変化の兆し
「さてと、行くとしますか」
日が経ち、朝になると、俺達は再び先へと進む用意を整える。
「で、どうする? ここで分かれるか?」
そしてそれは、昨日共に戦ったディック達PTとの別れを意味する。
「どうするって言われてもなぁ……」
「なんだったら、いけるところまで一緒に進まないか? 何て」
けど、流れでそんな話が出てくる。割とPT間の交流は悪くなかった。だから、歩調を合わせて進む。という選択もなくはない。
ここから先は、両PTにとって未知の領域だ。PT人数を増やし、安全マージンを高めるというのも、悪くない選択だと思う。そんな訳で、何となく、俺達はこの先もディック達PTと共に進む事になったのだった。
* * *
6層から10層までは、今までの階層と異なり、新たな階層へと切り替わる。今までの地下水路の形の迷宮ではなく、完全な自然洞窟――人工物とされる地下迷宮からは大きくかけ離れた姿となる。
実際、この区画は、他の区画と異なり、1から人の手で作られた階層ではなく、元からあった自然洞窟を通路として使用されている少し特殊な区画だ。それ故に、この区画は不規則であり、調査が進んだ区画でありながら謎な部分が多い。
この区画は自然洞窟故に、ここで出現する魔物のほとんどは、この洞窟に古くから暮らす魔物達だ。地下迷宮固有の迷宮獣などは、まだ少ない。
「前方通路直線、ジャイアント・ハンディング・スパイダー、来るよ!」
「OK、任せろ! 行くぞ、クレア!」
「はい!」
結局そのままディック達PTと進む事になった俺達は、この階層も問題なく進む事が出来た。
1層から5層までの地下水路を元とした区画は、下へ下へと進むにつれ遭遇率が増していったが、6層に入るとそれが少し低下した。
6層以下の区画は、5層より上に比べ、一つの一つの敵の個体が強くなるが、反面遭遇率は下がるのだ。それは、ここが群れることなく活動する種が多いからだ。
強力ではあるが個体数が少なく遭遇率が低い相手、これにはPT人数が多い事はプラスに働く。よって、今まで以上に、安全かつ確実に進む事が出来ていた。
そして――……
「前方、人工物を確認……魔法陣らしき刻印も見られますね」
「じゃあ、あれが例の――」
「下層への通路と、守護者召喚用の魔法陣でしょうね」
第6層へと踏み込んでから数日。俺達はようやく第10層の底――第11層へと続く通路と、それを阻むための守護者の場所へとたどりついた。
2度目の障害だ。
「どうする? いったん様子見するか? それともぶっつけ本番で挑むか?」
11層への通路を発見すると、その場にとどまり、話し合いへと移る。
守護者はその階層で出会う敵よりも、数段強い。そのため無策で挑むのは危険だ。けど、ここまでほとんど問題なく進む事が出来ていた。それが自信となっていたのか、彼らの間にはそう簡単には負けない。という空気があった。
こういう空気こそ危ない。と、少しだけ不安に思うが……こういう時こそ上手くいく事もある。それだけに、何とも判断しずらかった。
(まぁ……大丈夫だろう)
軽く記憶を探り、この階層の守護者の情報を思い出す。俺の記憶が正しければ、この階層の守護者は特段特殊な能力はもっていなかったはずだ。普段通りやれば、活路を見いだせなくもない。
「俺はこのまま行けると思っている。お前たちはどうだ?」
ディックはそう提案を続ける。それに、他の面々は少し考えこむ素振りを返した。
視線を感じる。顔を上げると、クレアにイーダ、それからヴァルナが俺へと視線を向けて来ていた。俺に判断を求めている。そんな空気を感じだ。
だからそうやって、すぐに最適解を求めるのはやめようって……。それにはとりあえず、苦笑いを返しておいた。
数日見ていて分かった事だが、ここ最近クレアとイーダ、それにヴェルナの3人が俺に判断を仰ぎすぎている気がする。緊急時に意思統一を図りやすいのは良いが、俺の判断に依存しすぎるのはあまり良い様には思えない。
『実は……移籍先を探してるんだ』
ふと、先日聞いたディックの言葉が思い出される。
一つのPTがそのまま残り続ける事は少ない。俺達PTもいずれはバラバラになり、それぞれがそれぞれの判断で動いてく事になるだろう。そうなった時、イーダとクレアはどう動くのだろうか? そこが、少し不安になってしまった。
「ユリ!」
唐突に大きく名前を呼ばれ、ハッとする。いけない、少し物思いに沈んでしまっていたようだ。
「悪い。何?」
「話聞いてたか? 守護者に対し、最初から全力で行くのか、一度様子見をするかって話だ」
「ああ、それね。今、どんな感じだ?」
「俺達はこのまま行くって意見だ。で、そっちのPTの判断待ち。しっかりしろよな。PTリーダーなんだろ?」
「だから、俺はPTリーダーじゃないって……。取り敢えず、俺の判断はクレアに任せるよ」
問われると、俺は判断をそのままクレアに投げた。
この辺りの判断は、俺がするべきじゃない。そう思ったからだ。
「なんだ、あいつ?」
「さ。さぁ……」
そんな投げやりな答えに、イーダが少しだけ不満を漏らし、クレアは小さく苦笑いを浮かべた。
「まあ、奴には、奴なりの考えがあるのじゃろう」
「なんだよ。考えって」
「妾が知るはずなかろう。じゃが、まあ、取り敢えず妾達に自由にしろって事じゃろうな」
「なんだ、その上から目線な態度は……」
そんな不満を漏らすイーダに、ヴェルナが取り敢えずのフォローをしてくれていた。まあ、あまり意味なさそうだったけど。
そんな感じで、俺達の2度目の守護者戦は、そのまま突き進む事となった。
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