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このせかいのかみさまは、  作者: 月圭
第一章 赤の夢
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1-5 彼女にとって正しいこと


 ミリアは黒髪の相方が振り返ることなく出て行ったことを意識の端でとらえながらも、奥の部屋へと自身もためらうことなく入室する。

 そこは物置であって作業部屋。

 パソコンなどの機器も揃っているが、衣類に酒、書籍、様々ながらくたが積み重なって山脈を作っている。


 小さくミリアは息をついた。


 いつからこのような状態になったのだったか。情報機器はミリアの専門。衣類を放置したのはそういったことに頓着しないレオだろう。

 やろうと思えば片づけくらいできるくせに面倒臭がる。悪いくせ。放っておくミリアもミリアだが。

 だからと言って改めようとはしないのが二人の距離感。


 今更だ。


 そうしてその衣類に埋もれるように見えるのは酒瓶。酒は飲むが選ばない。だから年代物の酒が無造作に転がるのは金に飽かせた趣味ではなく知り合いが簡単にくれるのが理由。

 レオは酒精に執着が希薄。ミリアはこだわりは皆無。高い酒も放置される現状のわかりやすい過程。傍から見れば宝の持ち腐れ。

 お門違いの責めに貸す耳など持ち得ていないけど。

 興味がないことには注意が向かない。レオの性格。食指の動かぬ事柄には積極性に欠ける。ミリアの性格。


 ある意味非常に、正しい結果。


 それはそれとして、実用性には欠けるとミリアは結論付ける。ならば行動が必要になる。この件が片付けばいずれ、と、心の片隅に留めておく。

 果たされるかは不確定だが。

 とりあえずは降ってわいた仕事を相手に働くべく、部屋の最奥、そこだけは整頓された一角に向かう。


 ――ミリアはこの件の依頼主・マリアにいい印象は持っていない。

 はっきりと先ほどレオに言ったようにむしろ嫌いだと明確だ。


 仕事は仕事。お金を落としてくれるならお客様。その仕事を持ってきた『客』にどのような感情をいだいていようが、やることは何時だって一つだけ。


 引き金を引いて奪う、単純なお仕事。

 事実はそう簡単ではないけれど。


 兎にも角にもやるべきことはやる。それだけ。『嫌い』というだけで仕事の拒否をしていたらきりがない。

 己の性格くらいは己で把握している。


 とても狭い『好き』ととても広い『嫌い』、そして残りの『どうでもいい』。

 マリアは『嫌い』な人間だ。


 ミリアが嫌いな人間は多い。

 それを悟らせない程度の繕い方は知っている。

 ――でもレオに隠せたためしはない。今回も、ミリアが明言するより前から気づいていたことだろう。

 逆もまたしかりではあるからお互い様だ。


 彼はミリアとは大きく違う。


 マリアが嫌いだといったミリアに、レオは好きではないと返していた。

 つまりはそれはイコールレオもマリアが嫌いだという返答ではなく、レオはマリアなどどうでもいいと言っているのだとミリアは理解している。


 とても狭い『好き』と同じくらい狭い『嫌い』、そして恐らくレオにとっては大部分が『どうでもいい』。


 わがままなのはミリアだけれど、ひどいのはきっとレオの方。

 どうでもいいのは無関心だから。


 レオは美しい男だと思う。


 すらりとした長身に均整の取れた体躯。肌も髪も近くで見れば質は極上。

 目つきと顔色の悪さがそれらを悪い印象に変えるだけ。

 綺麗だからこそ、きっと余計に露悪的。

 ――人殺しを善だなんて、言うつもりは初めからない。ただそれを()べて悪であると断罪されるべきであるとも思っていない。

 レオが『露悪的』というのはそういうこと。


 善と悪の定義は知らない。


 けれど漆黒のあの男は限りなく悪を他者の目に映し、本人もそうであると振る舞っているのである。

 それが意識的か無意識的かまでは知ったことではない。

 兎にも角にもその腕を認めた、レオはミリアの相棒でありそれが全てだ。

 今までも、これからも。


 さあ、仕事をしようか。













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