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地下迷宮

「それじゃ、進もうか」


 長い階段を下りきり、地下迷宮の第1層に降りるとヴィンスは改めてそう告げた。


「陣形は事前に伝えた通りだ。

 先頭は斥候(スカウト)であるイーダ。索敵、警戒を行いながら先導してくれ。

 次に、戦士(ウォーリア)であるクレア、戦闘指揮(ウォーリーダー)である僕が中央。で、最後は戦士(ウォーリア)であるユリだ。後方警戒を頼む。いいね」


 辺りを見回し、そして先を見据えるとそう告げる。それを聞くと、クレアとイーダは静かにうなずき、その指示に従って陣形をとる。


(PTでの行動かぁ……)


 ヴィンスの指示に従って動くクレアとイーダを見ていると感慨深い思いになる。


(ずっと一人で活動していた俺が、まさかこんな形でPTを組むことになるとはね)


 隊列を組み動き出すPTに合わせ、俺もその最後に続く。


 PTの存在意義。それに付いてはずっと前から理解できていた。けど、他人に合わせることが苦手で、それゆえPTを組むことをずっと避けてきたが、PTというものはいざ組んでみると、これはこれで新鮮で面白いものだと思った。


(戦士、か)


 一度腰に下げたエルフ族の曲刀エルヴン・カーヴ・ブレードに触れる。


 PTを組むためには他者との連携が必要不可欠だ。そのため冒険者の間では自分にできることなどを的確に伝えるため様々な専門用語を使い、簡略し、的確にそれを相手に伝えるようにしているみたいだ。戦士(ウォーリア)斥候(スカウト)魔術師(ウィザード)神官(クレリック)などのクラスという言葉は、その一つみたいだ。


 それらはクラスはPT内での大まかな役割を示す言葉で、一人一つ割り振られる。


 戦士(ウォーリア)であれば、武器を持ち、鎧や盾で防備を固め、前線に立ち敵の撃破、足止めを行う、行える者を指し。


 斥候(スカウト)であれば、索敵、探索、早期警戒、攪乱などを行う者。


 魔術師(ウィザード)であれば、魔術を敵の撃破、PTの支援などを行う者。


 神官(クレリック)であれば、神から与えられたその力で傷ついたPTメンバーを癒し、サポートする。など役割ごとに振り分ける。


 基本は戦士、斥候、魔術師、神官の4つだがそれ以外にも、いくつか存在し、ヴィンスのクラスである戦闘指揮(ウォーリーダー)はその特殊なクラス一つらしい。


 基本は戦闘から少し距離を置き、作戦立案、戦闘時の戦闘指揮に特化し、より効率的なPT運用を可能にするクラスらしい。


 一応戦闘も行うことがあるので、鎧や武器などは最低限装備するみたいだ。


 こう一つ一つ説明を受けると、新鮮味があってなかなか楽しい。




 まっすぐと続く暗がりの道を、まず先に斥候であるイーダが進み、辺りを見渡す。そして安全であることを確認すると合図が出され、俺たちは先へと進む。それに合わせ再びイーダが先へと進み、また周辺警戒をして安全を確認する。そうやってPTはゆっくりゆっくりっと進む。


 そして、そうやってしばらく進むと、一度ヴィンスがPTを止めさせ、地図で現在地を割り出し、進むべき道を見定める。こうして、ちゃんと前に進んでいることを確認すると、再度PTは動き出す。


 かなりゆっくりとした動きだが、安全かつ確実に進みにはこの方法が良いのだろう。


「なんだか奇妙な場所ですね」


 現在地と進行方向の確認。その何度目かの停止の際に、クレアが辺りを見回しながらそう呟いた。


「奇妙って?」


「なんか、思ってたのとは違うというか……そんな感じですかね」


 首をかしげる。


「生活感があるというか……その、よく話で聞く地下迷宮のイメージとは違ってて、ちょっと……」


「ああ、なるほど」


 言われて俺も辺りを見回す。


 緻密に隙間なく積み上げられた、石のブロックで作られた壁。歩きやすい足場。そして通路の中央を走る大きな水路。ところどころ石橋が架かっていて、一つ一つ人が通るために作られているように見える。


 人を寄せ付けない地下迷宮。そういわれている場所にしては不釣り合いに見えるのは確かだ。


「ここはもともと都市の地下水路だったんじゃなかったっけ?」


 地図で現在地を確認していたヴィンスが答えた。


「え、そうだったんですか?」


「うん。確かそうだったかと。そんな話をどこかで聞いた」


「そうだったんですか……じゃあ、ここはメルカナスが作った場所って事ですか? あれ、でもメルカナスがあった時から地下迷宮はあった気が……あれ?」


「どう……だったかなぁ?」


 地図を眺めながらヴィンスは首をかしげる。そしてしばしの間、その事についての沈黙が流れた。


「旧人類」


 しばらく眺めていて、回答が出てこなさそうだったので、俺が答えを返した。


「旧人類?」


「俺たちがそう定義している、おそらくいるだろうって存在だから、実態はわからないけど……かつてここには俺達とは違う人間――つまり旧人類が住んでいて、彼らがこの場所――地下迷宮を作ったと考えられている。

