表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/163

戦いの後には?


 ディックの大きく振り上げられた剣が、守護者へと襲い掛かる。


 守護者はそれを避けようとするが、ギリギリのところで浅く掠る。


 戦闘は続いていた。


 ルーアの治癒呪文のおかげで、ディックとクレアに蓄積されたダメージが定期的に癒されるため、戦線が維持され続け、そのまま攻撃が維持され続けていた。


 そして、攻撃が続けば続くほど、守護者へ蓄積されたダメージが大きくなり、そして――


『ガアアアアアア!』


 守護者が大きく吠える。すると、高く跳躍し足止めをするディックとクレアの上を飛び越える。強引に前衛を突破してきたのだ。そうでもしないと勝てない、そう判断したのだろう。蓄積ダメージが限界に近いという合図だ。


「そっち行ったぞ!」


 抜けられたディックから、大きく声が届く。


 抜けた守護者が向かった先は勿論、攻撃の要である狙撃手のレイラとヴェルナの方向だ。


 そして、その間には念の為に待機していた、俺が立っていた。


「はぁ……」


 ため息が零れる。最後の最後で、こちらに来るのは、遣る瀬無い。けど、来てしまったのなら仕方がない。


 そっと、剣に手を掛ける。そして――


『ガアアアアア!』


 迫りくる守護者に対し、剣を振り上げた。


 一刀両断。最後の一撃が決まり、守護者の身体は真っ二つに切り裂かれ、動きが止まると、まるで霧の様に消え失せてしまった。


 討伐完了。これにより、俺達は勝利を手にした。




   *   *   *




 実態を持っていた守護者の身体が、ピタと止まると、身体の端からまるで霧の様に崩れていき、霧散する。


 消え失せた身体の中から、手のひら大の輝く赤い結晶石が現れ、落下する。俺はそれを慌てて受け止める。


 しばしの静寂が流れる。皆、何が起きたのか受け止めかねているのだろう。そんな、戸惑いにも似た空気が流れた。


「倒した……のか?」


 静かにディックからそんな問いかけが零れる。俺はそれに静かに頷いて返事を返す。すると、


「うっしゃぁ――――!」


 大きく喜びの声が上がった。


 皆がようやく勝利の実感を得た瞬間だった。




   *   *   *




 守護者の討伐を終えると、そこからは少しの間、ちょっとしたどんちゃん騒ぎとなってしまった。


 感極まったディックが祝杯を上げたいと言ったため、そのまま盛り上がってしまった。結局それは夜まで続き、皆が寝静まるまで続いた。


 解散のタイミングを見失ったために、俺達はそもままディックと同じ野営地を作り、共に一夜を過ごす事となってしまった。




 皆が寝静まり、不寝番に立った者達だけになると、ようやく辺りは静かになった。やっと落ち着ける。そう思うと、小さく安堵の息が零れた。


「悪いな……つい、騒ぎすぎちまって」


 息を付くと、ちょうどよく当たりの見回りに出ていた、ディックが戻ってきて、そう謝罪を告げた。


 今の時間は、俺とディックが夜の番をする時間となっていた。


「いいよ。嬉しかったんなら、ちゃんと嬉しがった方がいい。その方が、見ていて気分が良い」


「そっか、ありがとう」


 俺の返答に、そう小さく感謝の言葉を返すと、ディックは俺の対面に腰を下ろした。


 静かに、無言の空気が流れる。


 なんだかんだで、出会ってまだ1日も経っていない。こういう時、何話せばいいか分からなかった。人付き合いが苦手な人間の性ってやつは、こういう時辛い。


「な、なあ……」


 しばらくして、無言の空気に耐えられなくなったのか、ディックの方から声を掛けてきた。


「なんだ?」


「その……ありがとうな」


 返ってきたのは、唐突な感謝の言葉だった。


「なんだよ、急に」


「いや、その……俺達の申し出に乗ってくれたことだよ。一緒に戦ってくれて……感謝している」


「その事か、別に必要だったから、応じただけだよ。特別感謝される事じゃない」


 その言葉に、適当な返事を返す。


 実際問題、ディック達と協力する必要があったかというと、多分必要なかっただろう。けど、正直なところ、ディック達の申し出はありがたかった。


 冒険者PTと言うのは、割と閉塞的だ。それだけに、外との繋がりが出来、他の者達と連携を取る機会というのはそうそうない。だが、だからと言ってPT内で閉じこもっていていいわけではない。状況によって今回の様に他PTを協力する必要はある。


 今回はそんな貴重な体験ができただけにありがたいと思っていた。


 一つのPTがずっと長く存続し続ける。という例は、実は少ない。特に、スタート――最初に組まれたPTが残り続ける事は殆どないと聞いた事がある。人間ここの成長速度は違う。特に、戦士と魔術師での成長速度には目に見えて差がある。それ故に、先へ進めば進むほど、PTメンバー間で能力の差が出てきてしまう。そうなると、PTに不満を持つものが出るか、環境に付いていけないものが出始め、自然と消滅するのだ。

 そうなった冒険者は次のPTを探す事に、その時、今回の様に他のPTと知り合っておいたり、繋がりを持っていたすることが役に立つ。だから、今回の件は割とありがたかったかもしれない。

