森の戦場
「準備は整ったのか?」
「ああ、ばっちりだ。何時でも行けるぜ」
フォレストガーデンにたどり着いてから数日が経った。その間、ここに来るまでに消耗した武具の整備と新調などをどうにか済ませ、俺達は再び冒険へ出るための準備を整えた。
「悪いな。費用、出してもらっちまって」
「いいよ。ここに連れてきたのは俺だし、放りだすわけにもいかないだろ。あとで返してくれればそれでいい。ここだと、魔晶石も集めやすいしな」
結局、ディック達が装備を新調するために多くの費用が掛かってしまった。
フォレストガーデンの物価は、魔晶石が手に入りやすい11層以降の環境を基準に値段が設定されている。その上、地下という特殊な環境下故に、かなり割高な値段設定となっている。その為、ようやくここへたどり着いた程度の冒険者では、なかなか手が出ない値段となっていた。
なので、足りない分は俺が出す事にした。前潜っていた頃に溜めていた魔晶石が此処で役に立った形だ。
そんな訳で、まずは外へ出て足りなかった分の魔晶石を回収しに行く流れとなった。
* * *
「ひぇ~、改めてみるとすげぇ~な」
「落ちると助からないから気を付けろよ」
第11層から20層にかけての森林区は吹き抜けになっている。そのため、階層ごとに走らされた宙吊りの通路から下を見ると、下の階層が見え、底の20層まで見ることができる。
ただ、11層から20層までは大分高さがあるため、さすがに見えるといっても半分くらい白んで見える程度だ。この高さから落ちたら確実に助からない。
「これ、魔術とか使って下りたら、一気に下まで行けるのか?」
吹き抜けになっているのなら、当然それを考える奴もいるだろう。下の景色を眺めながら、ディックがそれを尋ねてきた。
「できなくはないけど、辞めておいた方がいい」
「なんでだ?」
「それは――」
『グワアアアアア!』
眼下の景色に、大きな影が掠めた。
「うわ!」
「森林区は、階層間を飛行する迷宮獣が多い。降下中に襲われたらどうしようもない。同じ理由で、階層間を抜けて伸びている木々を伝って下りるのも危険だ。素直に下層への階段を探して下りた方が安全だよ」
「な、なるほどな」
状況を想像してか、ディックがひきつった笑みを返す。
「あと、ここは空の空間があり、飛行性の敵が多い。ちゃんと遠距離武器に切り替えながら戦わないと、一方的に攻撃されるだけになるから気を付けなよ」
「了解だ」
そんな感じで、この区画の注意点を説明し、俺達は動き出した。
「あれか?」
「そう。あれだな」
フォレストガーデンを離れ、少し11層を探索すると、目的の相手を見つけた。
11層を構成する宙吊りの通路。それを支えるかの様に伸びた巨木の幹。その傍に、一匹の豹型の魔獣――迷宮獣が寛いでいた。
「今まで極力戦闘を避けておりてきたのに、ここに来てまさか自分から戦う相手を探す事になるとはな」
「上とは状況が違うんだ。仕方ないよ」
第11層からは上層と異なりエリア全体で迷宮獣が出現する。その為、それを討伐できれば簡単に魔晶石集める事が出来る。それ故に、ここからは積極的に敵を狩りに行くこととなる。
特にディック達の様に、金のない冒険者ならなおさらだ。
「戦い方は今まで通りで良いんだよな?」
「ああ、多分変わらないはずだ。けど、足場が悪いから、そこは注意なのと、突き落として倒せなくはないが、そうすると魔晶石が回収できないから、そこも」
「OK了解した。行くぜ」
一通りの注意事項を聞くと、ディックは立ち上がり、先陣を切って目的の迷宮獣へと挑みかかった。
こうして、迷宮獣との戦闘が開始されていった。
* * *
「らああああああ!」
『ガウ!』
「クレア、今だ!」
「やああああああ!」
『ガアアアアアア!』
ディックが力強く横なぎを振るうと、それにより迷宮獣が大きく怯み、それを見たクレアが止めとばかりに、重い一撃を振り下ろす。それが止めとなり迷宮獣は霧散した。
最後に、迷宮獣の核となっていた赤い魔晶石が地面に落下する。これで戦闘終了。
「ふ~。何とか勝てたな」
「そうですね。意外と上手くいって安心しました」
「あとはこのまま、こんな感じで魔晶石を集めて行けばって感じだか」
戦闘が終わり、魔晶石の回収を終えると、ほっと安堵の息が零れた。
この階層の迷宮獣はそれ程強くはない。けれど、それでも第5層の守護者と同程度くらいの強さを持つ。だから、どうなるか少し心配だったか、それは杞憂に終わったようだった。
連携も整い、また魔獣などとの戦闘に成れた今の状態では、それほど苦にする相手ではなかったようだ。
「よし、回収完了。次へ行こうぜ」
そして、戦闘が終わり落ち着きを取り戻すと、次に向けて行動を開始した。
そんな時だった。
「あれは……?」
ふと視界の端に何かを見つけた。ちょうど一つ下の下層の景色に、冒険者の一団が見えたのだ。どうやら俺達と同じように狩りをしているようだ。
「どうかしたか?」
フォレストガーデンがある11層付近は冒険者が集まりやすい。それ故にこの辺りでは、他の冒険者が狩りをしている場面が時折見られる。特別珍しい事じゃない。だけど、ディックはその場面をじっと見つめていた。
「あれ、見ろよ」
「?」
そして、指を差し注目するよう促してきた。それに従い、彼らの様子を見つめる。
「あれは……」
数人の冒険者PT。その中には見た顔があった。
大柄な体格に、重そうな金属鎧、そしてその手には大振りの戦斧――先日の夜に顔を合わせた冒険者だ。
「フィルマン・ルクレール」
「知ってるのか?」
問い返すと、ディックは驚いた顔を返した。
「むしろ、知らない事に驚きだよ」
「そんなに有名なの?」
「有名ってもんじゃねぇよ。現役冒険者ならほとんど誰でも知っている。フィルマン・ルクレール。冒険者の最前線を突き進むメンバーの一人だ」
「なるほど、そう言う事」
ようやく理解した。ディックがフィルマンの一挙手一投足見逃さないよに見つめているのは、冒険者として強者の強みを一つでも多く取り入れようとして様だった。
ふと視線を上げ、他の面々へと目を向けてみる。見た感じ彼らは、じっとフィルマンを見つめ続けるディックに呆れているみたいだった。ただ、クレアに至っては、ディック同様フィルマンに動きに注視していた。
これはこのままこの場を離れる事は出来そうにないな。と小さく息を吐き、俺は再びフィルマンへと視線を戻した。
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