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機転

「我が魔術の業火よ。我が敵を焼き払え! 火球(ファイア・ボール)!」


 竜へと発射した魔術が、竜の身体を捕らえ炸裂する。衝撃音と閃光が弾ける。だが、やはり竜には一切の傷を負わせることは出来ず、その閃光の中から、その巨体が飛び出してくる。


「我が魔術の光よ。楔を放ち、その身を捕らえよ!」


 遠くへとアンカーを放ち、その場へと身体を引き寄せると、襲い来る竜の攻撃を躱した。


 一拍遅れて、ドーン! と大きな衝撃音と共に、辺りの地面を抉る強烈な攻撃が振り下ろされる。


 竜の攻防が続く。どれくらい続けていただろうか? 目に見えてリソースが削られていく状況に、徐々に焦りを覚えていく。ジリ貧だ。だと言うのに、相対する竜には決定打を与えられず、大した危害を与えられていなかった。


 今更ながら、竜の驚異的な耐久力と持久力に驚かされる。


「はあああああ!」


 竜の側面からエルフの騎士が斬りかかる。


 ガキーン! と大きく音を響かせると、その斬撃が弾かれた。エルフの騎士も体力が尽きてきて、もはや竜の鱗を突破するだけの威力の斬撃も行えなくなっているようだった。


「辛いな……」


 苦笑いが零れる。現状、このまま戦い続けたところで、竜を倒すところになど至らない。それを理解しているのか、竜の方も余裕を見せ始め、隙を与えない断続的な攻撃から、まるでなぶる様な散発的な攻撃に変わり始めていた。


 ドスーン、ドスーンと足音を響かせ距離を詰めてくる。長い首を高く持ち上げ、見下ろして来ていた。


「傲慢な事で……」


 竜が笑う。そして、それからゆっくりと前足を振り下ろしてきた。


「我が魔術の光よ。楔を放ち、その身を捕らえよ!――」


 竜からの攻撃を避けるため、魔術の詠唱を開始した。だが、回避の為を魔術行使は――寸前のところで霧散した。


 翳した掌の辺りに集まった魔力の燐光。それが、魔術と言う形へと構成されていく中で、それがまるで硝子が割れるかのように砕け散った……。『魔術相殺(カウンター・マシック)』。竜が行使した魔術が、俺の魔術を砕いたのだ。


 予備動作、その他魔術行使に関わる動作は一切なく、それは放たれていた。


「条件発動か……手の込んだ事をしてくれる!」


 条件発動。魔術をあらかじめ構成しておき、特定条件下になると自動でそれが行使される技術だ。もともとは、突発的な事態に対して、自動で魔術を展開させるための技術だが、あらかじめ魔術行使の為の動作を行う性質上、魔術行使を隠蔽できる。それを使われたのだ。


 竜が大きく笑う。まるでこの瞬間を待っていたかのように、笑っていた。


 勢いの乗った竜の爪が振り下ろされてくる。


 魔術は砕かれてしまった。もはや、それを避け切るだけの力は残っていない。身体をかがめ、両腕で自身の身体を抱え込むと、それでどうにか身を守ろうとする。


 強い衝撃が身体を襲うと、全身に強い痛みが走る。魔術による強化が施されたローブが、竜の攻撃を和らげてくれるが、それでも防ぎきれず、竜の攻撃が俺の身体を襲う。


 大事には至らなかった。だが、痛みに耐えきれず、膝を付いた。さすがに限界が近い。


 それを見て取ったのか、竜が眼前へと迫ると、あざ笑うかの様に見下ろしてきた。


王手(チェック)……かな……これは」


 見るからに危機的状況。これ以上の手は、打ちようがなかった。


『愚かな人間どもよ。無謀にも我に挑んだ事を後悔するがいい』


「喋れるのかよ……」


 訛りのある言葉で、竜が告げてくる、そして、見せつける様にして、再び前足を振り上げてきた。もう、さすがに動く事は出来ない。この攻撃を受けたら、多分俺は死ぬだろう。


 だが――


 竜の振り上げた前足がピタリと止まった。そして、大きく驚きを見せると、竜は遠くへと視線を移した。


「気付くのが遅いんだよ。ば~か」


 竜がすぐに俺へと視線を移し、睨み返してくる。さすがに何が起ったのか理解できたのだろう。賢い。だが、それでも手遅れだった。




『お待たせしました』



 頭の中にルーアの声が響く。


 先ほど竜が向けた視線の先には、ルーアが立っていた。


 一対の曲刀の柄を繋ぎ合わせた様な剣――エルフ族の双曲刀エルヴン・ダブル・シミターを掲げ、まるで祈るようにして佇んだルーアの姿。その周りにはマナが簡単に可視化できるほど膨大な魔力が集められていた。


 竜はマナとの高い親和性を持つ。それ故に、マナ――魔力に対する高い感知能力を持つ、あれだけ大掛かりな魔力操作を竜が見逃すはずはない。


 だから、俺達は事前に手を打っておいたのだ。


 『残像する魔力』。通常の魔術に、余剰魔力を乗せ、周囲のマナ濃度を意図的に引き上げる技。通常は、その余剰魔力を後々使う魔術に充てる事で、後の魔術を簡略化させるための技ではあるが、意図的に高くなったマナ濃度は、竜の高い魔力感知能力を狂わせられる。それで、ルーアが行っていた大掛かりな魔術儀式を隠したのだ。


「我が肉体はこれより英霊の依り代となる。力ここに。祖先の英霊たちよ。その力を我等へ貸し与えたまえ」


 パキリ、とルーアの目元を覆うアクセサリーにヒビが入る。そして、パリーンとそれが砕け散ると、その下から澄んだ透輝石の様な瞳が露わになる。


 ルーアの周りに取り巻いていた濃密なマナが、彼女の周りに巻き付くと、一つの形へと変わっていく。一対の羽だ。妖精の羽の様な半透明な羽がルーアの背中に現れた。



「さあ、始めましょうか。エルフの森を傷つけた罪。それを贖ってもらいます」

お付き合いいただきありがとうございます。


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