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画面の向こうで僕らは笑う【旧版】  作者: 中村ゆい
第四章 広がる世界
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4-1 詐欺とスカウト

「なあ芙雪。……すごくない?」


 四人で撮影を終えて片付けている最中、唐突にそう言ったヒロを、私たち三人は何事かと凝視した。

 今日は夏休みに幽霊の動画を撮影した公園に来ている。広いし全員の家からそこそこ近いし、最近は外での撮影はここでやることが多い。

 そんな公園も九月に入った夕方の今は真夏の暑さも和らぎ、ほんの少し秋らしい風が吹いている。


「えっと……何がですか?」


 芙雪くんが困惑気味に、地べたに座っているヒロに近づいて同じようにしゃがみ込む。

 私とハルもカメラをしまい込んで二人に歩み寄る。ヒロは自分のスマホを持って軽く振った。


「芙雪のチャンネル登録者数、すごくない? 五万人だってよ」

「……ああ、まあねえ」


 知っていたらしいハルが納得したようにうなずいた。


「チャンネル作ったのが7月の終わりくらいだったから……まだ一ヶ月ちょっとしか経ってないんだっけ。すごいよね」

「ハルちゃんねるもそれくらいにならねえかなー……」


 羨ましそうにため息をつくヒロの肩を、私はぽんぽんと叩いた。


「芙雪くんは元々有名人だったから、そんなもんだよ」


 ハルもヒロのとなりに跳ねるようにして移動して座りこむ。


「そうそう。それに、四人で活動するようになってからびっくりするくらい登録数増えたんだよ。これ以上増えたら怖いって」


 確かに、私が初めてハルの動画作りを手伝ったときに千人程度だったチャンネル登録者数は今では二万人を超えていた。ヒロは不満そうだけれど、この五ヶ月ほどでそれだけ伸びたのは奇跡的だと思う。芙雪くんの伸びはもはや奇跡を超えて異次元レベルだから比べてはいけない。

 それでも納得のいかないらしいヒロは、帰るべく立ち上がりながら私たちを見た。


「でもさ、いつかはなってみたくない? チャンネル登録者数十万人とか五十万人とか百万人とか」

「百万って、またとんでもないことを……まあ、夢見るだけなら自由ですけど。でも急にどうしたんですか。今まで数字を気にしたことなかったのに」


 芙雪くんの言う通り、ヒロを含む私たちはチャンネル登録者数や再生回数をあまり気にせずにここまでやってきた。そりゃあ、たまに今回はいっぱい再生してもらえて嬉しいねというような会話をしたことならあるけれど。それでも目標だとかを定めたことはない。

 興味なさそうな顔をしているけどヒロもそういうの気にするんだなあ、なんて思っていると、彼は真顔になって説明を始めた。


「俺、SNSの管理担当じゃん。昨日、変なダイレクトメッセージが来てたんだよ。ユーチューバーの事務所に所属しないか、みたいな内容の。どうせ詐欺だと思って返信してないんだけど、本当に事務所に所属できるくらい大物になれたらかっこいいよなあって思って」

「へえ。ちなみになんて事務所から送られてきたの?」


 私が訊いてみると、よく耳にする名前が返ってきた。


「クリエイション・オブ・クリエイションのアルクさん」

「うっわ。そんな人からメッセ来るわけないし。絶対詐欺じゃん」

「ハル、アルクさんのファンだもんね。本当だったらいいけどねえ」


 アルクは、おそらく国内で今一番知名度が高いであろう超有名な大物ユーチューバーだ。クリエイション・オブ・クリエイション……略してCOCと呼ばれているが、それもアルクが所属している大手のユーチューバーマネジメント事務所で、そんな事務所からもアルク本人からも連絡やスカウトが来るわけがないのだ。それこそチャンネル登録者数が五十万なり百万なりなければありえない。

「ちょっと見てくれる人が増えると、そういう怪しい連絡も来るようになるんだね。気を付けよう」

 ハルの言葉に私とヒロと芙雪くんは神妙にうなずいた。





 そんな話をしていた数日後、私たちは芙雪くんからとんでもない報告を受けることになった。


「プロゲーマーチームからのスカウト!?」


 今しがた芙雪くんが言った言葉をそのまま繰り返して、ヒロが椅子の上でのけぞった。今日の話し合いの場所はハル宅、ハルの部屋である。

 芙雪くんによると、FPSゲームの選手にならないかとプロチームから勧誘を受けているらしい。


「このあいだのヒロの話もあるから心配なんだけど、今回は詐欺じゃないんだよね?」

「はい。さっちゃんさん、大丈夫です。親同伴で一回チームの人と会ってきたので。本当でした」


 今まで芙雪くん、Tonoはアマチュア大会で名を馳せていたとはいえ、プロでない分出場できる大会も限られていた。これからはプロリーグとかプロしか出られない試合にも出られるし、場合によっては賞金が出たり収入も得られるというわけだ。