 俺は、今のPTがずっと続くとは思ってないし、続けなければいけないとも思っていない。だから、ちょうどよかったのだ。


「それにしてもすごいな」


 しばし、物思いにふけっていると、ディックがそんな感想を零してきた。


「すごいって、何がだ?」


「あんたんとこのPTだよ」


「?」


「メンバーがしっかりバランス良くまとまってる。戦士に、斥候、射撃手兼魔術師、それに神官と完璧じゃん。良く集められたな」


「ああ、そういう。たまたまだよ。そもそも、俺が集めたPTじゃないし」


「あれ? そうなのか? てっきりあんたを中心に集まったPTなのかと思っていたよ」


「中心って……」


 小さく苦笑いを返す。なぜ、そう認識された……。


 まあ、PT内の一番の経験者って事で、判断を仰がれる事があるが、別に俺中心とは思っていない。けど、外からだとそう見れるのか? まあいいか。


「そう言う、そっちも良くまとまってるじゃないか」


「え? ああ、そう思う」


「戦士に、射撃手、斥候、魔術師。十分だと思うけど」


「まあ、そうだな。けど、こっちもたまたまだよ。ほとんど同郷の人間で、一緒にアリアストに来て、一緒に冒険者になった連中だよ。そんなすごいもんじゃない」


 ディックは、小さく笑いながら答え。


 そう言えば、他の冒険者の身の上話をほとんど聞いた事が無かった事に気付く。クレアからは少しだけ身の上話を聞いたが、同じPTのイーダでさえ、俺は殆ど知らない。だから、彼らの話に少しだけ興味が引かれた。


 けど、根ほり葉ほり聞くのは、なんだか気が引けたので、そっと口を閉ざした。


 また、無言の空気が流れる。そうすると、再び無言に耐えられなくなったのか、ディックはゆっくりと口を開いた。


「な、なぁ……」


「なんだ?」


「あのさぁ……。あんたんのとこのPT、空きってあるか?」


「空き?」


「他の人員を受け入れる余裕はあるかって事だよ。行けるか?」


「? どうだろうな……ちょっと分からない。なんでだ?」


 割と唐突な質問だった。意図が分からず、問い返す。すると、ディックは少し困った表情を返した。


「実は……移籍先を探してるんだ」


「移籍先? 今のPTから離れるつもりなのか?」


「まぁ、そんな感じだ……」


 ディックの答えに、俺は少しだけ驚かされる。


 一つのPTがずっと長く存続し続ける。という例は、実は少ない。特に、スタート――最初に組まれたPTが残り続ける事は殆どないと聞いた事がある。人間ここの成長速度は違う。特に、戦士と魔術師での成長速度には目に見えて差がある。それ故に、先へ進めば進むほど、PTメンバー間で能力の差が出てきてしまう。そうすると、PTに不満を持つものが出始め、自然と消滅するのだ。


 だから、冒険者の中には、PTである程度安定していても、移籍に付いて考えている人が居たりするのは知っていた。けど、見た感じ、気心知れた中で、すごく仲がよさそうなPTだった。それだけに、その中で移籍を考え始めている事に驚かされた。


「なんでだ? 全然雰囲気良さそうじゃないか。わざわざ移籍する必要なんて……」


「まぁ~、そうなんだけどさ。けど、俺のPT、多分、そんなに長く続かないから……」


 少しだけ寂しそうにしながらディックは笑った。


「なんでだ?」


 ますます理解できなかった。あれだけ仲がよさそうなら、まだまだいけると思えてしまう。


「もともと、目的が違うんだよ。だから、目的が果たされれば、そこで終わり」


「目的? 同郷なんじゃないのか?」


「同郷だよ。けど、アリアストへ来た目的は別々だったんだよ。

 俺は冒険者になるためだったけど、ノーマンは魔術師になるための勉強する環境を手に入れるため、レイラは嫁ぎ先を探してって感じで。もともとは、アリアストに着いたらすぐ解れるつもりだったけど、都会だと何かと金が掛かるだろ? そんで、金が無くて、しばらく冒険者でってなったんだ。けど、それも、そろそろ終わりかなって。

 ノーマンに、魔術師の先生が付いてくれるようになるみたいだし、レイラは今の流れだとそれに付いていきそうだし、そうなると俺は一人だ……」


 ぼうっと、床に置いた魔導灯の光を眺めながら、ディックは、そう吐露した。


「マリカは? あいつとも別れる事になるのか?」


「さぁ? マリカはこっち来てから知り合った相手だし、目的とかは知らない。まあ、このままノーマンとレイラが抜ける事になると、俺はあいつと一緒に、移籍先探す感じになるかな? だからだ、これも何かの縁って、感じで、良かったら……一人か二人、受け入れられないかって」


 ぽつぽつと話しながら、ディックはそう頼んできた。


 それに付いて、少し考える。PTのバランスとしては、これ以上増やすのは少々統率が取り辛くなる。あまり褒められた状態ではなくなってしまう。だから、受け入れたくはない。けど、まあ、これは俺個人の判断で決める事じゃないし、何とも言えない。


 そんな風に少し考えると、それからおおよその事を察したのか、ディックは首を振った。


「悪いな。今のはなしだ。都合よすぎるよな。急に変な事言って悪かったな。今のは忘れてくれ」


 そして、そう締めくくる。


「別に無理だとは、言ってないぞ……」


「良いんだよ。顔が、何となくそう言ってる。俺が入って、あんたらのPTの空気を悪くするのも嫌だし、俺のPTも、今日明日解散って事でもないし、しばらく考えるよ」


「そっか……」


 そんな感じで、この日は終わりを迎えた。

お付き合いいただきありがとうございます。


ページ下部からブックマーク、評価なんかを頂けると、大変な励みになります。よろしければお願いします(要ログインです)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