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八月 体験(4)

 暑さも蝉の鳴き声もピークを迎える八月の中旬、いつもの居間ではなく、まだ朝方のため、比較的涼しい縁側で、お風呂場で冷やした真っ赤なスイカを切り分けて、ボクとセンコさんとディアナさんで仲良く食べていると、新しい調査の提案があった。


「お祭りを見に行きたいの?」

「ええ、テレビでも毎日のように流れてるけど、やっぱり現地で調査しないと、詳しいことはわからないでしょう?」

「まあ一理あるのう。主、塩を取ってくれんか」

「はい、お塩。でもお祭は外からも人が大勢来るから、トラブルも多いって聞くけど、大丈夫かな?」


 三人でスイカをかじりながら、のんびりと会話する。思えば彼女が綾小路家に来てから、もう二週間程が経過したことになる。

 文化の違いに戸惑っていた面影はもうどこにもなく、今や何処からどう見ても地球人にしか見えない。もっとも、抜群のプロポーションと桁違いの身体能力、連合の技術力を除けばだけど、それは隣のセンコさんも似たようなものだ。

 彼女のほうは地球暮らしが長いので、その辺りを上手く隠しているだけなのだ。


「私もその辺が不安なのよね。どうも地球人は、私のような一般的な連合の女性に、好意を持つか、欲情しやすいようでね。あっ、センコさん。私にも塩を」

「ほれ、受け取れ小娘。せいぜい気をつけることじゃな。情欲に駆られた人間は面倒じゃぞ」

「そうだね。ディアナさんが色恋沙汰で切った張ったとか、ボクも嫌だよ。ほら、市営プールのこともあるし」


 先週ディアナさんの魅惑の果実を求めて、多くの男性が群がってきた事件である。もう終わったことだけど、彼女にとっては忘れられない忌まわしい敗北の過去のようで、露骨に嫌そうな顔をする。


「アレは私の人生の中でも、最大の汚点よ。でも同じ轍は踏まないわ。もし次があれば、完膚なきまでに叩きのめすから」


 グッと拳を握り、ミンミンと元気に鳴くセミの声と、白い雲の流れる空を見上げるディアナさんだけど、綺麗な桜色の唇の横には、スイカの種がついていたので、今ひとつ様になっていない。

 そして確かに前回は精神的動揺による隙を、思いっきり突かれて負けた以上、始終冷静に守りに徹して戦えば、彼女に敗北はほぼないのだろう。


「ええと、それでお祭りのことだっけ? 地元のお祭りが三日後にあるから、一緒に行こうか。でもとにかく外の人が多いからボクだけだと不安だし、センコさんも付いてきて欲しいんだけど」

「妾が主の頼みを断るわけがあるまい。当然一緒に行くに決まっておろう」

「ありがとう二人共! それじゃ、三日後のお祭りはよろしくね!」


そんな会話をしながら、ボクたちの夏の一日は、ゆっくりと過ぎていくのだった。




 三日後の日曜日の夕方、空の日が沈みかけて夕焼け色に染まる頃、綾小路家の三人だけではなく、学園のいつものメンバーも、綾小路家の前に集まっていた。

 しかし全員の浴衣着用はまだわかるけど、ボクの家の前に集合するのは何故なのだろうか。

 ちなみに、今回は当日決行ではなく日数に余裕があったので、ディアナさんの浴衣も地球原産できちんと用意出来た。


「何だか、幸子ちゃんとこうして会うの。すごく久しぶりな気がするわね」

「麗華は例のホームステイの件で忙しいんだろう? 仕方ないことだ」


 麗華さんと生徒会長が残念そうに漏らす。如月だけでなく、ボクと親交がある他の月の方々まで、全員駆り出しているらしい。如月家の当主さんからの、逃さん…お前だけは…という執念を感じる。

