今の実力
「では、ご武運を――」
地下への門を警備する衛兵に見送られながら、俺達はその巨大な門をくぐった。
日を置き、俺達はようやく久しぶりの地下迷宮へと下りる事が出来た。
暗く長い階段を、魔術による少ない明りを頼りに降りていく。そして、地下の広い迷宮へと下りた。
「ここが地下迷宮ですか……」
地下水路にも似た構造の、広々とした通路が伸びた、不思議な空間。それを始めて目にしたルーアは、まずそんな感想を漏らした。
「なんか、久しぶりって感じが強いな」
「そうだな」
次にイーダがそんな感想を零し、それに同意する。なんだかんだで、ここ一月以上地下迷宮へと戻る事が出来なかった。それだけに、すごく不思議な気分を抱いた。
「じゃ、進むとしますか。頼みますよ。マッパーさん」
「はい」
しばしの間、胸に沸いた不思議な感覚を噛み締めると、俺達は奥へと歩き始めた。
* * *
記憶とは不思議なものだ。しばらくの間離れていた地下迷宮であったが、それでもその頃の動きは忘れておらず、問題なく進む事が出来ていた。
けど、変化もあった。
前へと比べPTメンバーが違うというのもあるが、地下迷宮へと下りられない間、個々人何もしてこなかった訳ではない。訓練を行い、対策を考え、備えてきた。それが、小さな変化として現れていた。
そして、それが最も見られる状況が現れた。そう、戦闘だ。
「前方、ゴブリン5。近付いてくる」
「了解。先制、仕掛けます!」
索敵したイーダの言葉に、クレアが返事を返すと、前方に現れたゴブリン達へと駆け出す。そして、素早く距離を詰めると、手にした剣を振り上げ、素早く振り下ろした。
迷いなく振り下ろされた剣。それにはゴブリンも避け切る事が出来ず。胴体からざっくりと切り裂かれる。
開幕からのクレアの突撃。それにはゴブリン達も驚いたのか、彼らの間に動揺が広がる。
「やっ!」
そのゴブリン達の動揺をクレアは見過ごす事はなく、素早く剣で薙ぎ払い、傍に居た別のゴブリンを切り飛ばす。
一連の動きは、今まで見てきたクレアの動きとは大きく違っていた。
敵と対峙する恐怖、他者を傷付ける事への躊躇い。そんなの感情が、今までは行動のどこかに現れており、どことなく鈍い動きをしていた。けれど、先ほどの動きは、それらの迷いは一切なく、鋭く、素早い動きをしていた。
クレアによる連撃、それにゴブリン達はさらに愕き、動揺が大きくなる。
そんな、ゴブリン達の視線が一点に集まった状況では、イーダの動きが生きてくる。素早く敵に死角に潜り込んだイーダが、手にしたダガーでゴブリン達の急所を一撃で抉り、絶命させていく。
こちらは、相変わらずといった鋭い動きだ。
「やっ!」
クレアによる三撃目が振り下ろされる。それにより、ゴブリンの一体が絶命し、残りが後一体になる。
そうなると、さすがに勝てないと判断したのか最後のゴブリンが背中を向け、逃げ出し始める。
ゴブリンは素早い。身体こそは小さいが、その足の速さは人間と大差ないどころか少し早い。逃げ出すゴブリンを捕まえる事は困難を極める。
だが――
パーン! 乾いた破裂音が響いたかと思うと、ゴブリンの身体が大きく吹き飛び、絶命した。
「ふ……どうじゃ」
最後の一撃は、ヴェルナの銃による一撃だった。
最後の一撃を決めると、構えていた銃の銃口を上げると、ヴェルナはニヤリと笑った。
「すごいですね。皆さん、こんなに強いとは思いませんでした」
ゴブリン達を片付け一息付くと、パチパチと拍手をしてルーアが誉め言葉を漏らした。
先ほどの戦闘。結局俺もルーアも手を出す前に終わってしまった。少し前と比べると、格段に動きが良くなっていると感じる。
「いえ、そんな……まだまだですよ」
「本当、変わりましたね。剣に迷いがありません。鋭く、素直に振れています。良い事だと思いますよ」
「そう……ですか。ありがとうございます」
ルーアの言葉に、クレアは恥ずかしそうにしながら、それでいて嬉しそうに返事を返した。
なんだか良さげな雰囲気の会話だ。二人は顔も知りであると聞いていたが、思いのほか仲が良いようだった。ルーアに剣の手ほどきを受けたのだろうか? どおりで、ルーアの加入を強く推していたわけだ……いつの間にそんな仲に……。
「それじゃあ、先へ行くぞ」
ゴブリン討伐を終え、周辺の安全を確認し終えると、イーダが先へ進むように合図を掛けた。
「あ、はい、了解です」
これにより、俺達のPTの行軍が再開された。
「やっ!」
「グギャアアアアア!」
クレアが素早く一刀を振るう。それにより切り裂かれたゴブリンが断末魔の声を上げ、吹き飛ばされ、そして、動かなくなる。
戦闘終了。遭遇したすべてのゴブリンを倒しきり、それにより4度目の戦闘は終了となった。
サクサク進む。PTメンバーが増えた事もあるが、それ以上に個々人の能力が向上したためか、戦闘が早期に終了する。それにより時間がとられることが少なくなった。
一度PTメンバーへと目を向けてみる。皆、疲労の色はなく、まだまだ余裕そうでだった。戦闘に時間的リソースが取られることが少なくなった結果、体力にも余裕が出てきたのだろう。これなら、今まで以上に進めそうだ。
「降り……ましょうか……?」
そして、しばらく進むと次の階層への道――第2層へと続く階段が見えてくる。
その階段の前に辿り着くと、俺達は一度立ち止まった。
少しだけ緊張を滲ませながら、クレアがそう確認を投げてくる。
俺達は前回、第2層で躓き、撤退せざるをおえなかった。その時の記憶がまだ残っているのか、クレアの表情には不安げな色が見られた。
「大丈夫ですよ。今なら、問題なく進めるはずです」
そんなクレアの不安を感じ取ったのか、ルーアがクレアの肩に手を添え、そっと優しく先へと促した。
「そうですね。行きましょう」
そして、その言葉に背中を押されると、気持ちが切り替わったのか、そうはっきりと言葉を告げ、クレアは先へと踏み出した。
ここからは、俺達PTにとってほとんど未知の領域だ。はてさて、ここからはどうなる事やら……俺達PTはようやく、先へと進み始めた。
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