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画面の向こうで僕らは笑う【旧版】  作者: 中村ゆい
第三章 大垣晴の過去
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3-1 晴VS亜紀羅

 芙雪くんから突然、相談があると連絡が来たのは、一学期最後の登校日である七月下旬のことだった。

 ホームルーム中の教室で、こそこそと机の下にスマホを隠しながらメッセージを確認しながら首を傾げる。動画の配信のことで、と書かれているけれど、一体なんだろう。最近、ハルちゃんねるの動画で何か不備や問題ってなかったよね……?

 眉根を寄せて考え込んでいると、「澤さん!」と鋭く名前を呼ばれる。

 驚いて顔をあげると、教壇に立っていた文化祭実行委員の廣田さんが思いっきりこっちを睨んでいた。やば、スマホ使ってたのばれたかな。


「話、聞いてた?」

「う、ううん。ごめん」


 冷や汗を垂らして謝ると、廣田さんは眼鏡の奥の細い目を困ったようにゆるめてため息をついた。


「だからね、文化祭の出し物に和風喫茶をする予定だったけど、一組と被っちゃったから、どうしましょうっていう話でしょ。で、今、ほかの出し物に変更するか、このまま和風喫茶の希望を通して一組と争うか、どっちがいいか多数決の投票をしてました。でも、話を聞いていなかったらしい澤さんはどっちの意見にも挙手しなかったから、十五対十五になりました。澤さんの意見でどうなるか決まります。あなたはどっちの意見なんですか」


 淡々と説明してくる廣田さんが怖い。もう絶対に授業中、ホームルーム中に内職しません……。


「……和風喫茶で」


 新しい出し物を考えるためにホームルームが長引くのはちょっと嫌だ。そんな消極的な理由ではあるけれど、私の一言で廣田さんは「よしっ、決まりね」と手を叩いた。

 劇に手を挙げていたと思われるクラスの半分が残念そうな顔をする。すまんな、みんな。


「今朝聞いた話だと一組も譲る気はないそうだから、このホームルームが終わったら各クラスの代表同士のじゃんけんでどっちが和風喫茶をやるか勝負します。というわけで、澤さん。よろしくね」

「……はい?」


 よろしくの意味がわからず廣田さんの顔を凝視する。彼女は私に向かってにっこりと微笑んだ。


「澤さんの一声で決まったことだし。澤さんだけ話聞いてなかったし。澤さんが三組代表としてじゃんけん勝負に参加してね。よろしく」


 え、ちょっと待って。


「澤ちゃん、勝ってこいよー」

「私は劇推しだから負けてくれてもいいけど!」

「一組に負けんな!」

「澤代表、おなしゃーす!」

「澤代表て、サッカーかよっ、わはは」


 嘘でしょ……。私じゃんけんそんなに強くないんだけど。

 激励やら何やらの言葉をクラスメイトたちに投げかけられながら、私は頭を抱えたい気分になった。




 クラスメイトに送り出され、廣田さんに引っ張られるようにして一組の教室の前に連れてこられる。

隣りにいる廣田さんとなんとなく付いてきてくれただけの紗綾を見た。たぶん今私、なんとも言えない情けない表情をしていると思う。


「あの……負けたらごめんね? 私じゃんけん強くないから、ほんとに、負けたらごめんね?」

「はいはい、負けたからって責めないよ。ほら行って」

「亜紀羅、がんば!」


 二人に背中を押されて、ドアを開けて教室に足を踏み込む。


「失礼しまーす、和風喫茶の件でじゃんけんを……」


 一組の皆さんが一斉に私たちを見て、思わずひるむ。

 このクラスの実行委員らしき男子が、待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。


「なるほど、三組の諸君も和風喫茶経営を譲る気はないということだね。よかろう。では、今からじゃんけん勝負を行う」


 ……なんか、芝居がかった喋り方をする人だ。思わず振り返って廣田さんを見ると、彼女は呆れた表情とともに首を横に振った。


「小坂くんはいつもあんな感じだから。スルーして」

「う、うん」


 小坂くんというのか。キャラ濃いな……。


「では、さっそく始めようではないか。我がクラスの代表は、先ほど行ったクラス内じゃんけん大会を勝ち抜いた彼である!」


 そう言って引っ張り出されてきたのは……大垣晴だった。

 気まずそうに教室の前に立たされるハルと目が合う。


「三組代表、さっちゃんなの……?」

「う、うん。ていうか、じゃんけん大会って?」

「さっき、一番強いやつを代表にしようって話になって全員で勝負したら、勝ってしまった」


 じゃあ、めちゃめちゃ強いってことじゃん!

 私やっぱり無理、と廣田さんに視線を送ると、いいからやれと無言の圧がかけられる。

 しゃあない。やるしかない。


「最初はグー。じゃーんけーん……ほいっ」


 小坂くんのかけ声に覚悟を決めて、拳を握る。私はそのまま向かいに立つハルに向かってグーを突き出した。

 ハルが出したのは、チョキ。

 あ、勝った。


「みんなー、勝ったよ~! 和風喫茶に決まったよ~!」


背後にいたはずの紗綾がはずんだ足取りと大声で教室を出ていく音が聞こえた。

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