


「消えろ、雑魚が!」


 一刀。フィルマンが振り上げた戦斧を、魔獣へと振り下ろす。その威力はすさまじく、その一撃は正面から巨大な魔獣を叩き斬ると共に、魔獣の後方に漂う雲を引き裂いた。


 その強力な一撃を受けた魔獣は、成す術はなく、無残にも両断され、その残骸は霧となって消滅した。


   ――Another Vision end――




 一撃必殺。フィルマンはたった一撃で、あの巨大な魔獣を葬り去ってしまった。それには、さすがに苦笑を浮かべるしかなかった。なんてパワーだ。


「やべぇな。あれは……」


 人間離れしたその光景を目にしたディックも、同様に苦笑を浮かべながら、そんな感想を零した。


「さすがにこれは……参考になりませんよね」


 それにクレアも続く。


「ああ、あんなパワー、どうやったら出せるんだっての。何かからくりがあるのか?」


「魔術による身体強化じゃろうな。かなり強力な物が掛かっておる。じゃが、それにしても素の力も相当なものでないと、ああはならん」


 ディックの疑問に、ヴェルナが返答を返す。確かに、あのパワーを出すには魔術による強化が必要不可欠だ。だが、どれだけ強力なものを用いてもあそこまではならない。地の力も相当という事だ。


「奴の傍に居る魔術師。あれも相当な腕前じゃ。迷宮獣の魔術抵抗を物ともしておらんかった」


「確かに。あんな簡単に敵に魔術を通すだなんで……ちょっと想像できません」


 魔術師二人の感想も、相手に対し大きく圧倒されているみたいだった。


 本当の冒険者。冒険者達にとって目指すべき場所。それを始めて目にした面々取って、これは大きな衝撃だったみたいだ。




 ふと、視線をフィルマンへと戻す。すると、目が合った。フィルマンはこちらの存在に気付いていたのだろう、俺へと視線を向けて来ていて、俺と視線が合うとニヤリと笑っていた。


(一体何を期待しているのやら……)


 俺はそれに、小さく苦笑を返した。

お付き合いいただきありがとうございます。


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