 もともと地下迷宮の上には、彼らの街があって、それが時の流れの中で滅び、朽ち果て、廃墟になったところにメルカナスの人々が都市を作ったんだ。

 ここが生活感があるように感じるのは、ここがもともと地下迷宮としてではなく彼ら旧人類の街の地下水路として作られた場所だったから……だと、思われて……あれ?」


 つい熱が入ってつらつらと語ってしまった。そして、一通り説明を終え、クレアたち相手の反応を見返すと、ぽーかんと半ば呆けたような反応を返していた。


「なんか、変なこと言ったか?」


 反応に困る反応だ。


「すごい物知りなんですね……そのような話、初めて聞きました」


「旧人類なんて話。僕も初耳だ。よくそんな事をことを知っていたね。どこで聞いたんだい?」


「え? あれ? 普通知っているもんなんじゃないの?」


「そう? 地下迷宮の成り立ちなんて、普通の冒険者は知らないと思うよ」


「そう……なんだ……」


 ずっと、みんな知っているもんだと思ってた。


 これは、単純に俺がそれを専門に研究していたからってだけか……。人とズレた価値観を持っている事を示されると、疎外感というか、ちょっとだけ悲しくなるよね……。




   ――Another Vision――


 何度目かの休息もとい地図での現在地確認を終え、先へと進む。


 斥候であるイーダは、皆から離れ一人先を歩く。少し離れると、少しずつ松明の光が届かなくなり、視界が悪くなる。


 闇を見通すような特殊な能力などないイーダにとって、これは少し煩わしく思う。けど、松明を付けるわけにはいかない。


 闇の中での光は目立つ。松明を灯すと、簡単に自身の位置を知らしめることに成ってしまう。単独先行し、安全確保を任とする斥候がそのような危険は冒せない。


 先へと進み、安全を確認する。薄暗い闇の中、目を凝らしどうにかこうにか敵を探す。


 薄暗い闇の中に一人で立つと、辺りとの関係が断たれ、闇に潜む何かがこちらに敵意を向けてくるのを感じる。少しだけ孤独と恐怖を覚える。


 なぜ自分がこんな矢面に立たねばならないのか? そんな理不尽な思いさえしてくる。


 首を振る。これは役目だ。斥候という役割がこなすべき役目なんだ。そう言い聞かせ、切り替える。




 イーダは特別身体能力が高いわけではなかった。


 身体が資本の冒険者にとって、身体能力高さは、そのまま冒険者の資質に繋がり成りやすい。


 そういう意味ではイーダはあまり冒険者向きではない。


 けれど、自分の生い立ち、境遇を考えると、より良い生活を求めるためには冒険者という道しかない。


 だからイーダは、冒険者の中でも身体能力ではなく技術的な面が要求される斥候の道を選択した。


 それによるリスク――単独先行し危険地帯に踏み込む行為に文句はない。それが、自分の選んだ道なのだから。




 辺りを見回し、敵らしき姿が確認できないのを見ると、後方で控えているメンバーに合図を送る。すると、合図を見たPTメンバーたちがゆっくりと近寄ってくる。


 それに合わせて、PTが持つ光源が近づき、辺りが照らし出され始める。


 光に照らされるとほっと安心感が湧いてくる。




「だいぶ進んでこれたみたいだね」


「どれくらいですか?」


「七割くらい? もう少し進んだら、第二層へ降りるための階段なんかが見えてくると思う」


「ほんとですか!?」


「うん。順調に進んでいるね」


 楽しそうなPTの会話が聞こえてくる。そんな楽しそうな雰囲気に、ついいら立ちを覚え、つい舌打ちをしてしまう。


「さて、もう少しだ。慣れないことで大変だろうけど、頑張ってくれるかい?」


 傍まで近づいてくると、ヴィンスが優しくねぎらうような言葉と共に笑顔を向けてくる。


 それにまた、なぜだか不快感を覚える。


「そこの通路を進んでくれ。そうすればまっすぐ下層への道にたどり着けるはずだ」


「わかった」


 うなずいて返事を返すと、先を見据え、再び歩き出す。


 やはりあのヴィンスの笑顔には不快感を覚える。


 なれなれしいから? それともこんな風に優しく接せられたことに成れていないから戸惑っているのか?


 まあ、どちらでもいい。とりあえず、なんだか気に食わない。それでいい。




 スタスタと進み再び闇の中へ――


「待った」


 呼び止められた。ユリだ。振り向くとユリは、口元に指を当て、静かにするようにジェスチャーを投げかけってくる。


(なんだ?)


「3、4、5……ゴブリンが6体? いや……挟まれたか」


「え?」


 ユリは静かに告げると腰の曲刀へと手をかける。その言葉に、イーダは驚く。


 慌てて辺りに目を向ける。


 闇の中に光に反射する何かが見えた。何かの瞳が光を反射して輝いたのだ。


「なんで……?」


 索敵はちゃんとやっていたはず。なのに、気づけなかった……。


「闇の中じゃ、相手の方が圧倒的に視界が広い。それに、ゴブリンは小柄だ。闇に紛れられるとそう簡単に見つからない。こうなっても仕方ない」


「囲まれた……か」


「こうなったら、逃げるのは難しいぞ。どうする? リーダー」


 淡々と冷静にユリが告げる。


「うん。そうだね……どのみち戦闘を避けては進めない。撃退しよう。いいかな?」


「はい!! 大丈夫です」


「よし。じゃあ、やるぞ」

お付き合いいただきありがとうございます。


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