「すっごいじゃん。じゃあプロになるんだ?」


 良いニュースのはずなのに、目を見開いて身を乗り出すハルに対して芙雪くんは床に小さく三角座りをして言いにくそうに口を開いた。


「まだ返事は保留にさせてもらってるんです」

「なんで?」

「それが……実際に選手になると毎日チームメイトとオンラインで練習することになるんですけど、その練習が結構ハードで時間も取られるそうなんです。学生の選手は学校とゲームの両立だけでかなりしんどいらしくて。だから、練習や試合の動画を僕の個人チャンネルで配信するのは構わないけど、今みたいにみんなとハルちゃんねるで実写動画の活動も並行して続けるのは厳しいんじゃないかって言われました」

「じゃあ……」

「ハルちゃんねるのメンバーから脱けるってことか?」


 私の途切れた言葉を続けるようにしてヒロが確認する。

 芙雪くんは小さくうなずいた。


「最終的には僕の判断に任せるけどできれば脱けてもらいたいって言われました。でも一人で勝手に決めていいことじゃないし、何よりも僕自身がすぐにどうするか決められなくて、保留にしてもらいました。向こうは、保留期間にお試しでチームに参加してみてどうするか考えてくれないかって言ってくれてるんですけど……」

「お試し?」

「来月、海外のチームも交えた練習試合があるから、それまで練習に参加して試合にも出てみてっていう。部活の仮入部みたいな感じですかね……」

「そっか……」


 話を聞かされた最初とは打って変わって重苦しい空気が四人の間に渦巻く。

 突然この四人のうちの誰かがいなくなるという可能性は、今までまったく考えていなかっただけに、なんだか気持ちの整理がつかない。芙雪くんにはやめないでほしいというのがもちろん本心だ。私たちのうちの誰か一人でも「やめないで」と言えば、彼は「わかりました」と言って今回の誘いを断るだろう。けれど、それでいいとも思えない。

 沈黙を破ったのはハルだった。


「芙雪、取りあえずお試しでやってみなよ。それでどれくらい忙しいかもわかるんだろ? そのあいだハルちゃんねるのほうはなるべく俺たちで動かすから、こっちのことは気にせずに」


 全員の視線がハルに集まる。


「でも……」


 まだ決めかねている様子の芙雪にハルはもう一度念押しした。


「本当にいいから。お試しすらもしないで今回のスカウトを断ったら、一生後悔すると思うよ。やってみて、それでも断るっていうならそれでいいし、もしそのままチームに残ってプロになるなら、そのときはそのときで今後のことを四人で相談しよう」

「ヒロさんとさっちゃんさんは……」

「あっ、ごめん! 俺一人で勝手に意見言っちゃって! 二人は、どう?」


 もちろんハルに賛成だ。私たちが言わなければいけないことをハルが代弁してくれたようなものだし、正直感謝している。同意の意をうなずいて示すと、ヒロも「そうだな」と芙雪くんの肩を叩いた。


「よくわからんけど、ゲームとかeスポーツの選手って十代の時期がピークとか聞いたことあるし、今がチャンスかもしれないもんな」

「お試し期間中、ハルちゃんねるに迷惑かけますけど。それからもしチームに入っても……」

「そりゃあ一緒に動画撮れなくなるのは寂しいけどさ。メンバーやめなくても、撮影に参加する頻度をすっっごーく減らして細々と続けるとかいう方法もあるし。やりようはいろいろあるよ。だから今はそんな先のことまで考えずにゲーム、楽しんでこいよ」


 芙雪くんが一瞬考える表情を見せた後、私たちに礼儀正しく頭を下げた。


「お言葉に甘えて一ヶ月、やってみます。撮影にはあんまり参加できなくなっちゃいますけど、すみません。よろしくお願いします」


 いつだったか、反射神経や視力・聴力がものを言うプロゲーマーの選手生命はかなり短いという話をテレビで見たことがある。もし芙雪くんがプロになったとしても、一生選手を続けることはないかもしれない。だけど、これを機に彼が一生、ゲームに深く関わっていく可能性は大いにある。ハルちゃんねるの在り方が変わるのは寂しいというか不安だけど、ヒロが言うみたいにやりようはいろいろあるんだから、彼がどんな選択をしても応援しよう。彼の可能性を奪っちゃいけないことくらい、高校生にもなればうっすらとわかっている。


 話し合いが一段落したところで、ハルがぽんと手を叩いた。


「ところでヒロ、芙雪。来週末、俺とさっちゃんの高校は文化祭なんだけど……」


 そう言いながら目配せをされて、もう一つ大事なことを思い出した。背後に置いていたバッグからごそごそと目的のものを取り出す。


「良かったらうちのクラスの劇、見に来てください!」

「わ、私のクラスの和風喫茶もお願いしまーす!」


 二人同時に各クラスのチラシを差し出した。


「俺、演出担当したから。歌って踊るミュージカルだよ。力作だから」

「ちょっと待って。こっちは大正時代の純喫茶設定の和服コスプレだよ。私も着るよ。写真撮っていいよ」


 私はヒロと芙雪くんの目がきらりと光るのを見逃さなかった。しめしめ、ひとまずハルよりは興味を持ってもらったみたいだ。何の勝負だか自分でもよくわからないけど、勝った。

 インターネットに上げるような動画や写真でなければ撮られても平気だ。普段カメラの前に立たない分、このチャンスは貴重だぞー。

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