さぁ逃げ出せ!2
続けると長くなりすぎるので、少し短めです。そして少し早く投稿しました。
松明の炎がユラユラと照らす坑道のようなゴブリンの巣。
松明の炎でも照らしきれない影が織りなす薄暗さと相まって、落ち着いて見れば、そこは少しばかり幻想的な光景ではないのだろうか。
少なくとも、封鎖された時にゆっくりと見た俺は幻想的だと思った。
「だああああ!!」
『キィィィィィ!!』
そう、落ち着いて見れば。
松明の炎?便利な光源でしかない。
薄暗い道?見辛くてしょうがないだけだ。
そして、落ち着いて見ている暇なんてない。
「増えすぎだああ!」
現在、俺は100を超えるであろうゴブリンから逃げているのだから!
「ってかいつの間に増えたんだよ!」
あの時は十数匹しかいなかったはずの奴らが、気がつけば100匹を超えていた。
前から横から飛び掛かってくるのは剣で斬り伏せている。
走りながらだから深くまで斬れないが、戦闘不能にすることはできる。
時々無理だと判断して避けるが、その数はあまりいない。
だから増えているのはその分だけだと思っていたが、知らず知らずのうちにここまで膨れ上がっていた。
馬鹿正直に後ろを追いかけてきている奴らがいるみたいだ。
ボロボロだった時の俺ならまだしも、全快に近い俺の足の速さは奴らには負けない。
少し道は知っているが、それでも奴らの方が知っているので中々引き剥がせないが、追いつかれることはない。
こいつら、馬鹿なのか?
忘れていた。
ゴブリンって、知能低いんだったな。
ボスゴブリンを基準にしてたから忘れていたが、どのラノベでもゴブリンの知能は低く描かれる。
奴らも例に漏れず知能が低いだろう。
「ふっ!」
俺は急激なカーブを曲がりながら、そんなことを思う。
俺は曲がりきれたが、俺を追うのに必死になっていた奴らは壁に激突する。
うん、やっぱバカだな。
俺は少しだけニヤってすると、さらに引き離すためにスピードを上げる。
「なっ!」
だが、俺はその考えが間違いだと知った。
『『『キィッ!』』』
カーブを抜けた先では、武器を持ったゴブリンがいた。
それぞれの手に鉄でできた剣を持ち、こっちに突撃してくる奴が3匹。
「くそっ!」
俺は走った勢いを止めることができず、奴らと接近する。
俺の今の実力じゃ、武器を持った奴らを1匹は殺せるが、その間に他の奴らに背中を刺される。
仮に倒せたとしても、その間の時間で後ろの奴らは復活するだろうし、乱戦に持ち込まれる可能性もある。
しかも体重が前に行っちゃってる。止まれば体勢を崩すだろう。
戦闘は避けるべき。
だけどそれなりの広さがある道とは言え奴らが3匹もならんだら横に隙間がなくなる。
すり抜けることはできない。
「なら!」
俺は減速させるのをやめ、逆に加速させた。
『『『キィィッ!?』』』
突っ込んでくる俺が予想外だったのか、奴らは怯む。
その隙に、俺はダンッと強く地面を踏む。
「らぁっ!」
そして、奴らの頭上を飛び越えた。
天井がそこまで高くないため、天井すれすれを前に飛び込むようにして奴らを飛び越えた俺はそのまま受け身、いやそのまま形なくゴロゴロ転がる。
まだ完全に治ってはいない背中が痛むが、じっとしているわけにはいかない。
奴らが呆気に取られる時間も少ない。
俺はそう感じすぐさま体を起こして走り出した。
『キィィィィィ!!』
後ろからは我に返った武器を持った奴らと復活した奴らが俺を追いかける。
ゴブリンがまさか俺を誘導するとはな。
後ろの奴らが増えてたのは、馬鹿正直に追いかけていたわけじゃなくて俺を焦らせるためか。
散発的に襲わせたのは疲労を誘うため。
俺はそれにまんまと嵌められたわけだ。
知能が低いと侮ったが、中々にやってくる。
さっきの武器持ちゴブリンを思い出し、俺はそう考える。
偶然にしてはあまりにできすぎている。
仕組まれたものだと考えるべきだ。
これを考えたのはきっとあのボスゴブリンだろう。
予めどこにいてどのように動くかをを絞っておき、それに応じたゴブリンを配置して俺を誘導する。
中々に頭がキレるやつだ。
味方ならかなり心強いが、逃げる身としては厄介なことはこの上ない。
そして奴のことだ。あれが失敗することも考慮しているだろうな。
「このっ!」
『キィッ!?』
こうして、あそこを抜けてからもゴブリンが飛び掛かってくるのを見ると。
しかもさっきから飛び出てくる量が増えている。
