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画面の向こうで僕らは笑う【旧版】  作者: 中村ゆい
第二章 四人のチャンネル
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2-5 ヒロの部屋にて

 それから芙雪くんはどうやらヒロに懐いてしまったみたいで、たまに撮影にも顔を出すようになった。動画の視聴者さんたちも彼の顔を覚えてくれていて、「またフユキくん出して!」とリクエストが来ることもしばしば。彼はハルちゃんねるの準メンバー的な立ち位置になりつつある。


「ヒロー、入るよー」


 このあいだ中間テストが終わったばかりなのに、再び期末テストの時期が近づいてきた梅雨の終わり。

 私は母の実家から送られてきた野菜を奈津田家におすそわけしに来たついでに、ちょっとヒロに数学の問題を教えてもらおうと思って彼の部屋のドアをノックした。

んー、といつも通りの気のない返事が聞こえてきたから遠慮なくドアを開けると、ベッドに寝転んでいるヒロと床に座っている芙雪くんがいた。


「あれっ、さっちゃんさんだ」


 私に気づいた芙雪くんが顔をほころばせた。


「芙雪くん来てたんだね」

「はい、ヒロさんとゲームしてました」


なんだかんだで私とも仲良くなった芙雪くんは、ヒロやハルみたいに私をさっちゃんと呼ぶようになった。さっ「ちゃん」にさらに「さん」づけされるのが違和感大ありで複雑だけど、ヒロほどではないものの懐かれている感じはする。弟ができたみたいでまんざらでもなかったり。

 ヒロと芙雪くんの手元にはそれぞれゲームのコントローラーがある。少し前からヒロがはまっているFPSのテレビゲームだ。


「さっちゃん、こいつやばい。上手すぎる」


 ヒロが疲れたように芙雪くんを見る。ヒロはゲームは好きだけど上手いってわけじゃないからなあ。二人で対戦とかして負け続けでもしたんだろう。


「芙雪くん、ゲームよくするの?」


 私の質問に芙雪くんは、はにかむように笑ってうなずいた。


「これくらいしか趣味がなくて。学校と塾以外は家でずっとゲームしてるんで。……遊ぶような友だちもいないし」

「あ……そうなんだ」


 高校の不良にパシられたりしてるんだっけ。クラスメイトにも同じような扱いを受けているのかまではわからないけど、もしかしたら学校では気軽に付き合える友だちが少ないのかもしれない。


「あの、もうお金出せとか言われたりは、してない?」


 少し心配になって芙雪くんの隣りに座ってそう尋ねると、彼は弱々しい笑みを見せた。


「今のところは大丈夫です。ヒロさんは学校でも一目置かれてるから、ヒロさんと一緒にいたら今まで僕をパシりに使ってた人たちも寄ってこなくなったから。ヒロさんのおかげ」

「へ、へえ……。よかった。ヒロが役に立ってるんだね」

「うーん」


 ヒロの適当な返事と、彼を尊敬の眼差しで見つめる芙雪くんに若干引く。

 ヒロがかなり派手にやるときは喧嘩やったりして中学の頃から地元じゃ悪名高いのは知ってるけど、改めて高校でも一目置かれてるだとか誰も寄ってこないだとか聞かされると、お前は今まで具体的に何をやらかしてきたんだと思う。怖いから聞きたくないけど。いやー、それなりに仲が良い幼なじみとはいえ、住んでる世界が違うよなあ。


「そんで? さっちゃんの用は?」


 ゲームコントローラーを投げ出してベッドの枕元にあったポテチの袋を開けながら、ヒロが私を見る。ここに来た目的を忘れていた。


「えーとね。超進学校に通う奈津田志大先生に数Ⅱを教えてもらいたくてですね……」

「んー。いーよ。期末試験近づいてるもんな。どの問題?」

「ありがと! これだよ。明日までの宿題なんだけど……」


 私がいそいそと取り出した問題集をヒロと、内容が気になったらしい芙雪くんものぞき込んでくる。

 結局、元から頭がいいヒロの説明は私にはちんぷんかんぷんで、芙雪くんが横からわかりやすいように説明して助け船を出してくれたりして、二人がかりで私の数学勉強会は終了した。


 芙雪くんは予習してあるって言ってたけど、もう二年の範囲の問題ができるんだということに衝撃を受けた。賢い学校に通ってる人はやっぱ違うんだね。私も一応、自分の高校では大学進学クラスに所属してるんだけど、なんか大丈夫かな、あはは……。

 一抹の不安を覚える高二の春であった。

ゲームと勉強しただけの回になってしまった……

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