1-29 腐り落ちるは、甘く
遠ざかっていく背中。
シルバーブレッド。【B】の殺し屋。
黒と白と。銀色たち。
マリアはまだ自分の足で立っている。
彼らの関係性は知らない。お互いにお互いを殺せないその理由も、なのに一緒に遊ぶ理由も。
マリアは知らない。
知らされたところで理解ができない。
理解したくもない。
理解出来なくても遊べるのだから。
小さな重なり。それで十分。
相容れない他者の、世界があまた重なって条理や通念を作り出すのと同じように、相容れないそれらが何かの拍子に連なることもあるだけの話。
例えば気まぐれで。
例えば楽しさを追求して。
例えば遊び相手を探して。
身勝手な人の、身勝手な思考の、儘ならない邂逅。
人がもしもそれを運命と呼ぶのなら、
……なんて、胸糞の悪い定めだろう。
マリアは立つ。膝はつかない。たとえ遊びには負けても、彼女の世界がほころんでも、ゆがみを正せなくても。
彼女が正しいと思う彼女の世界を、彼女は最後まで守り続けよう。
そのためなら何だって簡単だ。
黒の男は彼女の思う終幕を作らない。
それは屈する理由にならない。だって無様は耐えがたい。
理解し、看破し、見透かし。
突き放して捨てた男。
ひどい男だ。
何処までが計算で、どこまでが演技で、どこまでが何も考えていないそれだろう。
血色の瞳は何も語らない。
銀色も白も。
きっとマリアの眼鏡には適う。適っていた。
けれど彼女の脳裏に残るのは塗り籠められた黒だけだ。
だってとてもきれいでしょう?
目にも入らなかったけれど、望みも突き返されたけれど。
欲しいものを得て、そうして打ち捨てられたけれど。
――誰かはそんな彼女を評すだろう。
可哀想だと。
勝手に喚いて居ればいい。
優位に立てたと思えばいい。
だってそれは相容れない他者の、理解できない思考の、如何でもいい些事。
彼女の何をも壊しはしない。
黒の男。その行動。
あったのはマリアの理解か。偶然か、必然か。
今となっては知り得ない。
それでも、ねえ、縋るなんて反吐が出る。
だから、
今、彼女ははまだ美しい。
彼女にとって彼女は正しい。
正しいままだ。
歪み。誰かの詰る間違い。それは確かにあるけれど、それでも。
彼女の世界は壊れない。
彼女は彼女を、美しいと思える世界をまだ見ている。
彼女は彼女にとって唯一絶対正しく美しい。
肯定を享受した。
みたいせかいをみましょう。
いきたいせかいでいきましょう。
だって彼女にとってはそれだけが全てだ。
それしかない。
今も昔も、
これからも。
――ねえ、全部騙してあげるから、
彼女は彼女の信じる美しさのまま、舞台で踊りきって上げるから、
彼女は彼女の世界を、信じている。
信じたまま、生きる。
たとえそれで死んだとしても。
騒がしくなった外。マリアは艶麗、嗤い。
……さあ、毒を注いであげる。
蜜蜂ちゃん、遊びましょう?