1-19 その玩具を手に入れた、
楽しいことを、探していた。
遊ぶのが好き。戯れよう。どんな道具も、使っていいよ?
この世界はままならなくて、でもそう、だからこそ楽しいことを探せるんだろう。
だって決まりきった繰り返しってつまらない。
つまらないことは、退屈で、
退屈は何時だって罪だと思う。
だから今も、遊ぼうとしてる。
少し前に見つけた、楽しそうな玩具。入ってきた依頼。たった一人の女。
赤と白。
傲慢なまでに不遜な態度で、笑えるね。いい度胸。嫌いじゃないよ。
好きでもないけど。
テレビの中よりよほど好感。猫をかぶるの、やめればいいのに。きっとみんなが騒いで、ほんの少しだけ楽しいかもね。
みんなが彼女を見てくれる。
それが君の望みでしょう?
そのあとのことは、知らないけど。
彼女にとって、自分が一番、世界の中心。
――図々しいね?
神様なんて信じていないくせに、神様になった気分で嗤ってる。
確かに彼女は美しいけど、それだけだ。
蜜蜂は群がって、でも誰にも手折られない花は毒の蜜を撒き散らすから、ねえ、死骸ばかり養分にしてる。だからいつだって孤独な一輪の花。
寂しく腐ってゆくんだろう。
ホテルの一室。最上階のスウィートルーム。
お姫様は自分しか愛していないから、とても簡単に騙されちゃう。
マネージャー、支配人。いつから違ったかなんて、永遠に気付かないままでしょう。
だって最初から見てないものね?
待っててあげたのにあんまり気づかないままだから、逆に褒めたくなってきちゃった。
彼女はいつも言っていたっけ。
『見たい世界が人の全て』と。
――だからそう、従順なマネージャー傅く支配人、敬虔な信者たち。
彼女が唯一絶対のお城の中。
それが、君の見たい世界なんでしょう。
赤と白で彩られた、毒で嗤うお姫様。
誰も助けてくれないよ。
楽しい楽しい、ゲームをしよう。
巻き込んだのは君でしょう?
幕引きをするのは誰になる?
可能性は無限。予想外を、いつだって期待している。
誰だってそうでしょ?
価値観も世界も、まるで違う中生きているけど、それでも同じ空気を吸って喚いている。人ってそういうものだから、ねえひどく単純なことでよく似ている。
インターフォンを鳴らして、扉が開くのをゆたりと待つ。
とっても不愉快な顔して、君は現れるんだろう。
二対一だよ、逃げられるかな。それとも潔く諦めちゃう? 美しさが全てだものね。足掻くだなんて無様なこと、しないと言って笑いそう。それとも返り討ちにしてくれる? それとも、それとも。
考えるのは、楽しいね。
ワクワクするよ。
遊びましょう。
舞台からはおりられない。
上手に踊った方が勝ち。
にっこり迎えてあげるから、演技達者なところを見せて。
お得意でしょう。
騙して見せてよ。
――嫌いじゃないんだ、君のその盲目と執着は。
傲慢だときっと誰もが言うけれど。
だって彼女の中で彼女の世界は正しく完成されているからね。
それは独りよがりの虚像ではあるけど。
扉が開く、現れた姿、気だるい色気と凛とした威圧。
驚いてくれたね。
「―――――」
声にならない声で、彼女は唇だけを動かした。
――『シルバーブレッド』と。
アーロンは笑った。
いい子だねとでも言うように。
......ああそう、ねえ、だから、
嫌いじゃないというのは、嘘ではないんだよ?