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ルーア

「で、どういう事なんだよ?」


 アラノストに連れられ、人気のない場所へと移動すると、すぐにそれを尋ねた。


 それを聞くとアラノストは再び辺りを確認した。相当聞かれたくない内容なのだろう。しばらくそうやって、念入りに調べると、それから口を開いた。


「昨晩、何者かにルーアがさらわれた」


「は? どうやって?」


 告げられたアラノストの言葉に、俺は思わず間の抜けた声を変えしてしまう。


 ルーアはただのエルフではない。その出生故に様々な特異能力を持ち、危害を加える事や連れ去る事などは簡単には出来ない。それ故に、ついそんな驚きを返してしまった。


「方法や目的に付いては分からない。だが、ルーアの姿が今朝確認したときにはなくなっていた」


「それで、その捜索を……なんで俺に頼むんだ?」


 エルフは高い魔術の技術を持つ種族だ。高度な探索魔術なども多く持っており、探し出すなど容易なはずだ。俺に頼む理由なども無い様に思える。


「森の奥へと入られた。故に、俺達が持つ探知魔術では補足不可能な事態になっている。だから……貴様に頼るしかないのだ。頼めるか?」


 じっと俺の方へと目を向け、そして、頭を下げてきた。




   ――Another Vision――


「あの……フェロススィギルさん」


「はい、なんでしょうか?」


「ルーアさんって……誰ですか?」


 ユリとアラノストが話をしている頃、少し離れた場所でその様子を伺っていたフェロススィギルに、クレアがそれを尋ねた。


 唐突に舞い込んできた出来事。何かエルフ達にとって何か良くないことが起きたのだろうという事は理解できた。けど、話の核たるルーアという人物に付いては、クレアは良く知らない。だから、全体像を把握する事が出来ていなかった。


「ルーア様なら既に御会いになられていますよ」


「え!? いつですか?」


 フェロススィギルから帰ってきた答えは――そんな驚きの答えだった。


「ルーア様とはエリンディス様の事です。ルーアという名は、エリンディス様の幼名――幼い頃の名前です。エルフは生まれた時に、親から幼名を授かり、成人する時に、自分に自分の名を付け、それが本来の名前となります」


「それじゃあ、大変じゃないですか!」


 ようやく納得がいった。確かに、一国の王族が連れ去られたなどの事態、大きな問題に他ならない。


「幼き頃の名……か、通りであやつにエリンディスの名を尋ねた時、知らぬと答えた訳じゃ」


 隣で聞いていたヴェルナがそんな事を零した。




  *   *   *




「聞こえるか! アルガスティアの兵達よ! 俺はエヴァリーズ国王アラノストだ! 貴様らの行為は一種の侵略行為である。それは断じて許されるものではない! 

 これ以上我らの領土へと踏み入ろうとするのなら、我等は実力をもってせねば成らない! その命が惜しくば、即刻退去せよ!」


 居並ぶ帝国の兵達を前に、アラノストは城門の上から高らかにそう宣言した。


 帝国の要求に対するエルフの回答は――拒絶であった。


 その声と共に、エルフと人間両者の間に緊張が走る。


 許可なく人間がエルフも領域へと兵を進ませれば、当然エルフ達はそれに拒絶を示す。初めから分かっていた事、それでもなお進んできたのだ。それはつまり、いざとなれば戦闘も覚悟しているという事だ。その事はエルフ達も理解している。故に、一触即発という空気がこの場に満たされた。




「大分ヤバそうな空気になって来たな……」


 そんな今にも斬り合いを始めそうな雰囲気の中、それを眺めていたイーダがポツリとこぼす。


「そうじゃな。じゃが、まぁ、大丈夫じゃろう」


 それに、ヴェルナが少し間の抜けた様な声で答えを返した。


「なんだよ。随分と余裕そうじゃねぇか」


「そう言うお主も、この空気の中で、随分と落ち着いておるが?」


「私は単純に興味がないだけだよ。周りがどうなろうと、自分に害がなければどうでもいいし」


「争いに巻き込まれる可能性があるが?」


「逃げられない状況じゃないだろ? なら、問題ないよ」


「お主は相変わらず冷めとるのぅ」


「お前は違うのか?」


「結果が見ておる。なら、慌てる事もあるまい?」


「相変わらず、何処からそんな自信が湧いてくるのやら……」


「言ったはずじゃろ? 妾の師匠は最強じゃと」


 一触即発と言えるエルフと人間の睨み合い。そこから一歩引いた位置から眺めていたヴェルナは、そう零すと小さく笑いを返した。

お付き合いいただきありがとうございます。


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