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鋼の守り人

「隊列は前回と同じだ。準備は良いか?」


 方針が決まると、俺達はすぐに動き出した。


 準備を整え先頭に立ったディックが、振り返り確認を投げてくる。それに俺達は頷いて返事を返す。


 前回は強く不安の色が見られていた。けど、今回は2度目だ。一度の勝利を経験した事があるためか、その緊張の中には不安の色は少なかった。


「じゃあ、行くぞ!」


 皆からの返事を確認すると、ディックはすぐに振り返り、合図を掛ける。そして、そのまま一気に前へと踏み込んでいった。




 下層へと続く通路、その中でも守護者が居るとされる区画間の通路には必ず大きな空間が取られている。これはおそらく、守護者の行動に支障が出ない様にするためでの処置だと思われるが、なんにしてもそれに挑む冒険者にとって、ありがたい空間だった。


 その広々とした戦場へと、先頭を歩いていたディックが踏み込んでいく。すると、地面に描かれた魔法陣が輝きだし、その中央辺りに何かが現れ始める。


 それは、一つの歯車だった。一つ、二つ、三つと歯車が増えていき、それらが組み合わさっていく。そして、それが一つに人型になり始めると、その身体を覆う様に装甲が現れ始め、完全体となる。


 体長は人の二倍程度ある、人型のクロックワーク・ゴーレム。こいつが、第10層に配置された守護者だ。




「なんだ……こいは!」


 目の前に現れたクロックワーク・ゴーレムを見て、ディックが驚きの声を上げる。それもそのはずだろう。この階層の守護者は、前回の守護者とは大きく異なる。


 実は地下迷宮には2種の防衛用クリーチャーが存在する。一つが迷宮獣、そしてもう一つがこの人造クリーチャー――ゴーレムだ。


 前回は迷宮獣――召喚獣であったが、今回の守護者は、人造クリーチャー――生命を持たない一種の自律機械兵器。驚くのも無理はない。


「見た目に惑わされるな! いつも通りやれば問題ない!」


 一瞬の動揺が広がる。これは仕方ない。この手の人造クリーチャーは地下迷宮では多くいる。だが、そのほとんどは下層でみられるものであり、この階層まで見られるものは、目の前のクロックワーク・ゴーレムが初だ。戸惑わないわけがない。


 だが、こいつは見た目に反し、弱い訳ではないが特別な能力を持たない。今まで通り立ち回れば問題なく倒せる敵だ。


 俺の助言が効いたのか、広まった動揺がすぐに収まる。




「行くぞ!」


 ディックが先陣を切って走る。そして、ゴーレムとの距離を詰めると、剣を振るった。


 ガキーン! 火花が散り、ディックの剣が弾かれる。ディックの剣は、確かに胴体を捕らえていた。だが、それでも弾かれてしまった。


 クロックワーク・ゴーレム、というかゴーレム種全般はその身体を金属または高硬度鉱石などで作られている。そのため、攻撃を的確に命中させても、生半可な攻撃では弾かれてしまう。


「くっ……」


 攻撃が弾かれた事で、ディックが大きくよろける。その隙を逃さず、ゴーレムがパンチを繰り出してくる。


「クッソ……!」


 ギリギリのところでディックは盾を突き出し、攻撃を受けると、そのまま後方へと吹き飛ばされた。

 戦線が崩れた。それを見て、素早くクレアが前に出る。


「変わります!」


「頼む」


 ディックに変わり、クレアがゴーレムの前に立つと、剣を両手で握り締め、振るった。

 ガキーン! 火花が散る。力の乗った一撃。こちらは完全に弾かれる事はなかったが、それでも斬撃は装甲で止まっていた。


「ゴオオオオオオオ――」


 唸り声をあげる様にして、ゴーレムが動く。


 ゴーレムが拳を振り上げ、クレアへと振り下ろす。クレアはそれに剣を合わせ、受け流した。


「やああああ!」


 返す刀で、クレアが勢いよく剣を振り上げる。


 再び火花が散る。だが、固い装甲を砕くことは出来ず、クレアの斬撃は阻まれる。通りが悪い。けれど、ディックと比べるとうまく対処できていた。


「そのまま足止めを頼む!」


 クレアがゴーレムを上手く足止めしてみせたのを見て、ディックがそのままゴーレムの側面に回り込む。


 ディックは盾と剣を扱うオーソドックスな戦闘スタイルを取る戦士だ。そのため、盾を扱わないクレアに対し、防御力が高い。なので、今までディックがメインの足止め役を買って出ていた。


 だか、今回は少し相性が悪かった。ゴーレム種は高い防御力と攻撃力が売りの人造クリーチャーだ。反面、素早さが落ちる。攻撃力の高さゆえに、それを正面から防御力で受け止めるのは難しい。だから、今回は、盾を使わず回避に重きを置いた、クレアのスタイルの方が相性が良かった。それを判断してか、ディックは素早く足止めをクレアに任せたのだ。


「仕掛けます!」


 クレアがゴーレムの足止めに成功したことを確認すると後衛人が攻撃を開始した。


 まずは、レイラが手にした弩を構え、ゴーレムへ向けて矢弾を発射した。


 真っ直ぐと射出された矢弾は。クレアの足止めもあり、ゴーレムの身体を捕らえる事ができた。だが――ガツン! と大きく衝撃音が響いたかと思うと、矢弾はゴーレムの装甲を貫くことなく、弾かれた。


