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画面の向こうで僕らは笑う【旧版】  作者: 中村ゆい
第二章 四人のチャンネル
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2-2 放課後の撮影準備

 チャンネル名は今までのまま「ハルちゃんねる」で、リーダーはハル。だけど私とヒロが加わったそのチャンネルは、「これから三人で活動します!」というお知らせの動画から始まった。

 私は声しか入っていない動画だけど、ヒロは初の顔出しだ。そこそこ顔がいいからか、少人数とはいえ女子の視聴者ファンがついたみたいだ。

 その動画を投稿してから一ヶ月ほど経った今、少しずつするするとチャンネル登録数を伸ばしつつある。私とハルの二人が編集を担当できることで、動画の投稿頻度もハル一人のときは月に二回ほどだったのが、週に一~二回くらいに増えた。

 けれど、ここ二週間ほど、ハルちゃんねるは完全にストップ状態だった。原因は何かというと……


「中間テスト、終わった~! 部活だ~!」

「終わったね~! 私も撮影だ~!」


 私と紗綾はテストが終わった開放感に溢れた教室で跳ねながら抱き合った。

 そう、今日まで定期テストだったから勉強に集中するべく動画のほうはお休みしていたのだ。うちの高校は今日までテストで、ヒロの高校は昨日まで。

 帰りのホームルームも終わったし、みんないそいそと部活に向かったり下校したりしている。教室に残って雑談している生徒もいた。私と紗綾もそれぞれ部活と下校のために教室を出た。


「紗綾、今週末には練習試合あるんだっけ? 頑張ってね」

「おうよ。亜紀羅は? 今度は何撮るの?」


 私はふっふんと笑みを浮かべた。


「それは動画が公開されてからのお楽しみ。でも紗綾は好きだと思うよ。スイーツネタ」

「えーっ、気になる」


 そんな会話をしながら廊下を歩き、途中で別れる。

 私はハルと待ち合わせている昇降口へ走った。

 うちのクラスよりも早くホームルームが終わったらしいハルは、昇降口前の下駄箱にもたれて私を待ってくれていた。

「ハルっ、お待たせ」


 私の声に振り向いたハルが、よっと片手をあげて応じる。YouTubeの活動を始めてからお互いに統一した呼び名にも慣れてきて、最近は大垣くんではなくハルと呼ぶことにも違和感がなくなってきた。ヒロはまだたまに私のことを亜紀羅って言ってるけどね。

 私が上靴から学校指定のローファーに履き替えるのを待って、ハルはゆっくりと校舎の外へ向かう。

 履き終えた靴の踵をとんとんと地面に当ててから、小走りでハルの隣りに並んだ。


「お金持ってきた?」

「うん、ばっちし持ってきた。大金だから心臓ばくばくだった」

「大金って、そんなでもないでしょ。ていうかそういうの大声で言わないほうがいいよ。カツアゲされたりして」


 そんな会話をしながら校門近くの自転車置き場まで向かい、二人で学校を出る。そのまま私たちは家には帰らずに、近くのショッピングモールへ自転車を走らせた。

 目的地は、モールの中にあるドーナツチェーン店。十分ほどでそのお店に着いた私は、にやにやした笑みを浮かべながらトレイとトングを手にした。


「さっちゃん、顔にやけてて変だよ」

「だってさ、こんな経験滅多にできないよ。あー幸せ」

「……今の顔動画で公開したいよ。カメラ持ってきたらよかった」

「私は顔出さないって言ってるじゃん」

「はーいはい」


 私がいつかやってみたかったこと。それはこのドーナツ屋さんの商品を全種類一つずつ購入することだ。ハルたちにそのことを話してみたら、じゃあドーナツ全種類食べる動画撮ればいいじゃんという話になり、今に至る。

 このお店の定番商品から期間限定商品、新作、名前すら知らないレベルのマイナーなものまでぜーんぶ一個ずつトレイに置いて、お会計二万円弱なり。ちなみに代金は三人で割り勘だ。レジ担当の店員のお姉さんがぎょっとした顔をしていたのも含めて楽しい。


 ドーナツの箱をいくつも自転車のかごに積んでまた二人で自転車を漕ぎ、ハルの家に着いた。学校が終わったらヒロもここに来て合流予定だ。

ハルの部屋のローテーブルの上でだいたい五十個くらいのドーナツを皿に並べてみると、カラフルでなかなか圧巻だ。最近流行のフォトジェニックってやつかな。私がいそいそとスマホでその写真を撮っていると、ハルが不安そうにそれを眺める。


「これ、ほんとに俺ら三人だけで食べれんのかなあ」


 私はスマホの画面からハルに視線を移した。そういえば知らないんだっけ。


「ヒロが甘い物なら無限に食べられる体だから大丈夫だと思うよ」

「……そうなの?」

「そうなの。とにかく大食いだから見物だよ。そういえばヒロ、遅くない?」

「言われてみれば、遅いかも」


 二人して時間を確認しようとしたところで、インターホンが鳴った。たぶんヒロだ。

 玄関まで降りていくと、案の定学ラン姿のヒロが。


「遅かったねー、もうほとんど準備できてる……よ?」


家の中に引き返そうと背を向けかけたところで、なぜかもう一人同じ学ランの小柄な男子がヒロの後ろからひょっこりと現れた。


「ごめん、色々あって連れて来ちゃったー」


 ヒロは大して悪気がなさそうにのんびりと、そう言った。

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