三月 島(2)
旅館に戻ったら、男性陣の居残りの二人組が、不機嫌そうにロビーの椅子に腰を下ろしながら、ボクたちの帰りを待っていた。どうやら一緒に行きたかったらしい。
元々周囲をぶらりと散策して、すぐに帰ってくる予定だったのだ。店の人も島の民家に住んでる人も、心の底から名残惜しそうに引き止めるので、こんな時間まで外にいることになったので、ボクは悪くないはずである。
「まあ、それはともかくとしてだ。そろそろ夕食の時間だ。もう準備は終わっているから、食堂に行けばいつでも食べられるぞ」
「そうですよ。綾小路さん。僕も外で何があったのかとか聞きたいですし、お腹も空いたでしょう?」
貸し切りでボクたちしかいないのだから、遅れて旅館の人に迷惑をかける前に、生徒会長と神無月君の後ろをついていき、そのまま一緒に食堂へ移動することにする。
「おおー、すごいね。色んな種類の魚介料理がたくさんあるよ」
「ウチも料理屋だけど大衆向けだから、ここまで多くの魚を用意するのは無理だね」
食堂は襖で仕切られた和室に、人数分の座布団が左右に分けられた低い長机にそって一列になって敷かれていた。
指定席ではなく各自好きな場所でいいらしい。ボクが取りあえず適当な席に腰かけようとすると、麗華さんから待ったがかかった。
「待って、幸子ちゃん。移動中は二人に仕方なく譲ったけど、食事中は手を繋ぐ必要もないでしょう?」
「そうですわ。わたくしも手を繋ぎたい気持ちを我慢したのですし、食事中ぐらい譲ってくれても…」
「母様と離れたくないから、絶対駄目!」
「そうよ。幸子お姉ちゃんも、アタシたちと一緒がいいよね?」
そんなの、ボクに聞かれても困る。どうしようと一人であたふたしていると、女性陣ではなく、男性陣からも横槍が入った。
「おい待てよ。俺だって、幸子ちゃんの隣に座りたいんだぜ。それに、旅館の中なら迷子の心配もないし、そこまでベッタリする必要はないだろ?」
「そうですよ。僕も綾小路さんと二人っきりで、あんなことやこんなことをするのを。色々と我慢しているのですよ。それはもう色々とです」
説得の仕方はどうあれ、四対ニになり形勢不利を感じたのか、子供二人がすがるような目でボクを見つめてきた。
なおその間、生徒会長と美咲さんは、じっと勝負の行く末を見守っている。
「ジャンケン…そう! ジャンケンで上位になった人が、ボクの近くに座るということで! はい! これに決定!」
ともかく、夕食の時間を遅らせて旅館の人に迷惑をかける事態だけは避けたいボクは、何とかこれでまとまって欲しいと思った。六人も真剣な顔をして、お互いに頷きあっている。さらに静観を決め込んでいた二人も、ジャンケンと聞いた途端に、参加したそうにソワソワしはじめる。
こういう旅行でのお馬鹿な勝負事は楽しいからね。気持ちはわかるよ。でもボクは勝負の当事者には、なりたくなかったです。
「「「「ジャーンケーン…!」」」」
しばらくの間、ジャンケンのルールについて細かな取り決めと腹の探り合いが行われ、やがて真剣勝負がはじまり、数分後には天国と地獄が決定したのだった。
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「うん、エビフライも美味しい」
ボクと同じように皆もそれぞれの席につき、旅館の板前さんが作った、おいしい海鮮料理を満喫している…はずだった。
「幸子ちゃん、こっちのタコ飯も美味しいぜ。俺の分も食べていいぜ」
「綾小路さん、こちらの焼き魚も中まで火が通っていて美味ですよ」
「あら、この刺し身とわさび醤油の組み合わせも、堪りませんわよ」
「母様! 私の茶碗蒸しを、半分こしていただきましょう!」
「幸子お姉ちゃん、ここは意外性を取ってモズクはどう? 美容にもいいらしいよ!」
「わかってないわね皆、幸子ちゃんが一番好きなのは、ソースのたっぷりかかった白身魚のフライよ。子供舌を舐めるんじゃないわよ」
「たく、ジャンケンは俺が勝ったはずなのに、お前たちは勝手に席を変えやがってよ」
「僕も二番手なのに、これって勝った意味あるのかな?」