 何でも予想以上にホームステイ希望者が殺到したため、企画を一から組み直しているのだとか。


「そうだな。俺の家も裏方だけど協力しているしな」

「僕の家も、今は忙しいようで。まあ、それも第一陣が落ち着くまででしょうけど」


 葉月君と神無月君がヤレヤレと肩をすくめながら、愚痴をこぼす。確かに、最初の受け入れ先がきちんと整えば、あとは流れでという現場に丸投げが使えるかもしれない。

 どのような受け入れ先になるかは、ボクには全く予想がつかないけど。


「月の方々はわかりますけど、何故わたくしの家まで…」


 花園さんが悲しそうに言葉を漏らすけど、これまでボクたちにガッツリ関わってしまっているのだ。立場的に、もはや逃げられそうにない。

 地球の食を追い求めるという観点からも、連合の人たちも農業に強い花園家を逃がす気はなさそうである。


 ちなみに美咲さんは、佐々木食堂がお祭りでかきいれ時のために、どうしても抜けられないらしく、欠席。

 瑠璃ちゃんはトラブルの多いお祭りは両親が心配するので、本当は行きたいけど。欠席。

 エリザちゃんは自国のほうが忙しくて、欠席。というか忙しくなければ、お忍びで抜け出して入国する気満々なのが怖いんだけど。


「あとは、ボクとセンコさんとディアナさんで、全員だね」


 取りあえず皆が揃っていること確認する。まだ綾小路家の前とはいえ、この綺麗どころを全力で集めましたというメンツは、とても目立つ。あと、今回は子供体型がボク以外いない。

 人混みの中でははぐれたら大変なので、安全のために大人センコさんになるのはわかってはいるんだけどね。何かこう…大人たちの中に一人だけ小さな女の子が混ざるようで、居たたまれない。


「主は何も気にせんで祭りを楽しんだらいいぞ。妾が守ってやるからのう」

「そうよ。幸子は私がしっかり見張ってるからね」


 元々ディアナさんのサポートのために同行する予定だったのに、何故ボクが守られることになるのか。これがわからない。


「それじゃ、動きやすいように二手にわかれるとするか。事情があるために、ディアナさんと綾小路は一緒のグループは確定としてだ」


 いくらこのメンバー内で、ディアナさんの正体がバレバレであろうとも、表向きはボクは彼女の一番の理解者であり、関係者でもある。同じグループは強制である。


「ごめんね。ディアナさん、もっと他の人と組む機会があったらよかったんだけど」

「ううん、私…幸子でいい! …違うわね。私…幸子がいい!」


 何故力強く言い直したのかは全くわからないけど、ディアナさんが気にしていないようでよかった。若干潤んだ目をして、聞こえる息づかいは、はぁはぁと興奮気味のようだけど、夕方とはいえ真夏だし、まだまだ暑いから仕方ないよね。


「あーあー…コホン! 今回の祭りの予算も睦月グループが全て出そう。皆の会計は帰る前に行うので、安心して楽しんで欲しい」


 今回も気前のいい生徒会長の言葉を聞きながら、恒例の組分けじゃんけんがはじまった。勝った順番でボクのグループに入るという取り決めらしい。

 こういうのは普通、勝ち負けで二つに別れるんじゃないのかな? あと今さらだけど、普通女の子だけだと不安なので、ここは男性が一人必ず入る場面なのでは?

 色々と疑問が尽きないけど、もし何らかのトラブルが起こった場合、ディアナさん一人だけでも戦力過多なので、些細な問題かもしれない。

 じゃんけんの結果、Aグループは、ボク、ディアナさん、麗華さん、花園さん。Bグループは、生徒会長、葉月君、神無月君、センコさんとなった。

 Aグループの皆は天を仰いで感謝の祈りを捧げ、Bグループの皆は両手を地面につけて、絶望の声を漏らした。


 それはそれとして、グループ分けが終わったので、さっそく行動開始である。いつまでも綾小路家の前で、じっとしているわけにはいかないのだ。


「皆、気を取り直して祭りを楽しもう。念のために時々携帯で連絡を取り合うこと。トラブルを避けるために必ずグループで移動すること。あとはそれぞれの良識の範囲内で遊ぶこと。守るべきルールはこんな所だ」


