再びの活動へ
「あ……」
俺達はいつもの様に冒険者ギルドへと来ていた。
下級冒険者の地下迷宮への立ち入りが禁止されてからは、時間があるときは冒険者ギルドへと集まり、受けられそうな依頼を探し、受ける。それが日課のようになっていた。
今日もそんな感じで、ギルドへと来ていたい。
けど、今日は冒険者ギルド内の空気が少し違っていた。心なしかギルドの談話ホールに居る冒険者の数が少ないような気がする。
その原因に付いてはすぐに分かった。
ギルドの一番わかりやすい場所に下げられていた大きな掲示板。それに『10レベル未満の冒険者への地下迷宮探索許可を解禁します』と張り紙が出されていた。
「不測の事態というのは、解消されたんでしょうか?」
俺と同じ様に、その張り紙を目にしたクレアが疑問を零す。
下級冒険者に地下迷宮への立ち入りが禁止されていた理由は、不測の事態――下級冒険者を狙った殺害行為があった為だ。しばらくアリアストを離れていた事もあり、それに付いての情報は結局ほとんど触れられていない。
許可が出されたという事は、その危険はなくなったという事なのだろうけど、詳しい事が少し気になってしまった。
「ちょっと聞ける範囲で、聞いてくるよ」
「あ、お願いします」
俺は断りを入れてから、話を聞けそうな相手を探し、その場を離れた。
* * *
「こんにちは。今日はどの様な御用ですか?」
ギルドの受付には見知った顔の職員――ライラが居たので、俺はそこへと向かった。
「どうもです」
「地下迷宮への探索許可ですか? 今なら問題なく出せますよ」
「ああ、それはそうなんだけど……それに付いて、ちょっと聞いていいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「その、地下迷宮立ち入り禁止の理由――殺害事件って、結局どうなったんだ? 解決したのか?」
率直に聞いてみた。すると、ライラはすごく嫌そうに表情を歪めた。どうやらあまり聞いてはいけなさそうな話題みたいだった。
「話しては……くれないか?」
「はぁ……できればしたくはないですね。ですが、さわりを話してしまった以上。気になりますよね。分かりました。私の分かる範囲で話します」
「ありがとう。助かるよ」
「口外はしないでくださいよ」
そう前置きをすると、ライラは手で耳を寄れるようにジェスチャーを出してくる。俺は、それに従い耳を寄せた。
「正直に話しますと、あの件は実はまだ解決していません」
「え? それってまずくないですか?」
「はい、そうです。ですが、このまま冒険者の一部――それも割合の多い下級冒険者を、地下迷宮へと入れさせないというのは、結構大きな問題です。ここしばらくは、あの事件に付いての進展はありませんが、同時に問題も起きていません。ですので、様子見を兼ねて、解放したという流れです」
「そ、そうか……」
一通り話を聞き終えると、俺は身体を離した。
「危険はまだ十分あるので、地下迷宮へ降りる場合は、十分注意してくださいね」
「そうするよ」
「それで、地下迷宮への立ち入り許可の申請、今行いますか?」
「いや、一端戻ってPTで相談する。ありがとう」
「はい、分かりました」
最後に感謝の言葉を述べ、俺はカウンターを離れ、皆の場所へと戻ったのだった。
* * *
「どうだった?」
皆の元へと戻ると、真っ先にそう問いが返ってきた。
「とりあえず軽く聞いてみたけど、問題自体は完結してないらしい。けど、このまま立ち入りを禁止し続ける事は難しいって判断と、ここしばらく問題は起こってないって事で、解放したらしい」
「それじゃあ、まだ危険はあるってことですか?」
「正確な所は分からないが、気を付ける様にってさ」
そんな感じで、俺は聞いた事を皆に話した。
問題はまだ解決していない。これは、やはり気になるところだ。イーダとクレアも何か思う所があるのか、あまりいい表情をしていなかった。
「問題って……例の殺人……ですよね?」
不安げにクレアが尋ね返してくる。俺はそれに小さく頷いて肯定を返す。するとクレアはさらに不安げな表情を返した。
「殺人……か」
イーダが一人ポツリと呟いた。
「なんだ? 何か知ってるのか?」
「知ってるわけないだろ。ただ……」
「ただ?」
「いや、何でもない」
「そうか?」
すっと視線を何処かへ向け、イーダはあからさまに話す事はないといった態度を返してきた。
? あからさますぎて、逆に気になってしまう。けど、聞いたところでおそらく本人は喋らないだろう。だから、取り敢えず追及を諦める。
「で、どうするのじゃ?」
そして、報告を終えると話題は次へと移る。
「しばらく様子見をするのか? それともこのまま地下迷宮へと潜るか?」
解放されたのなら、当然地下へ潜るという選択肢が出てくる。このPTはそれを目的としているのだから当然である。
だが、危険があるのなら、成り行きを見てからというのもある。不安要素は出来る限り排除する。当たり前の事だ。
「どっちにするのじゃ?」
選択が迫られる。
「行きましょう。危険はあるかもしれませんが、地下迷宮はもともと危険な場所です。その危険が増えたからって、それが挑まない理由にならないと思います。進まないと、何も始まりませんよ」
「そうだな」
軽く4人で話し合ったところ、結果俺達は進む事を選択したのだった。
お付き合いいただきありがとうございます。
ページ下部からブックマーク、評価なんかを頂けると、大変な励みになります。よろしければお願いします(要ログインです)




