フォレストガーデン
「ここがフォレストガーデン」
枝葉で覆われた道をかき分け、進んだ先に見えてきた一風変わった村を目にすると、ディック達は小さく愕きの声を零した。
フォレストガーデンの存在は冒険者達の間では有名だ。だが、話を聞くのと目にするのとではやっぱり違うのか、それなりの驚きが返ってきた。
「これが、あんたが言った、先を進んだ方が良いって理由か」
「そう言う事だな」
一様の驚きを見せると、ディックはそれから安堵の息が零れた。
フォレストガーデンは冒険者達の村だ。そのためここには冒険者が必要とするものがそろっている。安全な寝床に、武具などの装備の整備や購入もできる。現状、武具を破損させた状態の俺達にとって、地上への長い道を辿るより、ここまで下りた方がいいと判断したのだ。
「それじゃあ、中へ入るぞ」
フォレストガーデンを囲う板張りの塀を見上げたままのPTを先導し、俺達はその門をくぐった。
門をくぐると、景色は一変し、急に生活感が現れる。エルフの森ですらあまり見ないような、太い大木の樹上とはいえ、フォレストガーデンが建つ場所は足場の悪い場所だ。それ故、それを補うために、複雑に張られた板張りの床と木造の家々が、奇妙な街並みを作っていた。
そして、その中からは金を打つ鎚の音や、動物の鳴き声などの様々な音が響き渡っていた。
「なんか、すごい場所ですね……」
そんな喧噪に包まれた村の景色を見て、クレア達は苦笑を浮かべた。まあ、この光景は冒険者の村と言われて想像したものと違っていても仕方ないかもしれない。
「まあ、冒険者の村と言っても、ここに居るのは、全員が全員冒険者ってわけじゃないからな。商人や職人も少し混じっている」
「そうなんですか?」
「ここは冒険者達にとっての大切な中継たからね。そうなると、冒険者相手を目的とした商人だって集まって来るさ」
「商売たくましいですね……」
「商人って言うのは、商機があればどこへでも行く奴らだからな。地上との行き来の為の専属の冒険者を雇っていたりしているらしい。中には、自ら冒険者として行き来している奴もいるとか、まあ、よくやるよ」
「ですね……」
ざっとフォレストガーデンの街並みへと目を向ける。フォレストガーデン自体はメルカナス時代にも存在していた。けど、さすがに100年というと時間の流れは、大きくこの景色を様変わりさせていていた。
「とりあえず、まずは休めそうな所からだな」
武具の整備、購入をしなければならない現状だ。そうなると、どうしてもここでの長期滞在が強いられる。そのためまずはゆっくりと休める場所が必要だった。俺達はまずそれを探し始めた。
* * *
「そっちはどうだった?」
「だ~めだ。全部埋まってやがる」
「思ったより見つからないものですね……」
「こっちもダメでした……」
俺達はあれから、寝泊まりに使えそうな部屋を探した。けれど、結果は芳しいものではなかった。どこの部屋も住人がいるらしく、空きがなかった。
「なあ、空き家を探すんじゃなくて、宿屋とかってのはダメなのか?」
使えそうな部屋が見つからず、途方に暮れるとディックがそんな質問を投げてきた。まあ、最初に考える事はそれだよな。けど
「ここに宿屋なんてないぞ」
「え!?」
「いや、あるにはあるが、かなり割高だし、だいたい空いてない。環境もあまり良いものじゃなし、当てにしない方がいい」
「そう言う事か」
結局、そんな感じで空き部屋を探すしかなかった。
フォレストガーデンは地下迷宮内にあるという性質上結構特殊な環境だった。
まず、地上の街と違って行政などが存在しないため一つ、一つの物件の管理が明確にされていない。その上、ここに集まる冒険者という職は出入りの激しい。死亡し消息がつかめない者、負傷や衰えによる引退などなど。そういう事情から、ここの物件を誰かが長期的に保有を主張し続けるというのが困難だ。なので、ここでは、空いている部屋を自分達のものだと主張すれば、だいたいそれが通る事となっていた。
そして、そうやって空き部屋に冒険者が住み着き、使用されなくなると、次その部屋を見つけた冒険者がその場所を使う。それが繰り返され、それがある種のルールとなっていた。
「ああ、だめだ。見つからない」
「もう全部見て回ったんじゃないでしょうか? これだけ見てないとなると、諦めるしか……」
フォレストガーデンは場所柄それ程大きな村ではない。なので、物の数時間程度で村全体を見て回れてしまう。結局、使えそうな部屋は見つからなかった。
「このまま空きが見つからなかったら、俺達はどうなるんだ? 野宿か?」
「そうなるな」
「マジかぁ~。ここまで来てそれは嫌だな」
「あとは外縁に家を増設するって手があるが……まぁ、これは今だと無理だな」
結局手詰りだった。少しくらいは空きが有るかな? と思っていたが、現実は割と厳しい様だった。
そうなると、仕方ない。奥の手だ。
「こっちへ来てくれ」
当てもなく途方に暮れると、仕方なく俺は指示を出した。そして、そのまま皆を連れ、俺はある場所へと向かう。
そこはフォレストガーデンの奥、確か旧街区と呼ばれるエリアだ。
フォレストガーデンは、俺が地下迷宮へ潜るようになったころからでき始めたものであるから、その歴史は割と長い。その間、増築が繰り返され大きくなっていた。旧街区というのはフォレストガーデンの中で、最初期に作られたエリアを指す言葉だ。
今では増築された家々に埋もれる形で、少し薄暗い奥まったエリアとなっているが、今でも利用できる。そして、そこに目的の場所があった。
薄暗い通路を抜けていき、最奥までたどり着くと、苔むし自然と一体となったような扉が見えてくる。長年放置していただけに、酷い有様だ。
「ここか? ここ、使えんのか?」
ほぼ自然と一体となり、注意深く見ないと扉と分からない扉を見て、ディックがそんな不安を零した。まあ、見かけが完全にあれだからそう思うよね。けど、割と丈夫に作っておいたはずだから問題ないはず。
俺はディックの不安を受け流しながら、懐から鍵を取り出す。そして、苔に埋もれた鍵穴の蓋を開くと、その鍵を差し込み、回した。
カチッと小さく音が響き、ロックが外れる。そして、そのままガガガっと立て付けの悪くなった扉を強引に開く。すると
「これは……ひどい有様だ」
自分で自分を非難したくなるほどひどい有様の空き部屋が広がっていた。
ここは、かつて俺がフォレストガーデンに拠点を構えていた時に作った家だった。
「まずは掃除だな」
悲惨な惨状を前に、俺は溜息を付きながら、取り敢えずの指示を零したのだった。
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