 生徒会長がパンパンと手を叩きながら、皆に指示を出す。流石は一年とはいえ年上である。しっかりしているなと感心してしまう。


「何じゃ? 主はあのような男が好みか?」

「いや、別にそういうのじゃないけど。何となく、ああしてリーダーシップを取れる生徒会長って、すごいなと思って」


 すると近くで聞き耳を立てている、葉月君と神無月が反応する。


「そうだな。俺たちも行こうか!」

「ええ、早くお祭りを楽しみたいですしね!」

「おっ、おい! お前たち、だから押すなって!」

「やれやれ、いつの時代も男は変わらぬのう。では主、妾たちは一旦離れるが、寂しくて泣かぬようにな」


 いやいや、ボクはそんなに子供じゃないからね。たとえ見た目はそう見えるとしても。そう思いながら、Bグループの四人と手を振って別れる。

 自分たちもお祭りに向かおうと一歩踏み出したとき、麗華さんが思い出したように、声を出した。


「そうそう、幸子ちゃん。健二…ええと、生徒会長はもう生徒会長じゃないわよ」

「え? そうなの?」

「ええ、先月に学園で次の生徒会役員選挙を行って、全てが新しい生徒会役員に選抜されたの」


 そう言われれば、そんなことがあったような。先月は連合関係でバタバタしてたから、気づけばあっという間に夏休みになってたことしか、殆ど覚えていなかった。


「うーん…でもボクにとっては、生徒会長は生徒会長だし」

「そうね。私も健二が生徒会長以外をしてるイメージが湧かないわ。本人も気にしてないようだし、幸子ちゃんがそれでいいなら、外で遊ぶときぐらいはそのままでいいと思うわ」


 麗華さんの婚約者さんは懐も深いようだ。ボクも将来婚約者が出来たりするのだろうか。

 今の所は候補者的には二人がいるものの、何の取り柄もない自分に好意を持つのは、やはり気の迷いなのではと考えてしまうために、今ひとつ実感がわかない。


「綾小路さん、そろそろ行きません? あまり立ち止まっているわけには…」


 花園さんが何やら考え込んでいるボクに、声をかけてくれた。そうだった。とにかく今はお祭りを楽しまなければ。


「では、調査開始ね。たくさんお祭りの情報を得て、皆に伝えないと」


 もはや全く隠す気のないディアナさんの言葉を受けて、ボクたちは賑やかな大通りに向かって歩きはじめる。辺りはいつの間にか、夕焼け色ではなく、宵の口に変わりはじめていた。










綾小路家の近くで行われるお祭りは、バス停や駅も近くにあり、公共施設も近代的で広々としているので、それなりには規模が大きい。

しかし、学園周辺よりは人口が少ないので、田舎と都会の中間ぐらい大きさかもしれない。

それでも、祭りともなれば外からも人が集まってくるため、露天が並ぶ大通りは見物客で大いに賑わっていた。


「なるほど、これが地球の祭り。勉強になるわ」

「正確には、地域の祭りね。世界中には多種多様の、異なるお祭りがあるのよ。催し物も違うけど、開く目的も全然違うのよね」


露天で買い食いしながら質問するディアナさんに、麗華さんが答える。


「わたくしは、この辺りのお祭りに参加するのは初ですけど、思った以上に賑わってますわね」

「何だかわからないけど、ここ一年ぐらい前から、如月グループが地域の清掃に力を入れてるらしいから、そのおかげかもね」


 一部の公共施設の補修、河川や緑地の整備、道路の張り直しなどで、少し前とは違い、見違えるように綺麗になっている。その他にも念入りに掃除をしているとは聞いているけど、当主さんから幸子ちゃんはその先は知らなくてもいいんだよと、冷たい目で見つめられて、有無を言わさずに頷かされてしまった。