最初は葉月君と神無月君に挟まれる形で食事がはじまったのだ。思われても嫌ではない男性二人組に色々話しかけられて、ボクは胸の中に膨らむ正体不明のドキドキ感と、思わず顔が綻んでしまう程の、自分でも原因不明の謎の高揚感に翻弄され、彼らの声が脳だけでなく全身を犯しはじめたために、とうとう足腰にも力が入らなくなり、このままでは残り少ない男心がトロトロに蕩かされて、身も心も女に染め上げられてしまうのでは! と、ウォール幸子に亀裂が入りだしたとき、事件は起こった。
「母様! エリザの分の焼き魚、いかがですか!」
「幸子お姉ちゃん! 海のお味噌汁も美味しいですよ! ほらほら!」
このままでは大切な母様、もしくはお姉ちゃんを取られてしまうと感じたのか。お子様二人組みは座布団からすっくと立ち上がると、自分の配膳を持って、ボクたちの間に強引に潜り込んできた。
「こらこらお嬢さんたち、あんまりわがまま言うもんじゃないぜ」
「綾小路さんに迷惑かけちゃ駄目だよ? だから自分の席に戻ろうね」
葉月君と神無月君はやんわりとは言っているものの、引く気がないのは明らかだ。しかしボクは、これを天の助けだと内心感謝した。
「エリザちゃんも瑠璃ちゃんの分もくれるの? ありがとう! ここの料理美味しいよね!」
結果、最初は勝者の二人に左右を挟まれる形なので、夕食中は比較的静かなはずだったけど、座る席は決まったものの、実質貸切状態のため、やりたい放題に左右の長机をくっつけて一つの大机にしてしまい、ボクたちの人数も多くなかったため、席順は最初のみで食事が運ばれてからは、すぐに皆思い思いの自由席での食事を取ることとなった。
皆がボクの近くという場所でだ。わざわざ自分の座布団と配膳を持ち寄って、直接移動してくるというカオスっぷりである。もはやボクの縄張りを領空侵犯されているにも、等しい行いである。
しかし、皆に悪気はないし食事も美味しいので、大人しく餌付けされる小鳥を演じることにする。少しだけ離れて黙々と料理を食べている生徒会室と美咲さんの二人組も、何となく混ざりたそうな表情をしているけど、今は無視することにする。
そして、エリザちゃんと瑠璃ちゃんの二人から料理を受け取り、美味しそうにいただく。実際に美味しいから言葉に嘘はないのだ。
何とか強引にでも会話を切り上げなければ、ボクは彼ら二人のどちらかに攻略され、その日のうちにゴールインして、夜に純白のシーツが下のお口から溢れた血で、赤く染まることになっただろう。
ボクとしても二人のことは嫌いじゃない。むしろどちらかと言えば好き…かもしれないし、好意を向けられるのは嬉しく思うけど、深く考えずに流れで付き合ってしまうのはもう片方に悪いと思う。もうウォール幸子は壁がボロボロで、いつ攻略されてしまうかもしれない。でも、それはいいのだ。
いたるところ穴だらけな壁の防衛はもう無理である。男性を受け入れて子供を生み育てる。女性として生きていくことも、仕方ないけど、いつの間にか受け入れてしまっている。
でも最低限、自分の気持ちぐらいははっきりさせたい。付き合うとしたらその後だ。そうでないと、正直に好意を向けてくれている二人に悪い…と考えていると、何故か離れた場所に座る美咲ちゃんがおずおずと声をかけてきた。
「あの、幸子ちゃん…聞こえてるん…だけど」
「えっ? えええええっ!? 何が!? って言うか! その…何処から?」
「ボクとしても二人のことは嫌いじゃないってところからかな?」
「うわあああああん!? 殆ど最初からじゃないですかぁ!!!」
ボクは顔を真っ赤にして立ち上がり、恥ずかしさのあまり両手をバタバタと振りまくる。
「ああうん、言ってることが所々わからないところはあったけど、大丈夫だよ。幸子ちゃんが二人を思う気持ちは、しっかり届いたから!」
「フォローになってないよ!? ああもういいです! 今日はもうご飯食べて、お風呂入って寝ます!」
辛いことがあったら、いつまでも起きてウダウダ考えているよりも、さっさと寝てしまうに限る。世の中には時間でしか解決出来ないこともあるのだ。