「か、固い」


「ならば、こっちはどうじゃ!」


 レイラの矢弾が弾かれたのを見て、ヴェルナが杖を掲げる。


「魔力よ、燃えよ。炎よ、矢弾となりて敵を穿て! 炎の矢弾(ファイア・ボルト)!」


 詠唱を一つ。すると、ヴェルナの掲げた杖の先端から、炎の矢弾が発射され、ゴーレムを襲う。だが――それはゴーレムの装甲に触れる直前で砕けて消えた。


「チッ! これもダメなのか!」


 ヴェルナから舌打ちが零れる。


「ゴーレム種に魔術は聞かないぞ」


「なんじゃと! それを早く言わんか!」


 ゴーレム種の多くは、その内部に強力な魔導反射機能を有する。それ故に、ゴーレム種に対し魔術一切は機能しない。割と有名な話かと思っていたが、ゴーレム種を始めてみるヴェルナは知らなかったようだ。


「ならこっちじゃ!」


 ヴェルナはすぐさま杖を銃へと持ち替え、ゴーレムへと発射する。けど、それはゴーレムの分厚い装甲に弾かれる。弩に比べ、貫通力で勝る火器でもゴーレムの装甲は貫けないようだった。


「これでもダメか!」


 再び、ヴェルナから悪態が零れる。


 ディックとクレアの斬撃、レイラとヴェルナの射撃による攻撃、そして魔術による攻撃。結局すべて弾かれてしまった。


 手詰まり――そう見える。だが、


「そのまま攻撃を加え続けろ」


 俺は、そう指示を返した。


「そんなんで通るのかよ! 全然聞いてないぞ!」


「弾かれてはいるが、ダメージの蓄積はある。ゴーレム種に自然治癒能力はない。そのまま続ければ、そのうち装甲を砕けるはずだ。そのまま続けてくれ」


「チッ! そう言う事かよ!」


 ディックから苛立ち気味の声が返ってくると、同時にディックが剣を振るった。火花が散り、ディックの剣が弾かれる。あれなら確かに苛立ちも溜まりそうだ。


 俺も剣を引き抜き、前へと出る。さすがにこのまま何もしないわけにもいかなそうだった。




「やっ!」


 ゴーレムの死角に回り込んだイーダが、背後からゴーレムに斬撃を仕掛ける。ゴーレムの関節部を狙った正確な攻撃だ。ゴーレムは固い装甲に覆われている。だが、可動部にはどうしても構造的に脆くなるいう欠点があった。そこがある意味でのゴーレムの弱点だった。イーダはそれを的確に付いていた。だが――


 バキ―ン! 大きな音が響いたかと思うと、イーダが振り下ろしたダガーの刃が砕け散った。


 ゴーレムの可動部は脆い。だが、構造故に固い装甲と装甲が噛み合う場所でもある。そこに挟まったダガーが砕かれてしまったのだ。


「チッ!」


 イーダが舌打ちを零すと、砕けたダガーを投棄する。


「やあああああ!」


 一端、ゴーレムからよりを取るイーダ。それと、ちょうど入れ替わる形で、クレアが踏み込み、長剣を振り下ろした。


 鋭い斬撃がゴーレムの身体を襲い、叩く。大きな衝撃音が響き、火花が散る。それでも、まだ、ゴーレムの装甲は砕けずにいた。


 バキ。嫌な音が響く。クレアが自身の手にしていた剣の刀身へと目を向ける。それは小さく歪み、亀裂が入り始めていた。


 固い身体を持つ相手と相対した時、武具の固さが物を言う。相手の装甲に対し、こちらの武具たちが先に限界を見せ始めたのだ。


「クッソ!」


 ディックから悪態が零れる。状況的には上手く回っている。だが、武具の限界が近い。こればかりは治癒魔術ではどうしようもできない。焦りが見えてくるのも理解できる。


「らああああ!」


 ディックが剣を振るい、斬撃をゴーレムに叩きつける。


 バキッとその斬撃により、ディックの剣が限界を迎え砕け散る。限界を超えたのだ。だが――


 バキ――……


 同時にゴーレムの装甲にもヒビが入った。限界が近いのは相手も同じの様だ。


「畳みかけろ!」


 ゴーレムの装甲に入ったヒビを見て、ディックが叫ぶ。その声が呼び水となり、そこから攻撃が一気に加速する。そして――


 バキバキバキ――……と畳みかけられた攻撃により、その損傷が大きく広がり、最終的にゴーレムの身体が崩壊した。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……――」


 長い戦闘を終え、肩で息をしているディック達が見守る中、ゴーレムは崩れ去り、ガラクタと化す。


 静寂が満たされる。崩れ去り、ガラクタとなったゴーレムは動くことはなく、それを見守るディック達の呼吸音だけが辺りに響き渡る。


「よっしゃ~~!!」


 戦いの後の静寂。それが終わりの合図となり、それを実感するとディックは歓喜の声を上げた。それが最終的に勝利に合図となった。

お付き合いいただきありがとうございます。


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