「あっちの屋台も気になりますね。あっ…アレも欲しいわ」


 ディアナさんが物珍しそうに目の色を変えて、あっちこっちで買い漁る。おかげで彼女の両手には、食べきれない量の綿あめ、焼きそば、クレープ、りんご飴、イカ焼き等が抱えられており、いつか落っことすんじゃないかと、見ているボクたちもハラハラしてしまう。


「ちょっ…ちょっとディアナさん、その辺で一度持ってる物を消化しよう。これ以上は色々と危ないよ」

「あっ、はい。確かにそうね。つい未知の食べ物を見つけた嬉しさのあまり、暴走してしまったわ。迷惑をかけてごめんなさい」


 ボクはトラブルが起きる前なので別に気にしなくていいよと付け加えて、しょんぼりするディアナさんに伝える。

 その後は取りあえず大通りから外れた、人が少なそうな場所で、調査が終わった屋台の食べ物を、順番に皆でわけることにした。


「このチョコバナナというのは、本当によく考えられているわ。ただのバナナ単品ではなく、黒くて艶のあるチョコを…はむっ、このようにコーティングするとは……れろぉ…ぴちゃ…んっ…あまぁくてぇ…おいしぃ~」


 少しだけ横道にそれた場所でも、やはりそれなりに人が多い。そんな中で黒くて太いチョコバナナを、桜色の唇でピチャピチャと卑猥な音を奏でながら上下に往復し、念入りに調査を行いながら、幸せそうな表情で美味しくいただいているのは、地球人離れした美貌のディアナさんなのだ。


「おい、あの女性…ごくり」

「あぁ…アレは堪らねえな」

「それに他の子もレベル高すぎだろ。一人以外は」

「ああ、確かに一人以外は上玉だな」


 おまけで隣でクレープやりんご飴を食べている、麗華さんと花園さんも、地球人ではトップクラスの美人さんである。これで視線が集まらないわけがない。

 あとはロリコンでもない限りは、遠目でボクを高評価する男性は、多分いないだろう。


「何だか人が集まってきたわね」

「今日は外からも人が来ますから、きっとわたくしたちのことを知らない方々も、大勢来られたのでしょう」


 麗華さんと花園さんけど、祭りの中で歩くのを止めて立ち止まったまま、大通りからこちらを窺っている大勢の男たちに、鬱陶しそうな視線を投げかける。

 ちなみにディアナさんは、相変わらず美味しそうに買い食いを続けており、他人の視線は全く気にしていない。

 このままでは、またいつものパターンになるかなと、一人でヒヤヒヤしていたら、蕩けた表情でこちらを眺めている人垣をかき分けて、Bグループの皆がこちらに早足で近づいて来た。


「麗華、こんな所にいたのか」

「皆も休憩中か? 俺もちょっと疲れててさ。一緒に休ませてくれよ」

「僕も人混みに酔ってしまって、一休みさせてください」

「やれやれ、相変わらず厄介事には事欠かぬのう」


 三人の親しい男性と一人の美女が合流したため、アタックしようとした女性には、実は彼氏がいるのかもしれないと思ったのか、人集りは残念そうな空気を漂わせて、ゆっくりと散っていった。


「健二、遅いわよ。連絡したんだからもっと早く来なさい」

「すまない。メールは受け取ったんだが、少し距離が離れていたんだ。しかし、おかげで間に合っただろう?」


 麗華さんと生徒会長のお互いを信頼しているやり取りに、何となくホッとする。


「しかしどうするんだ? 幸子ちゃんのグループだけだと、また同じ状況になるかもしれないぜ」

「そうですね。それでもし、綾小路さんが怪我でもしたら…」


 葉月君と神無月君が心配そうに口を開く。むしろ加護付きのボクが、どうすれば怪我をすることが出来るのか知りたい。この先は怪我だけでなく、病気にもならなさそうだ。しかしそれを言っても仕方ないので、黙っている。心の傷のこともあるので、万能ではないのだ。


「ならば、多少移動は遅くなるじゃろうが、全員で行動すればよい」


 まあ、センコさんの言う通りにそれしかないよね。あとは高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するのだ。

