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このせかいのかみさまは、  作者: 月圭
第一章 赤の夢
30/35

1-29 腐り落ちるは、甘く


 遠ざかっていく背中。

 シルバーブレッド。【B】の殺し屋。

 黒と白と。銀色たち。


 マリアはまだ自分の足で立っている。


 彼らの関係性は知らない。お互いにお互いを殺せないその理由も、なのに一緒に遊ぶ理由も。

 マリアは知らない。

 知らされたところで理解ができない。

 理解したくもない。

 理解出来なくても遊べるのだから。

 小さな重なり。それで十分。

 相容れない他者の、世界があまた重なって条理や通念を作り出すのと同じように、相容れないそれらが何かの拍子に連なることもあるだけの話。


 例えば気まぐれで。

 例えば楽しさを追求して。

 例えば遊び相手を探して。

 身勝手な人の、身勝手な思考の、儘ならない邂逅。

 人がもしもそれを運命と呼ぶのなら、


 ……なんて、胸糞の悪い定めだろう。


 マリアは立つ。膝はつかない。たとえ遊びには負けても、彼女の世界がほころんでも、ゆがみを正せなくても。

 彼女が正しいと思う彼女の世界を、彼女は最後まで守り続けよう。

 そのためなら何だって簡単だ。


 黒の男は彼女の思う終幕を作らない。

 それは屈する理由にならない。だって無様は耐えがたい。

 理解し、看破し、見透かし。

 突き放して捨てた男。


 ひどい男だ。


 何処までが計算で、どこまでが演技で、どこまでが何も考えていないそれだろう。


 血色の瞳は何も語らない。

 銀色も白も。

 きっとマリアの眼鏡には適う。適っていた。

 けれど彼女の脳裏に残るのは塗り籠められた黒だけだ。


 だってとてもきれいでしょう?


 目にも入らなかったけれど、望みも突き返されたけれど。

 欲しいものを得て、そうして打ち捨てられたけれど。

 ――誰かはそんな彼女を評すだろう。

 可哀想だと。


 勝手に喚いて居ればいい。

 優位に立てたと思えばいい。


 だってそれは相容れない他者の、理解できない思考の、如何でもいい些事。

 彼女の何をも壊しはしない。


 黒の男。その行動。

 あったのはマリアの理解か。偶然か、必然か。

 今となっては知り得ない。

 それでも、ねえ、縋るなんて反吐が出る。

 だから、


 今、彼女ははまだ美しい。

 彼女にとって彼女は正しい。

 正しいままだ。

 歪み。誰かの詰る間違い。それは確かにあるけれど、それでも。

 彼女の世界は壊れない。

 彼女は彼女を、美しいと思える世界をまだ見ている。

 彼女は彼女にとって唯一絶対正しく美しい。

 肯定を享受した。


 みたいせかいをみましょう。

 いきたいせかいでいきましょう。


 だって彼女にとってはそれだけが全てだ。

 それしかない。

 今も昔も、

 これからも。


 ――ねえ、全部騙してあげるから、

 彼女は彼女の信じる美しさのまま、舞台で踊りきって上げるから、

 彼女は彼女の世界を、信じている。

 信じたまま、生きる。

 たとえそれで死んだとしても。


 騒がしくなった外。マリアは艶麗、嗤い。


 ……さあ、毒を注いであげる。

 蜜蜂ちゃん、遊びましょう?







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