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地下で出会う者

「これ、ここでいいですか?」


「あ、うん。それは、そこに設置して」


「分かりました」


 第2層へと下りしばらく進むと、俺達は安全そうな場所を探し夜営の準備を始めた。


 日の光が届かない地下迷宮。けれど、そこには依然として時の流れが存在し、人の体力を奪っていく。


 クレアが所持していた懐中時計で時刻を確認してみたところ、ちょうど夜の8時頃を差していた。


 戦闘にも慣れ、余裕をもってここまで進む事が出来た。けれど、それでも人は時間が来れば眠くなり、休息を必要としてくる。


 一人の時は気にしていなかったが、今はPTでの行動だ。さすがに、他のメンバーを俺と同じように行動させるわけにはいかず、夜営をすることとなったのだ。


「これは、こっちで良いのか?」


「うん。あ、違う、その長いのは別で使うから、そっちの少し短いのを使用してくれ」


「うむ、了解した」


 迷宮内での夜営。今まで、なんだかんだでやれてこなかった。なので、今回が初めての経験となった。そのため皆、設営に慣れていない。なので、そこは一応の経験が有る俺がサポートする。


「こんな感じですかね」


「だね。これで完成かな」


 こうして夜営の為の設備が一応の完成を見せる。


「じゃあ、後は食事の用意と……それから夜警のローテ決めか?」


「そうだね。食事は保存食を軽く調理すればいいとして……夜の番は俺が全部やるよ」


 軽く、頭の中で夜の事を考えながら答えを返した。


「え!? 全部ひとりでやるつもりですか?」


「それ、大丈夫なのかよ……身体持つか?」


 さらっと答えてしまったが、今更ながら俺は仲間に、俺自身は寝なくても良いという事を話していなかった事を思い出した。それを知らなければ驚かれても仕方がない。


「え、あ、うん。問題ない。少しくらいなら、寝なくても問題ない様に訓練してるから、任せてくれ」


「とは言われてもなぁ……」


「それはちょっと……」


 とりあえず当たり障りない様に答えてみたけれど、それでもやはり任せきりにするのは不安があるのか、イーダとクレアの二人は少し渋い顔を返した。


「まあ、任せきりにするのが不安なら、ローテを決めて、それプラス俺で夜の番をやろう。それでいいだろ?」


 確かに俺に任せきりというのは良くない。良く考えると、ずっとこのPTでやっていくかも分からないわけだし、そうなると、夜の番の経験がないままというのは致命的な問題となる。なので、そう妥協点を出した。


 ただ、それでもやっぱり納得できないのか、クレアは渋い顔を返した。


「とりあえずはそれで、けど、やっぱりちょっと気になるので、ユリさんも時間を見つけて休んでおいてください。動けなく成られると困るので」


「分かったよ」


 そんな感じで、俺達は夜営をする事となった。




   *   *   *




「なんだか不思議な感じがしますね」


 夜営の設営が終わり、皆が寝静まると、辺りは一層静かになる。今は、床に置いた魔導灯に照らされた明かりの中に、俺とクレアだけが起きていた。


「不思議って?」


「なんと言いますか、人が本来暮らす場所でない所で、一晩泊まるっていうのが、なんだか想像できなくて、ちょっと不思議な気分です」


 そう答えるとクレアは一度辺りへと目を向けた。


 周りは固い石畳。それも、人が暮らす用の清潔感のあるものではなく、長らく野ざらしにされていたような埃っぽさがあるものだ。そこに、通路に遮光カーテンを掛け、光が漏れないように仕切り仮設の居住区とした小さな部屋。確かに、普通の生活をしていた人間からはちょっと想像できない環境かもしれない。


「あれ、でも、エヴァリーズの時もこんな感じじゃなかったか?」


 けど、エヴァリーズに滞在した際に泊まった場所と大差ない気もする。


「それは、そうかもですけど。あの時は人の手があったといいますか、安心感が違ったので……」


「今はその安心感が無いと?」


「そういう訳ではないんですけど……その度合いが違うというか……正直に言いますと、寝るのがちょっと怖いです。あのカーテンの――闇の向こうには、魔物達が……居るわけですよね? それを考えちゃうと、ちょっと怖いです。だから、余計に……違うというか、不思議な感じがしちゃいます」


「なるほど」


 改めて言われると、確かにそうかもしれない。俺はこの環境に大分慣れてしまっていたから、あまりピンと来なかったけれど、それでも思い返してみると、初期のころは寝るのにも苦労したように思える。


 一度、静かに眠る三人の姿へと目を向ける。よくよく考えると、この三人は良くすんなり眠れるものだと感心する。


「けど、怖いかもしれないけど、寝てもらわないと困るけどな。地下で体調を崩されたら困る」


「それ、あなたが言いますか?」


 何気なく返したら、そう笑い返されてしまった。


 確かに俺が言えたことでは無かったな……。




 そんな感じで夜が更けていく。そして、しばらくすると、夜の番の交代の時間が近づいてくる。


「そろそろですね。私、起こしています」


 手にした懐中時計で時刻を確認すると、クレアが立ち上がる。


 そして、眠っているイーダを起こそうと振り返ると、その場で手を止めた。いや、止めさせた。


 手を翳し、静止の合図を掛ける。


「何か……ありましたか?」


 小声でクレアが尋ね返してくる。それに、俺は口元に人差し指を当て、静かにするように合図を出す。


 この場から一度音が消える。すると、遠くの微かな音が聞こえてきた。


 ザク、ザク、ザク――……。砂を踏みしめる様な、何かの足音だ。


 数は複数。おそらく5人くらい。足音の大きさは比較的大きい。ゴブリンではない。となると、ボガード? だが、ボガード基本単独であり集団行動などとらない。となると答えは――――人間だ。


 同じ冒険者か、もしくは例の殺人事件の犯人。いずれにしても警戒しておく必要がある。俺はそっと腰に下げた剣に手を掛けた。


 それを見て、クレアも剣に手を掛ける。


 ザク、ザク、ザク――……。足音が少しずつ大きくなってくる。近付いて来ているのだ。


「起こした方がいいですか?」


「いや、まだ敵とは限らない」


 ザク、ザク、ザク――足音がさらに大きくなり、閉ざした遮光カーテンの目の前までやってくると――足音が止まった。


 ガンガンガン。


「冒険者だ。話がしたい。入れてもらえないだろうか?」

お付き合いいただきありがとうございます。


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