「その…なんだ。幸子ちゃん、ごめんな。俺、少し焦り過ぎてたみたいだ」
「僕の方こそ綾小路さんに無理強いなんて、男性として最低なことをしちゃって、ごめんなさい」
深々と頭を下げて謝る二人に、ボクの羞恥心は余計に高まる一方だ。冗談として流してくれればいいのに、真面目に受け取られてしまうのが、一番困るのだ。
「いやいや! 謝らなくていいから! 全部ボクの独り言としてなかったことにしていいから! こんなの恥ずかしすぎるぅ!」
この収集がつかない状況に、麗華さん、続いて生徒会長が声をあげる。
「はいはい、三人共落ち着きなさい。あとはその場の雰囲気で付き合って、ゆっくり結婚まで進めるだけじゃない。意地汚くがっつく男は、今みたいに嫌われるわよ」
「なるほどな。つまり綾小路とこれまで通りの付き合いを続けていけば、いずれは…」
「そういうことね。貴方たちも外用の仮面をかぶって、いちいち取り繕わなくてもいいのよ。私たちが自然体で語れる親友は貴重なんだから、これからも幸子ちゃんを大切に扱うのよ。もし今みたいに手荒にするようなら…」
麗華さんは表面上はにこやかに笑っているけど、滅茶苦茶怖い。エアコンが効いているはずなのに室温が数度は下がった気がする。
そして視線を向けられている、葉月君と神無月君が恥ずかしそうに口を開く。
「わかったよ。俺も幸子ちゃんに嫌われたくないしな。これからは普通に話すことにするよ」
「了解です。猛省します。僕もまだまだ彼女と一緒に過ごしたいですしね」
一時はどうなることかと思ったけど、丸く収まってよかった。混乱から立ち直ったボクは、ようやく自分の分の料理の続きを食べられるのだけど、それを麗華さんが許さなかった。
「幸子ちゃん、私の魚料理も食べない? とっても美味しいわよ」
「ちょっ!? おまっ! それは卑怯だろ!」
「そうですよ! 僕たちには自重を促しておいて、自分だけは…」
しかし彼らの言い分を右から左に受け流し、堂々と言い放った。
「でも事実じゃない。それに切った張ったの恋愛話とは関係なく、私は美味しいお料理を幸子ちゃんにあげようとしてるだけよ? それの何処がいけないのかしら?」
先程の自分たちの不手際からか、それ以上は何も言えなくなってしまう。そして箸にエビフライをつまんだまま、自分の座布団から立ち上がった麗華さんが、こちらにジリジリと近寄ってくる。
「幸子ちゃん、はい…あーんして?」
麗華さんは混乱するこの場を収めてくれたのだ。つまり、今の彼女の命令は絶対ということだ。ボクは人知れず覚悟を決めた。
「うん、エビフライも美味しい」
そして冒頭に戻るのだった。結局静観していた二名もいつの間にか餌付けに加わり、ボクは自身のお腹の限界に挑むことになり、夕食が終わる頃には苦しそうにお腹を膨らませて、座布団を枕に横になっているピンク髪のひな鳥が出来上がっていた。
結局その後は、身動きが取れないため部屋の布団に運ばれてから、次の日の朝まで何もせずに絶対安静という、旅行にあるまじき失態をおかすことになったのだった。…お風呂入りたかったです。
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次の日、海の向こうから登る朝日を眺めながら、ボクはお風呂場にいた。
「うぅー…昨日の夜に入れなかったから、なおさら気持ちいいかも」
「幸子ちゃん、昨日は大変だったからね。それで、少しは体調よくなったの?」
美咲さんが心地よさそうに湯の中に体を浮かべている。思えば夏休みの旅行でも、彼女と一緒に朝風呂に入っていた気がする。
ボクは入浴する前に、ボディ用スポンジに旅館のボディソープを落とし、体の隅々まで洗う。昨日ついた汚れが、たちどころに落ちていくのを感じる。
「うん、体調は元に戻ったよ。でも朝ごはんは念のために、少なめにする予定だけど。それより気になることがあるんだけど」
「んー? 何? 男性陣二人のこと?」
「いやいや! そうじゃなくて! 島の人のことだよ! 何でボクたち、すごく歓迎されてるの?」
