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プロローグ
私、アッキは学業に専念するため、この動画の投稿をもって踊り手を引退します。
私がパソコンの画面を見守る中、私に踊ることを教えてくれて最後の動画を二人で踊った、今年二十歳になる幼なじみの大きな手が、カタカタと文章を打ち込んだ。
「これでいいのか?」
名残惜しそうにそう確認してくる彼に、ゆっくりとうなずく。
「いい。これで投稿して」
「……わかった」
動画の予約投稿が確定されるのを見て、ほっと息をついた。肩にかかる重力が突然軽くなったような気がする。改めて彼、幼なじみに向き直り、私は小さく頭を下げた。
「志紋くん、今までありがとう」
「なあに言ってんの。高校受験が終わったら、また戻って来るでしょ? そしたら一緒に踊ろうな」
明るく笑う彼に曖昧な笑みしか返すことしかできない自分に、罪悪感がつのる。
ごめんね。受験勉強に専念したいなんて嘘。私はもう、この世界に疲れてしまった。
だから高校に合格しても高校生になっても、この小さな液晶画面の向こうで笑顔を見せることは二度とないだろう。
このとき私は、心の底からそう思っていた。




