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このせかいのかみさまは、  作者: 月圭
第一章 赤の夢
20/35

1-19 その玩具を手に入れた、


 楽しいことを、探していた。


 遊ぶのが好き。戯れよう。どんな道具も、使っていいよ?

 この世界はままならなくて、でもそう、だからこそ楽しいことを探せるんだろう。

 だって決まりきった繰り返しってつまらない。


 つまらないことは、退屈で、

 退屈は何時だって罪だと思う。

 だから今も、遊ぼうとしてる。


 少し前に見つけた、楽しそうな玩具。入ってきた依頼。たった一人の女。

 赤と白。

 傲慢なまでに不遜な態度で、笑えるね。いい度胸。嫌いじゃないよ。

 好きでもないけど。


 テレビの中よりよほど好感。猫をかぶるの、やめればいいのに。きっとみんなが騒いで、ほんの少しだけ楽しいかもね。

 みんなが彼女を見てくれる。

 それが君の望みでしょう?

 そのあとのことは、知らないけど。


 彼女にとって、自分が一番、世界の中心。

 ――図々しいね?

 神様なんて信じていないくせに、神様になった気分で嗤ってる。

 確かに彼女は美しいけど、それだけだ。

 蜜蜂は群がって、でも誰にも手折られない花は毒の蜜を撒き散らすから、ねえ、死骸ばかり養分にしてる。だからいつだって孤独な一輪の花。


 寂しく腐ってゆくんだろう。


 ホテルの一室。最上階のスウィートルーム。

 お姫様は自分しか愛していないから、とても簡単に騙されちゃう。

 マネージャー、支配人。いつから違ったかなんて、永遠に気付かないままでしょう。

 だって最初から見てないものね?

 待っててあげたのにあんまり気づかないままだから、逆に褒めたくなってきちゃった。


 彼女はいつも言っていたっけ。

『見たい世界が人の全て』と。

 ――だからそう、従順なマネージャー傅く支配人、敬虔な信者たち。

 彼女が唯一絶対のお城の中。

 それが、君の見たい世界なんでしょう。


 赤と白で彩られた、毒で嗤うお姫様。

 誰も助けてくれないよ。


 楽しい楽しい、ゲームをしよう。

 巻き込んだのは君でしょう?

 幕引きをするのは誰になる?


 可能性は無限。予想外を、いつだって期待している。

 誰だってそうでしょ?

 価値観も世界も、まるで違う中生きているけど、それでも同じ空気を吸って喚いている。人ってそういうものだから、ねえひどく単純なことでよく似ている。


 インターフォンを鳴らして、扉が開くのをゆたりと待つ。

 とっても不愉快な顔して、君は現れるんだろう。


 二対一だよ、逃げられるかな。それとも潔く諦めちゃう? 美しさが全てだものね。足掻くだなんて無様なこと、しないと言って笑いそう。それとも返り討ちにしてくれる? それとも、それとも。

 考えるのは、楽しいね。

 ワクワクするよ。


 遊びましょう。

 舞台からはおりられない。

 上手に踊った方が勝ち。

 にっこり迎えてあげるから、演技達者なところを見せて。

 お得意でしょう。

 騙して見せてよ。


 ――嫌いじゃないんだ、君のその盲目と執着は。


 傲慢だときっと誰もが言うけれど。

 だって彼女の中で彼女の世界は正しく完成されているからね。

 それは独りよがりの虚像ではあるけど。


 扉が開く、現れた姿、気だるい色気と凛とした威圧。


 驚いてくれたね。


「―――――」


 声にならない声で、彼女は唇だけを動かした。



 ――『シルバーブレッド』と。



 アーロンは笑った。

 いい子だねとでも言うように。


 ......ああそう、ねえ、だから、

 嫌いじゃないというのは、嘘ではないんだよ?






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