ボクは内心ものすごく動揺したものの、何とかスポンジを落とすことなく、体を洗うのを再開する。
「ああ、そっちかー。推測でいいなら…どうする?」
「それでもいいから聞かせて」
「んーわかった。何だか知らないけど偉い人がここに来ることは、島の施設の貸し切りもあって、島民の皆は知っていたと思うんだ」
確かに貸し切りと同時に、月の関係者の人たちが念入りなチェックを行うので、気づいてないほうがおかしいレベルだろう。
「本当に来てくれたのね!…とか言われてたしね。しかも一番に幸子ちゃんだものね。あのメンバーなら、普通は麗華さんのほうに目が行くんだよね。何も知らない人なら、なおさらね」
さらに美咲さんは、湯船にのんびりと揺られながら話を続ける。
「まあつまり、考えられるのは、月の関係者の誰かが他の月の御曹司や令嬢よりも、幸子ちゃんのことを、島民に大々的に宣伝したってことだね」
「ええええっ!? だっ誰かって誰が!? 何でそんなことを!」
何ということだ。ボクのことを宣伝しようとする勢力があったとは。しかしこんな平凡で平坦でちんちくりんな女性を世に広めて、その人物に一体何の得があるというのか。疑問は尽きない。
「さあ…そこまではちょっとわからないかな。でもまあ、幸子ちゃんがとっても可愛くて優しくていい子だってことを、もっと多くの人に知ってもらうのが目的だったんじゃないかな?」
「とっても可愛くて優しくていい子」
ボクは皆に褒められるいい子じゃないですよ。少し食い意地がはった、ただの小娘です。
たまたま如月家の養子になっただけの、何の取り柄もない平民です。あまりにも信じられないベタ褒めに、一時的に知能が後退してしまったようで、オウムのように言葉を繰り返してしまった。
「うん、そうだよ。一目見ただけだとわからないけど、少しでも話せば、皆もすぐに気づいてくれるよ。あっ…そろそろのぼせそうだから、私は先に出るね」
いつの間にか体を洗う手が止まり、スポンジを落として呆然とするボクを素通りして、美咲さんは最後に一言付け加えてから、扉から出ていった。 誰が宣伝したかわからないのは、それをしたがる人が多すぎるからだよ…と。
一瞬暖かな浴室だというのに背筋が寒くなってしまった。
しばらくフリーズしていたけど、何とか再起動して、ともかく湯船に浸かって考えを整理しようと、落としたスポンジを掴もうとすると、扉の向こうから新たな来客が現れた。
「母様!」
「幸子お姉ちゃん!」
裸のままで、先を争うようにこちらに駆け寄ってくる二人が、急に止まれるはずもなく、ボクは辛うじてタイルに頭を打ちつけることもなく、彼女たちの突進を受け止めることが出来た。
正直危ないところだった。体重が軽い二人だからこそ、ボクの体格でも何とか耐えられた。
多分もう一、二年すればあらゆる面で追い越してしまうだろう。もっとも、上半身の二つの小山は遙か先まで追い越されているのだけど。
しかし今は協力タックルの衝撃を和らげるための、クッション素材になってくれて助かったと感謝しておく。
「よかったです! 起きたらお部屋にいなかったので、とても心配しました!」
「佐々木さんにからお風呂場に行ったと聞いたから、急いで追いかけて来たよ!」
なるほど、朝起きたら同室で寝ているはずのボクがいなかったために、取り乱していた二人に伝えたらしい。
「あのね! 廊下や浴室は走っちゃ駄目だよ! もし転んで怪我したらどうするの! 次からは絶対に止めてよね! でも二人共…心配してくれて、ありがとうね」
もし怪我でもしたら旅館の人にも迷惑をかけちゃうからね。特にエリザちゃんは、下手をすれば外交問題だ。
しかし、ボクのことを思っての行動なら、これ以上は怒るわけにはいかないので、叱られてシュンとなっている二人と優しく抱き寄せて、無言のままそっと頭を撫でてあげる。
「母様ごめんなさい。もうしません」
「幸子お姉ちゃん、ごめんね」
「ううん、二人がわかってくれればいいんだよ。ボクの方こそ心配かけてごめんね」