斬り捨てられず、後ろの群れに合流する奴が増えてきている。
体力的にはまだ余裕がある。
疲れて捕まることはない。
だが、この先でさっきみたいな、もしくはそれ以上の罠が仕掛けられていて、それに引っかかったら。
俺はあの時のようにタコ殴りにされる。
そして後ろの奴らが多ければ多いほど、俺は苛烈に殴られる。
今の状態なら、俺は10分ぐらいかけてボロ雑巾になるだろう。
もっと増えれば、一瞬でミンチになる。
少しでも奴らの数を増やさないようにしなければ。
不安で胸を焦がしながら、俺は走る。
まだまだ、鬼ごっこは始まったばかりなのだ。
•••
計画通りだ。
これで奴を捕まえることができる。
同胞の失踪から奴がどの辺りに潜んでいるかを絞って、そこからどう逃げるかを予測して同胞を配置していたが、上手く嵌まったようだ。
見つかった奴は戦闘することなく、逃げ出した。
そして、我が想定していた道を通り、我の仕掛けた罠にかかっている。
だが、想定外のこともある。
奴の進捗スピードが速すぎるのだ。
想定した道を通り、罠にかかっている。生への執着が強い奴が罠を乗り越えるのは予想できていたが、それでも速すぎるのだ。
長らくこの住処に住んでいたおかげで、戦闘音などで奴が今どこにいてどのような状況なのかが手に取るように分かる。
奴が目指しているであろう防衛層まであった罠のうちもう既に4つも突破されている。
想定の2倍のスピードで進んでいるのだ。
まだ6つ罠が残っているとはいえ、少し危ういな。
防衛層でも対策はしているが、奴がこれほどまでに速く切り抜けられる実力を持っているのなら、対策を考え直す必要がある。
奴を捕まえた時の実力より少し上の実力があると踏んで対策を講じたが、あの時の奴は不調子だったのか、それとも封鎖されている間に何かしたのか、あの時よりも力がある。
実力を見誤ったことに我自身に苛立ちを感じるが、今はそれどころではない。
対策の練り直しだ。
奴が目的地まで到着するのにもうそんなに時間がない。
到着するまでに、防衛層と、それにたどり着く前の最後の罠の強化を行わなければならない。
くそっ、本当に忌々しい。
生活も計画を何もかも壊していく奴が。
まるで蛆虫のようだ。
一度湧けば潰しても潰しても湧いてくる。
鬱陶しいと放置すれば、他の食料がやられる。
無理してその食料を食べれば腹を壊して、最悪死ぬ。
『あれ』が来る前はそれで何度か群れが壊滅の危機に陥った。
まさに奴だ。
どれだけ対策しても無駄になり、病気を撒き散らして群れを壊滅の危機に陥れる。
蛆虫はまだ状態の良し悪し関係なく湧くが、奴はもっとタチが悪いのは。
状態のいい肉やクラハの実ばかり持っていくのだ。
まだ封鎖する前もそうだった。戻ってきてから見てみたらもう腐っているのしか残っていなかった。
あぁ、忌々しい!
絶対に捕まえてやる。
捕まえたら、ただで死ねると思うなよ。
生きたまま、貪り食ってやる。
•••
「ああああああくそおおおおおおお!!」
『キィィィィィ!!』
延々と続くゴブリン達との鬼ごっこに、俺は堪らず絶叫する。
剣を持った奴らを避けてからもうどれだけ走ったか分からない。
分かるのは、ボロボロの体と俺の体力と残量、未だにゴブリンが増え続けていることと今走っている大体の場所、そして潜り抜けた奴らの罠。
不安が的中して、かなりヤバかったのはその罠だ。
この奴らの誘導型の罠は進めば進むほど厄介なのものになっている。
武装した奴らの待ち伏せ。
投網や矢による絨毯攻撃。
岩による封鎖。
俺が持っている丸い玉の色違いで爆弾のようなものが設置されていて、俺が通ると爆発する仕組みのやつ。
そして極めつきが、反対側からやってきた100匹の武装ゴブリンだ。
武装ゴブリンの群れは、俺も一瞬死を悟った。
脇道もなく、一本道で鎧のようなものまでつけた完全武装の軍団が襲ってくるのだ。
しかも後ろからはそれを超える数のゴブリンが迫ってきていた。
これも突破しようと思ったが、すぐに無理だと判断。
結果、俺は反転して武装ゴブリンの群れから逃げ出した。
目の前には武装はしていないが無数のゴブリンの群れ。危険なことには変わりない。
接触する瞬間、俺はポケットから丸い玉を取り出して叩きつけて、奴らが混乱しているうちに何とか危機を脱した。
「お前らいい加減諦めろおおおおおおお!!」
そして現在はその混乱から脱した奴らに追われている。
絶賛逆走中だ。
