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新しい生活の始まり

 フォレストガーデンには、昔から俺が使っていた部屋が一つだけあった。


 結局フォレストガーデン内で他に使えそうな空き部屋が見当たらなかったため、俺はその部屋を提供する事にした。


 だが、しばらく――と言うか多分100年近く使っていなかった為、その部屋の惨状は酷いものだった。


 部屋の建物自体は、迷宮獣の襲撃にも耐えれるよう頑丈に作っていた為、倒壊する事はなかったが、中の家具まではそんな耐久性を付加してはいない。なので、放置していた家具などは腐りきり、床面はいつの間にやら堆積した土砂の上に苔やら雑草やらが生えているほどだった。



「これ、捨てちゃっていいんですよね?」


「ああ、家具は全部処分してくれ」


「どこに捨てればいいんですか?」


「確か何処かに廃棄置き場があったはずだ。そこに捨てて来てくれ」


「分かりました」



 というわけで、まずは100年ぶりの掃除を始める事からスタートした。


 今まで時間の流れを強く実感する事がたびたびあったが、自分の使っていた場所でその変化を明確に見せられると、今まで以上にそれを強く実感させられた気がした。




   *   *   *




「うっし。こんなもんかな」


 あれから俺達は、総出で部屋の掃除を行い、数時間かけて、どうにか住める程度まで回復させた。


 ちょうどその頃には、外の明かりは弱まり始め、夜へと変わろうとしていた。


「とりあえず今日は、ここまでで、残りは明日だな」


 できれば今日中に破損した装備などをどうするかなどを決めておきたかったが、結局寝床の確保だけで終わってしまった。


 まぁ、何の成果もなしって状況よりかはましかな。武具に付いては早い方がいいが、今日中でないといけない理由などもないし。


「それで、後はどうするんだ?」


 一通り掃除を終わらせると、ディックがそれを尋ねてきた。


 いつもなら、後は食事をとって寝るだけだが、今は野宿ではないのだ。さすがにこのまま寝るのは味気ない。となると


「買い出し……かな?」


「買い出し?」


「食料くらいは確保しておいた方がいいだろ? さすがに保存食はもう飽きたでしょ」


「そんな物、手に入るのか?」


「言っただろ? ここでは冒険者が必要としている物は何でも手に入るって。取り敢えず行くぞ」


 そんな訳で、俺は皆を集め、フォレストガーデンの市場へと赴いた。




 人工の日の光が弱くなり、薄闇に満たされると、フォレストガーデンのあちこちに明かりがともり始める。


 そんな淡い明りに包まれた市場へと俺達はやってきた。


 フォレストガーデンは冒険者達の村。その為あって、昼夜のある森林区でも割と時間の概念が乏しく、夜でもやっている店がある。


 そんな店の一つ一つを覗き、俺達は目的の物を探した。


「結構何でもあるんですね」


 露店に並べられた品々を眺めながら、クレアがそう感想を零した。


 露店には武具や防具に、冒険者用の道具に薬品、それからこまごまとした食器などの家具や、保存食等々。本当に冒険者が此処で必要とする物のほとんどがそろっていた。


「すげぇ、生鮮食品まであるよ。こんなのどこで仕入れるんだ?」


 露店の一角に並べられた生肉などを見て、ディックが驚きの声を上げる。


 森林区のフォレストガーデンは地上と距離がある。そのため行き来にはどうやっても数日の時間を要する。そうなると、鮮度の居る食材なんかは運べずがなく、手に入らないと考えるのが普通だろう。だが


「ここで畜産をやっている奴らが昔から居るんだよ。そこにある肉はそこで取れたものだな。あと、森林区内には食べれる植物の植生があるから、それを取ってきて売っている者もいる」


「へぇ~、すげぇなぁ~」


「あれ? でも、これ、値段が書いてないですね」


「あ、ほんとだ……」


 そして、しばらくそうやって市場の露店に並べられている品々を見ていると、クレア達はある事に築き始める。そう、並べられた品々に、値札が付けられていないのだ。


「ここでは地上の貨幣は使えないよ」


 値札の並べられていない品々を見て、疑問符を浮かべるクレア達に、俺は答えを返した。


「え? どういう事ですか?」


「フォレストガーデン。というか、地下迷宮には貨幣を持ち込まないだろ?」


「それも、そうですね……」


「だから、ここでは貨幣が出回らないんだよ」


 冒険者達は地下迷宮へ潜るとき、貨幣をほとんど持ち歩かない。理由は単純、地下ではほとんどそれを使う場所がないからだ。あとは、敵から逃げる際、身軽にする為持ち物を投棄する事があり、その際大金を持っていると、それを失うリスクが出てくる。その為あって、冒険者は大金を持ち歩かない。


 そうなると、地下迷宮内にあるフォレストガーデンに貨幣は流れてこない事になる。


「じゃあ、どうやって買い物をするのじゃ?」


「それにはこれを使うんだよ」


 答えを返しながら、俺は懐から淡い光を放つ赤い石を取り出した。魔晶石、それがこのフォレストガーデンでの貨幣の代わりとなっていた。

 魔晶石なら地下迷宮を探索していれば自然と集まる物であり、地上に持ち帰れば貨幣に換金できる。なので、貨幣が出回らないフォレストガーデンでは、打って付けの通貨だった。


「なるほどな」


「けど、まあ、明確な相場がある訳じゃないから、買い物をするときはその辺りを注意しろよ」


「なるほど、了解です」


 そんな感じで、俺は買い物をするついでに、フォレストガーデンでの簡単なルールなんかを説明し、こうして俺達のフォレストガーデンでの生活が始まった。

お付き合いいただきありがとうございます。


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