こうして三人の子供はお互いに抱き合ったまま、時間が過ぎていった。しかし、実際には体格差は殆どない状態で、二人の美少女が一人のお子様体型に寄りかかっているのだ。
長時間この姿勢を維持するのは、なかなかに辛いものがある。
「あのー…二人共お風呂に入りに来たんだよね? そろそろ離れて体洗わない?」
「えぇ~母様、もう少しいいじゃないですか」
「そうだよ。幸子お姉ちゃんに、もっとナデナデして欲しいもん」
別に二人の肉親ではないで、ここはさっさと降参することにする。
「駄目。無理。もう手足が痺れてきて、これ以上は保たないから離れて、自分の体洗ってよ」
「仕方ないですね。名残惜しいですけど、今回はここまでにしておきます」
「うぅ…もっとくっついていたかった。そうだ! 幸子お姉ちゃんに洗ってもらおうよ!」
ホールド状態からようやくのことで逃れたボクだったけど、瑠璃ちゃんが別の提案してくる。
「母様と私で洗いっこですか。いいですね。瑠璃の意見に賛成です」
「ありがとうエリザ、幸子お姉ちゃんも異論はないよね?」
有無を言わせない提案に、ボクは黙って頷くしかなかった。ここで反対しても、絶対に意見は変えないだろう。ただでさえ多数決的に不利なのだ。長いものには巻かれて、さっさと終わらせたほうがいい。と言うか、二人はいつの間に、そんなに仲良くなったのだろうか。
「じゃあボクが洗うから、二人共ここに並んで」
エリザちゃんと瑠璃ちゃんを前に並ばせる間に、シャワーの温度を確かめて、スポンジにボディーソープを垂らして、シャコシャコと泡立てる。ここはちゃっちゃと済ませてしまおう。
「んっ…母様、そこ…弱いんです」
「幸子お姉ちゃん…もっと…シテぇ」
二人の体をスポンジで擦っているだけなのに、変な喘ぎ声を出さないで欲しい。
ただ、脇や足の付根とか弱い場所があるのは認めるけど、反応し過ぎである。それだけ心を許してくれていると思えば悪いことではないけど。
あとは同じような体格で助かった。もし部外者が入浴に訪れても、辛うじて、仲のいい姉妹がお互いにじゃれ合っているという、犯罪スレスレのレベルで済ませられるからだ。
「はーい。次は髪を洗うから、二人共、しばらく目を閉じていてね」
こういった自分以外の体を洗う行為も、父の介護で慣れていたので、人生何が役に立つかわからないものだ。
もっとも、中年男性と目の前の美少女二人の体格は違うけど、段取りは大体同じなので、そこまで問題になるほどではない。痒いところはありませんかーや、最近調子はどうですかーなど、お互いに軽口を交えながら、テキパキと体の隅々までを洗い、最後に温かなシャワーで二人の全身の泡を流し、洗いっこは終了した…はずであった。
「二人はこれで終わりだね。ボクはもう殆ど洗い終わってるから、次はお風呂入ろうか」
「何を言ってるんですか! 次は私が母様の体を、隅々まで洗ってあげますね!」
「アタシも幸子お姉ちゃんを洗いたいし! そんなに遠慮しないでいいんだよ!」
そう言い終わると、突然ボクの持っていた洗い終わったスポンジを奪い取り、息の合った見事なチームプレイで、ボクを中心にして前と後ろに分かれて挟み撃ちの格好となってしまう。
「だからボクは洗わなくても別にいいからね。…ね? 二人共落ち着こう。話せばわかる!」
「いいえ。受けた恩を返すのは王女として当然ことです」
「幸子お姉ちゃん、往生際が悪いよ? 諦めて一緒に洗いっこしよう?」
仕方ない。こんな状況ではもはや逃げられないと諦めるしかないので、重く息を吐き、大人しく風呂椅子の上に腰かける。
「はぁ…じゃあそこまで言うなら二人に任せるけど、さっきも言った通り、殆ど洗い終わってるから、適当に済ませていいからね」
「任せてください! 国一番の女王に磨き上げますので!」
「幸子お姉ちゃんの玉の肌! 全力で綺麗にしますよ!」
もう何でもいいので、とにかく早く終わって欲しいと、心の底からそう思った。
それにしても、実際に自分以外にスポンジで柔肌を擦られると、何だかとてもくすぐったく感じてしまい、変な気持ちになってしまう。
一箇所だけならまだ耐えられるのだけど、前後に挟まれて擦られているせいか、彼女たちの突然の行動に反応出来ない場合も多い。