階段までがどんどん遠くなっていく。あと3分の1だったのに。
今まで走ってきた苦労が無駄になるようで、俺は虚しくなり意味がないと分かっていても叫ばずにはいられない。
もちろん、その叫びを聞いて奴らが諦めるわけがない。
あの時の混乱で反転せずにまっすぐ進めばよかったって?それは無理だ。
奴ら混乱するとめちゃくちゃに武器振り回すから危ないんだよ。素手で追いかけてきている奴らの方がまだ安全だった。
逆走してても、奴らは相変わらず追いかけてくる。
しかも無駄に体力が多いのか数が多いから入れ替わっているのに俺が気がついていないだけなのか、とにかく同じスピードで迫ってくる。
俺のスピードにはまだ追いつかないが、俺の場合はどんどんスピードが落ちている。
前の世界では一般人。こんなに走ることなんてない。
体力がそこまでなかったのだ。
封鎖されてる時に走っていたが、急激に体力ってものは上がるわけじゃない。
「はっ、はっ」
俺の息はとうの昔に上がっている。
体力の残りは、だいたい体力テストの1500メートル走を走り始めて800メートルほど走った時ぐらい。
限界はまだ先だが、苦しくなってくる。
だけど走る。
今出せる全力で走る。
じゃなきゃ死ぬだけだ。
「うおおおおおおおおお!!」
俺は雄叫びを上げる。
大声を出すと、苦痛が和らぐらしい。
何でも、痛みを感じるよりも大声を出す方が••••••覚えてない。
忘れてしまった。
そんなのはどうでもいい。
階段まで走ることができるのなら、何だってする。
他に何か知識があるわけじゃないが。
とにかく、俺は走る。
この辺りは脇道がなくて、曲がり道もないから走りやすい。
だが、それは奴らも同じ。
気を抜くと、追いつかれる。
それに加えて、一本道は罠を仕掛けられやすかったな。十字路もだったけど。
待ち伏せとか封鎖は一本道が多かった。
待ち伏せは何とかなったが、封鎖が厄介だった。
抜け道なんてないってぐらいでかい岩が道を塞いでいるのだ。
この時も、俺は逆走したな。
戻って、脇道にそれてまた階段を目指した。
その度に丸い玉を使ったから、もうあと2個しかないが。
などと場所に対しての記憶がフラッシュバックしつつ、俺はどんどん走る。
記憶にあった最後の脇道は、通ると爆弾のような丸い玉が爆発する罠があった少し前、この場合だと奥にあった。
まずはそこまで走ろう。
といっても、もうすぐだが。
「なっ!?」
そしてその爆弾の罠のところにたどり着いた俺は、驚愕した。
爆発したはずの爆弾、黒い丸い玉が、道の真ん中に転がっていたのだ。
近くで振動を与えるだけで爆発するそれはそこそこ威力があり、爆風の中無理矢理突っ込んでいった俺の体を火傷と飛んできた石で負った傷でボロボロにした代物だ。
この黒い丸い玉感知範囲は5メートル。
跳んで避けられる距離じゃない。
「やるしか、ない!」
またあの爆風を突っ込むか。
俺は意を決して黒い丸い玉の感知範囲に足を踏み入れる。
「••••••ん?」
だが、黒い丸い玉は爆発しなかった。
もしかして、不発弾か?
新たに仕掛けられたわけじゃなくて、爆発しなかっただけのものなのか?
疑問に思うが、爆発しなかったのは幸いだ。
「よっと」
俺は黒い爆発しなかった丸い玉を回収する。
不発弾とはいえ、爆発する可能性はある。
振動させて爆発しなかっただけで、他の方法で爆発するかもしれない。
有効活用できるかもしれないから、俺は回収した。
それに、上の区画への階段はどうせあれな気がするからな。使うとしたらそこだろう。
俺の手元で爆発しないことを祈るが
「ふっ!」
そして現れた脇道に、俺は急激に曲がると、また階段に向け走り出す。
最短距離は通らない。
少しでも最短距離を通ろうとすると、さっきみたいに罠が仕掛けられているからだ。一本道になってから気がついたことだけど。
だから、俺はあえて遠回りをする。
脳内マッピングは完璧に網羅しているわけじゃないが、その中でも遠回りな道を選び走る。
かなり疲れるだろう。
だけど泣き言言っている場合じゃない。
走るしかいま生きる道はないのだから。
••••••チート能力があればこんな苦労してないんだけどな。
本当、この世界は優しくない。
心の中でそう悪態つきながら、俺は走った。
次の話で『あれ』と呼ばれているのの姿ぐらいは出したい....
2日に一度更新になってしまいました。これからもこの調子な気がします.......