1-23 砂の城
引かれた引鉄、漂う香りは慣れたもの。
弾け飛んだのは、シルバーブレッド、その愛銃の銀色で。
目にかかる夜にも明るい金色の髪を揺らし、空色の瞳でジョニーは空になった手の中を見る。
「―――――」
ゆるり、幼げなほどにジョニーは口角を引き上げる。視線は斜め後ろ。
その隣のアーロンも、悪戯が成功したかのように嬉しげ。視線を流す。
呼吸音は、この場に五つ。
銀色の男たちと、赤と白の女と。
……黒い男と、白い女の。
「お前ら、巫山戯すぎ」
黒い髪の隙間から、気だるい血色の瞳がのぞいた。
「……見つかっちゃったねえ」
ひらり、ひらり。
腹の裡の読めない微笑みで、アーロンは笑う。彼の腰に佩かれたナイフは鞘の中。手にとるそぶりなど微塵もなく。
レオは微かな溜息ひとつ。面倒くせえと零したのは口の中、音にならない振動。
傍らのミリアも勝ち誇るよりは疎ましげに柳眉をひそめ、小首をかしげる。
二人、視線の先はシルバーブレッド、ジョニーとアーロン。
彼等だけ。
「……ぁ、」
掠れた声、現状の理解がおぼつかない顔を晒すのはマリア。彼女にとってはきっと屈辱。
醜さというよりは滑稽さ。
嗤えてしまう。
彼は彼女に、そんなほんのひとかけらの注意を注いで瞬間興味を失う。
膠着に似た沈黙。気にもならない。
さあ嬉しくもない、答え合わせをしようか。
気だるさをそのまま声に乗せ、レオは言った。
「勝手にキャストを増やしてんじゃねえよ、」
視線はジョニー、アーロン。順に移る。血色の瞳は確信的。
「おや、何の事?」
「わっかんねえな」
肩をすくめ、にこりと一笑。
銀色の彼ら。
ああ、なんて。ふざけている。
「……『特務部』」
ミリアの声も無機質。けれどわずか滲んだ殺しきれない苛立ちに似た呆れ。
『特務部』。この国において、犯罪者を捕える公的機関。その仕事には銃火器の使用も許可される。分りやすく世間に映る、物騒で正当な『正義』の象徴。
その内側の実情がどのようなものだとしても。
罪人を殺す法はないのに、被疑者を殺す権利はある。
そういう現実の最たるもの。
「――そこまで分かってんのな」
さすが、と鼻を鳴らしたのはジョニーで、くすくすと笑み洩らしたのはアーロン。とぼけたくせにさっきの今で認めている。
掌返し。重さのない言葉。重さがあったことなんてないけど。いちいち信じていたらきりがない。
楽しい楽しい遊びをしよう。
それは決定事項。
退屈を紛らわそう。
全面的に同意する。
だって退屈は罪だと思うから。
けれどまったく、遊びにも礼儀くらいはあるだろう。
面倒を厭う、結局はこちらもこちらで身勝手な意見としても。
ルールなんてないお遊び、舞台の上で踊ってる、演技者は五人。マリアと、シルバーブレッド、【B】の殺し屋。
そこに『特務部』を呼んだのはシルバーブレッドだ。
遊びに命くらいは懸けてみよう。
否定はしない。
それでも。
「競争相手は知らせとけよ」
だって負けるなんて腹立たしい。
そうだろう?
レオは眉をわずかに上げる。
「いいじゃない。君たちの勝ちでしょ?」
負けちゃった、ざんねーん。
残念でもなんでもなさそうに言うアーロンは笑んでいる。飄々と。見ようによってはきっと華があるそれなんだろう。
無駄に容姿は整いすぎてる。アーロンにしろジョニーにしろ。他人のことをどれだけいえるかという話でも。
さて、幕を引こう。