「くっ…あっ…んんっ!」
「母様、気持ちいいですか?」
「うっ…うぅ…気持ちよくなんて…!」
「なるほど、幸子お姉ちゃんはココが弱いのかな?」
「やめっ…これ以上は…あふぅっ…!」
という感じに二人の連続攻撃に翻弄されるがままのボクは、全身くすぐったいやら気持ちいいやらで、我慢出来ずに情けない喘ぎがダダ漏れになってしまっていた。
そしていつの間にか持っていたスポンジは何処かに消えてしまい、エリザちゃんと瑠璃ちゃんは自らの未成熟な裸体にボディソープを擦り込み、前後からギュッとサンドイッチして、全身で泡立てて来るのだ。当然おいしくいただかれる中心の具材はボクである。
「ちょっ…二人共! これ以上はマズイ…からぁ…っ!」
「母様、こうすれば皆一緒に綺麗になれますよ。今、とても幸せな気分です」
「幸子お姉ちゃん、逆らわずに堕ちていいんだよ。アタシも、もっと感じていたいの」
これ以上は明らかに危険である。実際にボクの頭の中は、メーデ! メーデ! と、けたたましい音で警報を発しているものの、浴室の熱と、先程まで続いていたスポンジ攻撃の気持ちよさにやられ、足腰からは既に脱出するだけの力すら、欠片も残されていない。
もはや二人にされるがままの状態である。今現在も前と後ろから小さいながらに柔らかな四つの山が泡にまみれて押したり引いたりを繰り返し、そのたびにあっ…とか、んっ…とか、お互いの微かな喘ぎも混じっているのが伝わる。
ボクだけではなく、彼女たちも互いの肢体を擦り合せる快楽により、全身が蕩けかけているのだ。このままでは本気でマズイ。マズイけど快楽で緩みきっている頭では、このまま堕ちるところまで堕ちて逝くのも悪くないかなと、能天気に考えてしまっている。
「母様…一緒に…逝きましょう」
「幸子お姉ちゃん、アタシも…堕ちたい」
しかし、ギリギリの所で踏みとどまる。理性は殆ど蕩けてしまい、体も上手く動かせないけどやるしかない。ボクはまだしも、年頃の子供二人を、社会的な死に追いやるわけにはいかないのだ。たとえ月の力で揉み消せるにしても、大切な子供を守れなくて、何がお姉ちゃんか。何が母様か。
「だっしゃあああ! 危なかったぁ! はいはい! ストップ! 洗いっこ終了! 閉会!」
ふらつきながらも、全身全霊を持って二人の肢体を優しく押し退ける。ボクも含めて皆の顔色は朱色で、吐息も熱っぽく、身も心もすっかり蕩けきった幸せそうな表情をしている。
「お風呂場でこれ以上続けると、熱気で倒れちゃうでしょ! だからあとは皆で軽くお風呂入って終わりにしようね! はい! シャワーで洗い流すよ!」
多少強引にでも主導権を握り、火照った体を流水で洗い流す。
二人共、お股の辺りを中心にソワソワしっぱなしで、落ち着かないようだ。実際にボクも性的に興奮しているのだから仕方ない。年頃の女の子はかなり性欲がアレだからね。でも、一線を越えては駄目なものは駄目なのだ。
その後は、無言で湯船に浸かったものの、エリザちゃんと瑠璃ちゃんは始終チラチラと物欲しそうな視線を送ってきたけど、全てをスルーする。
まさか愛情が高まり過ぎて襲われるとは思わなかった。今度からは注意しないとと、心に留めておく。ボクもギリギリの所でお預けしてしまったせいで、下腹部がムズムズして辛いのだ。あとはどうか、他人にバレないように自分でこっそりと発散して欲しい。
その後、お風呂からあがり、起きてきた皆と朝食を食べている間も、エリザちゃんと瑠璃ちゃんは一言も口を開かなった。他のメンバーも何かあったんだろうなと漠然とは察しているのだろうけど、幸いなことに聞かれることはなかった。
二人はボクに視線を向けては、顔を真っ赤にしてモジモジしながら恥ずかしそうにそらすという、謎の行動を繰り返していたため。
皆はまた幸子ちゃんとの愛が深まったんだなと、理解してくれたのかもしれない。その理解のされかたもどうかと思うけど。まあ、お風呂場で三人揃って、ほぼイきかけましたが隠し通せればいいやと、今は前向きに考えることにした。




