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このせかいのかみさまは、  作者: 月圭
第一章 赤の夢
29/35

1-28 溶かして、混ざる、


『なぜ殺さないの』。

『私を殺しに来たんでしょう』。


 去っていく銀色の男の片割れ、その背に問いかけたけれど、返ったのは笑ったような気配だけ。

 ああ馬鹿にしている。そんな風に意味もなく口の中、毒づいてみる。

 わかっているからこそ、敢えて。


 だってねえ、あなたたちは馬鹿にしているのではないでしょう。

 興味なんてないだけでしょう。


 楽しいか楽しくないか。

 それですべてを判断している彼等だから。

 遊びは終わった。マリアは負けた。敗者というならばシルバーブレッドの二人だって同様だけれど。

 彼らはすでに役を終えて舞台を降りている。

 対するマリアはまだ舞台の上。踊り続けることが役目。拒否権は存在しない。

 彼女が彼女である限り、降りることは出来ない。

 だってそんなことで自分の矜持は折れない。


 美しさが全てだ。今ここに至っても。それが全て。全てで、絶対なのだ。

 彼女の世界で彼女は唯一正しい。

 ただしい。


 それしかもっていない彼女には。

 それだけが自分のもので。

 肯定を、享受した。


 それを愛とは呼ばない。けれど殺されるならあの黒がいい。そう思った。思わずにはいられなかった。

 その男がマリアを理解したのだ。

 欲しい言葉を与えたのだ。

 手に入らないと思ったそれを、差し出したのだ。

 そのくせ、マリアなんて一瞥もしていなかったのだろう。


 ずるい男だ。


 安い話。たった一言の肯定が確かに何よりほしかった。

 愛はいらない。信頼はいらない。優しさはいらない。

 いらない。


 だってだれもに、あいされていた。

 むじょうけんに、しんじられてきた。

 ばかみたいに、やさしさをさしだされた。


 ――反吐が出るほど、上辺だけ。


 それはそれで構わない。だってそれこそ彼女が作る彼女の世界の在り方だ。

 理解されなくてよかった。その世界で自分が唯一絶対、自分にとって美しければそれで。

 誰も彼も溺れて沈んでいけばいい。甘く甘く、どろどろに美しい世界で。

 それでいい。

 それを望んでいた。


 なのに彼女を欠片も見ない、あの黒がやっぱりきれいだと思うのだ。


 見ていないのに、

 透かされる。

 ……だってほしいものをよこされた。


 マリアは思う。


 醜悪な仲介人。裏社会の『蜘蛛』。許容出来ないけれど共感する。

 あの男は言った。

『あいつが殺すといったならばそれは死ぬ』と。


【B】の殺し屋は二人組。

 なぜ『あいつ』とあの隻眼の男は表現した?

 言い間違いとも取れる。頭に引っかかりもしなかった。疑問にも思っていなかった。疑問に思うほどにそれに重きを置かなかった。


 けれどそれは何も噓のない、真実の卑怯さだろう。


 言い間違い。意味がない。――そうではないのだ。

 なぜならば最初から、仲介人にとって、それはただ一人を指していた。


 漆黒の男。髪も服も。

 瞳だけが血を凝らせたかのように紅い。

 美しい男だ。

 マリアの世界に相応しい歯車だった。傍らの女と対比の。

 マリアの世界の構築に、何よりふさわしかった。


 とてもきれいだったのだ。


 美しいものが、好きだった。

 美しい自分が、好きだった。

 それが全て、だった。

 そんな自分を、愛してた。

 理解なんていらない、要らない、要らないのだ。

 あの綺麗な黒から、肯定を、享受した。それがとても欲しかった。分ってくれなくていいから。




 ――あの黒の残酷さは、優しさにきっと似ている。





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