表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このせかいのかみさまは、  作者: 月圭
第一章 赤の夢
28/35

1-27 春は来ない、


 踵を返し、歩き出す。立ち尽くす女、離れてゆくその姿。


 不意に。

 アーロンのゆるり、止まる足。


 とてもいいことを思いついたのだと。


 無邪気。自覚する。楽しい。

 趣味が悪いとレオ辺りは言いそう。どうせ止めないのもレオ。そして全員。同じ穴の狢でしょう。

 だってほら、アーロンが足を止めた事なんて気づいてる。三人、けれど止まらない歩みがその証拠。

 甘ったるいくらい、悪趣味だね。


 茫然、けれど浮かぶ光。意志の残る目。マリアは立ち止まったアーロンを見た。

 ああ本当に、そういう君は面白いよ。


「ねえ、あの日、」


 軽やか。アーロンの声。


 語るそれは昨日のこと。三日前も同様に起こった事。マリアの依頼。『シルバーブレッドを殺すこと』。ミリアの返事。『いい仕事を約束する』。

 ああほら、そこに嘘はないという事だけは、教えてあげよう。

 親切でしょう。聡い君には伝わるよね?

 だから。


「確かに引き金は引かれたんだよ?」


 単純な事実。吃驚、少し。マリアの相貌に浮かぶ。アーロンはそのまま紡ぐ。


「でもね、シルバーブレ(僕ら)ッドに【B】の殺(彼等)し屋は殺せないんだ」


 詠うように。潜む、マリアの柳眉。

 どういう意味だ、と。

 だってねえ、君は考えたでしょう?


 シルバーブレッドと【B】の殺し屋。

 どちらがいったいどちらを殺せる?

 答え合わせを置き土産にしてあげる。

 喜んでね?

 だって、君って面白かったから。

 最後に少し、遊んであげるよ。


 アーロンは深く笑む。にっこり。そんな形容がふさわしい。こんな場面でなければ見蕩れそうなほどに。

 歌うまま、続けた。


「それでも、【B】の殺(彼ら)し屋にシルバーブレ(僕ら)ッドも殺せないんだ」


 睦言に似た優しさで。

 マリアは瞠目。それから彼女が声にならない唇で、呟いた「なんで」。

 何て愚問。

 だって彼等との関係は最初からそういうもの。


 シルバーブレッドは【B】の殺し屋を殺せない。

 【B】の殺し屋はシルバーブレッドを殺せない。


 それが始まり。

 それがきっかけ。

 奇跡的で単純で、これ以上ない出会いでしょう。


「……だから何より、楽しく遊べる」


 彼女の言う『見たい世界は違う』から、ねえ、理解なんかできないのだろうけど。

 だって心底、わからないってそんな顔をしているよ。

 それで構わない。

 だって、マリアとの遊びは終わってしまった。

 嫌いじゃないというのは嘘じゃない。彼女の盲目と執着は。

 でも終わったことは終わったこと。幕引きの準備は済んでいる。


 期待した予想外。

 アーロンとジョニー、二人で終わらせるそれが予定で一番の予想。

 二番目の予想はミリア。感情のままの行動を読んで、案外冷めた彼女を知った。もとから情報戦が主体。十分遊んで、飽きっぽいね。

 けれど『特務部』のことをかぎつけた鼻は賞賛。だってちゃんと隠していたのにね。有能なことだ。

 それから最後の予想はレオ。最たる気まぐれ。読めやしない。でも引鉄が軽い時はとっても軽い。

 玩具を手に取る様に似ている。欠伸のようだ。

 気まぐれすぎる真っ黒。今日ははずれだ。

 そして一番最後がそれこそ気まぐれ。巻き込んだ『特務部』。なのに結局それが幕引き。

 大役を任されたんだ、がんばってね。


 予想外は、わくわくする。


 歩き出す。ジョニーたちとは割と距離。

 後ろ、マリアが叫ぶ。返すほどに興味をひかれない音の羅列。

 仕方ないね。

 かわいそうに、でももう終わっちゃったから。




 ……まあ、一番滑稽で可哀想なのは、








 彼女は最初から最後まで、彼女が一番求めた黒い男の視界には、全然入っていないってことだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