 男女含めて綺麗どころがこれだけ揃っている集団に、声をかけてくる人はいないだろう。今はそう信じるしかない。

 皆も反対意見はないようで、口を開く気配はない。その中でボクが一人だけが見た目で浮いてるのは、気にしない方向で。


「ふぅ…美味しかった。え? …え? 皆、何の話してるの?」


 ようやく持っていた物を食べ終わったディアナさんが話に加わろうとするけど、既にAとBが合流して、一緒に行動することが決定したので、彼女にもそれを伝える。

 よくわかっていないようだったけど、取りあえず頷いてはくれたので、これでよしとする。








 その後は、食べ物屋だけでなく、色んな出店を皆と回ることになった。そして勝負事や景品がかかると、途端にディアナさんのエンジンがかかるので、色々と困ったことになった。

 輪投げは勢い余って遥か彼方に飛んでいくし、射的は的中ながらも、歩兵部隊なら中心部に百発百中なのにと悔しそうにするし、型抜きは力加減を誤って多数の型が犠牲になるし、金魚すくいも何度もチャレンジしたもののすぐに網を破いてしまう。水風船の釣り上げに成功したときは、飛び上がって喜んでいた。


 連合でどのように暮らしていたのかは知らないけど、彼女にとっては地球のお祭りは見るもの聞くもの食べるものの全てがはじめてなので、まるで子供のように喜んでくれていた。案内の役目で一緒に付いてきたボクも、悪い気はしない。


 祭りの全ての出店を調査し終わったので、次は河原の花火会場に向かう。

 ディアナさんに付き合った皆も、時間を忘れて盛り上がったためか、残念ながら見晴らしのいい席は取れなかった。

 会場から離れた道の端にそれぞれ適当に座って、打ち上げ台のほうに体を向ける。

 やがて小さな火の玉が夜空に昇り、鼓膜を震わせるドーンという大きな音と共に、とても綺麗な大輪の花が咲いた。


「これが花火なのね。テレビで見るのと実際に見るのとは大違いだわ。火薬の音も体全体に響いて、…何というか感動したわ。この花火、連合の皆にも見せたいわ」


 夜空の闇の中で次々と華麗に咲き誇る花火を見つめるディアナさんは、感極まったのか拳を握って、震えながら遠い目をしていた。


「ディアナさん、すぐにホームステイもはじまるから。そうすれば、連合の皆も花火を見られますよ。それにお祭りもね。これから先は何回だって楽しめるようになるよ」

「そうね。うん…そうよね。ありがとう幸子」


 河原の空に打ち上げられる花火を眺めながら、隣のディアナさんと話していたボクは、いつの間にか目の前が閉ざされたことに気づいた。


「えっと…ディアナさん?」

「ごめん。幸子…しばらく…このまま」


 無言でディアナさんに隣から抱き締められ、別に息苦しくはないものの、何となく居心地が悪く感じる。

 原因は彼女の頬を伝う一筋の涙を見てしまったため、どうにも落ち着かなくなってしまったのだ。

 出来れば抱き枕的な役目は誰か他の人に変わってもらいたいけど、全く息苦しくはなくても、ディアナさんの超パワーで抱き締められているため、彼女が飽きるまではずっとこのままだろう。


「ふふっ…幸子、花火が綺麗ね」

「そうだね」


 心の底から嬉しそうなディアナさんの言葉に相槌を打つものの、ボクの視界は豊満な二つの乳房以外は殆ど見えない。というかピッタリくっついていると言ってもいい。

 自分の領地に平野しかないボクにとっては、はっきり言って邪魔である。猛毒と言ってもいい。

 一分一秒でも早く拘束を解いて欲しいけど、彼女もわざわざ苦しめたいわけではない以上、空気を読んで口には出さない。

 結局その後三十分近く、ディアナさんによる強制パフパフ状態が続き、ボクの目からは完全にハイライトが消えてしまったのだった。


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