1-21 賢者の選択、或いは
全てを知りたい、と願っている。
知識欲。貪るほどに、餓えている。いつだって、どこだって。
別に、悪いことじゃないだろう?
欲するもの以外への興味や関心は失せてしまうけれど、誰だって極論そうなんだから、責められることじゃないはずだ。
盲目さを誰かは嘲笑う。
だから何とほほ笑んであげよう。
例えばそれが、他人の世界をひっくり返したとして、彼にはそんなことは関係がないのだ。
欲するものを求めよう。
楽しいことは全力で。
――遊ぼうじゃないか。そうすれば終った時には、知らなかったことをまた一つ、知れるかもしれないだろう。
権力者は、聖人のつもりで人で遊び、
賢者のつもりで、欲に溺れる。
世界から処刑台を取り去って、そのくせ断罪を声高に叫ぶように。
権力者に限らない、人はみんなそうだけど。
欲はいろいろ、顕示欲、色欲、支配欲。
全てを知りたい知識欲なんて、ねえ、可愛らしくて笑えるでしょう。
知るという行為の悍ましささえも、彼は甘受したいと願っているけれど。
――目の前の女。泣き喚くか命乞いか。
無様な醜態を予想したけど、それらすべてを裏切って嗤ってみせた。
だから人間というのは面白い。
予想どおりはつまらない。退屈は、反吐が出る。
裏切り続けてみせてくれよ。
予想もしなかったことは知らなかったという事。枠におさまらない傲慢さ。矜持。寂しい寂しいお姫様は、最後までお姫様であることを選んだんだろう。
プラチナブロンドの長い髪。真っ白な肌。真っ赤な唇。纏う衣服は彼女が好む鮮やかな紅。
赤と白。
その美しさを認めている。
それが美しさだけであると認めている。
――ああ、お姫様。
自分でもそう思っているんだろう?
死んだらどこへ行くのだろう。
何でも殺してきたけれど、何でも知りたいと望んだけれど、その答えは未だ彼の手中にない。
だって死人に口なし。
誰も教えてくれないのだ。
いつか、知りたいと思う。
いつか、知れると思う。
けれど、自分からそれを選ぶには、まだまだこの世に知らないことが多すぎる。
例えば無様を嫌ったこの女の矜持が、存外高かったことのように。
そんな彼女が、彼の知らないことを先に知れる、それが少し羨ましい。
全てを知りたいのだ。貪欲に。どこまでも。知識欲。枯渇することのない。
ジョニーはがきり、銃口で彼女を狙う。
紅い紅い唇を、彼女は釣りあげて、震えているくせに、その虚勢は褒めてあげてもいいかもしれない。
彼女の死に顔はどんな様?
醜くゆがむだろうか、美しいまま逝くのだろうか、それとも滑稽な様を見せてくれる?
さあ、教えて。
お前を殺しにやって来たんだ。
彼女がどのような世界を夢見たのかは予想がつく。
ジョニーとアーロン。
シルバーブレッド、その死。
きっと叶えた気になっていた。
いったい何を見たつもりになっていたのか。
莫迦だな、駄目だろ。
自分しか信じていないくせに、なんて甘い。
甘すぎる。
ほら、だから引き返せない舞台の上で、楽しい楽しい遊びをしている。退屈は罪だから、面白いことに命を懸けよう。
全てを始めたのはこの女。
誰がどう動くかなんて、確定事項にできるわけがない。
知ってるだろう?
三日前。
確かに弾丸は、彼等に向かって放たれた。
嘘はない。
そして真実は卑怯者。
だってほら、マリアが言う通りの、誰もが見たい世界で生きているならば。
行動も言葉も、全てはひっくり返るだろう。
幕引きをしよう、お姫様。
王子様はキャストに居ないよ。