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先を歩む者

「急で悪いな」


「いや、構わないよ」


 冒険者と名乗った来訪者。その人物にはとりあえず中に入っても貰った。


 冒険者。同業者であるなら、仲間と言えなくもない。だが、冒険者を狙った殺人犯が、冒険者を騙らないとも限らない。まだ、警戒を緩める訳にはいかない。


 とりあえず、彼の同行者――おそらくPTメンバーだろう。彼らには外で待機してもらう事にした。


「まさかこんな再開を果たすとはな。冒険者という話は嘘ではなかったようだ」


 相手の冒険者は俺の顔を見て、小さく笑った。見た事がある顔だ。先日、イーダを探しに出た晩に出会った冒険者だ。装備をその時のままだ。見間違いではない。


「嘘なんか付いてどうする。というか、覚えていたんだな」


 一度、目の前の冒険者の装備へと目を向ける。大型の戦斧に、重そうな板金鎧、どれも見るからに一級品と分かる。詳しく見てみなければ詳細は分からないが、魔術による強化も施されている様に見える。


 これだけの装備を揃えられるという事は、それなりの実力者という事になる。そんな冒険者が、ほとんど無名の俺の顔を覚えていたことに、少し驚いた。


「忘れる訳ないだろ。俺を前にして平然としてられる人間は少ない。だろ?」


 また、俺の顔を見て笑う。


 少し、油断していたのかもしれない。いや、最初から隠す気などそれほどなかったのだから、今更か……。


 目の前の冒険者からは、言いようのない圧が感じられた。今すぐにでも、お前を切り殺す事ができる。そんな、殺意にも近い気迫だ。これを前にすれば、確かに並みの人間ならまともな精神ではいられないかもしれない。


「貴様は何者だ?」


 相変わらずの変化を見せない俺に、目の前の男はそう尋ねてきた。


「冒険者だよ。一応、新米の」


「またその答えか」


「嘘偽りはないからな」


「なるほど。貴様がそう言うんなら、そう言う事にしておこう」


 嘘を付いたつもりはないが、割と怪しい回答だと俺も思う。それに、目の前の男は追及を諦め、取り敢えずの納得を返した。


「それで、何の用なんだ?」


 話を元に戻す。結局、この男とその仲間たちは、何の目的があり俺達の夜営地へと来たのだろうか? それをまだ聞いていなかった。


「用か、特別な用などないさ」


「なら、なぜ?」


「単純な話だ。こんな場所で夜営をするんだ。仲間は多い方が良い。同じ冒険者が近くに居るのなら、別々に夜営する理由もないだろ? だから、共にどうかと思ったんだが――」


 男はざっと、俺の背後で眠る3人と、それから黙ったままのクレアに目を向けた。


「邪魔をしてしまったようだ」


「邪魔?」


「少し、脅しすぎたようだ。悪いな」


 言われて、クレアへと目を向けてみる。それでようやく気付く。クレアは、先ほどの男の圧にやられ、少し怯えている様に見えた。


「それでは安心して休めないだろ?」


 そう答えると、男は立ち上がった。


「邪魔したな」


 そして、そう告げると踵を返し、外へと歩き出した。だが――


「ま、待ってください!」


 クレアがそれを呼び止めた。


「なんだ?」


「あ、あなたは……冒険者、ですよね? れ、レベルは、幾つですか?」


 まだ、怯えがあるのだろう。少し震えた声のまま、クレアは男に尋ねた。


「公言するのは好きではないんだがな……32レベルだ」


「未踏破領域挑戦者……ですか」


「だったらなんだ? 悪いが、お前みたいな弱者に用はないぞ」


 軽く男が睨みつけてくる。それにクレアは耐えきれず、少しだけ身体を震わせる。


「クライヴ・クロムウェル。この名前の冒険者を……知っていますか?」


「クライヴ……ああ、あの貴族崩れの冒険者か……それがどうかしたか?」


「知っているなら。知っている事を教えてくれませんか?」


「知っている事……ねぇ。悪いが何も知らない。顔を合わせたはあったが、交流はあまりなくてな」


「本当ですか?」


 さらに追及を返す。それに、男は小さく笑った。


「小娘。良い事を教えてやろう。情報っていうのはただじゃない。こと、入手困難な情報に関してはな。お前はこの情報に、どれくらいの対価が払える?」


「そ、それは……」


「ただって言うんなら、俺は何も話せない。話して欲しければ、俺をその気にさせて見せる事だな」


 男の斬り返しに、クレアはどうにもできず黙り込んだ。


 それを見て男はこれ以上の追及は無いと判断したのか、踵を返した。


「邪魔したな」


 そして、最後にそう告げると、遮光カーテンを潜り、外へ出て行ったのだった。




   ――Another Vision――


「で、どうだったの?」


 遮光カーテンを潜り、ユリたちの夜営地から外へ出ると、外で待機していた仲間の一人が声を掛けてきた。


 魔術師風の妖艶な女性。男の――フィルマンのPTで最も付き合いの長い魔術師、エヴェリーナだ。


「エヴェリーナか、悪いな。話にならなかった」


「それは、聞き入れられなかったって事? それとも、いつもの様にぶち壊し?」


「後者だ」


「はぁ、まったく。もうちょっと大人しくできないのかね。あんたは……」


「性分だ。仕方ない」


「そう。なら、移動って事?」


「そうなるな。皆に、そう伝えてくれ」


「分かったよ」


 返事を返すと、エヴェリーナは振り返り、皆の元へと歩き始める。それをフィルマンは呼び止めた。


「待て」


「何?」


「前に、ユリという男に付いて調べてくれ。と頼んだと思うが、あれはどうなった?」


「ああ、あれね。調べられるだけ、調べてみたけど聞く?」


「ああ、話してくれ」


「残念ながら、何も分からなかったわ」


「何も?」


「ええ、何も。真っ白。出自も経歴も家族構成も何もかも不明、目立った経歴は無し。分かった事は、二か月くらい前に冒険者登録をして、冒険者になったってくらい。レベルは現在1レベル」


「1レベル?」


「まだ6層にも到達してないって事。完全な新米下級冒険者ね。まだ気になるの?」


 エヴェリーナがそう尋ねると、フィルマンは小さく笑った。


「気になるさ。久々に、俺を前にして平静でいられた相手だ。ただの人間って事はないだろう?」


「何度も言うけど、ただ鈍感だっただけじゃない?」


「かもな。だが、いずれ分かる」


 静かにそう告げると、フィルマンは振り返り、ユリ達の夜営地へと目を向けた。


「貴様とはいずれどこかでぶつかる事になるだろう。地下森林で待っているぞ。ユリ・レイニカイネン――」

お付き合いいただきありがとうございます。


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