1-17 毒の華
遊びというのは何時だって唐突に始まるのだ。
ルールは簡単。
生きている方が勝ちで、思ったとおりに現実を動かせた方が勝ち。
単純でしょう?
人が見たい現実というのはそれぞれで、だから言ってしまえばだれにとっても勝ちなことも、誰にとっても負けなこともあるのだけれど、だからこそこの遊びはとても彼らの気に入りだ。
だって、つまらない未来なんて吐き気がするほど必要がない。
楽しいことを望んでいる。
静かなのは嫌いじゃない。
ただ退屈さを罪だと思う。
だってほら、息がつまる。呼吸をしなければ人間というのはもろいから、死んでしまう。
笑ってしまうぐらいに弱い生き物。
それでいい。
弱いからこそ、命くらいかけてみよう。
割に合わないと誰かは言うけど。
そんなものは他人の価値観で、彼等にとってはどうでもいい。
――車は走っていく。黒の普通車。何処にでもある様な。ハンドルを握るのはレオ、助手席に座すのはミリア。
彼らはこれから、遊びに行くのだ。
遊び相手は『お姫様』。
最高の舞台は用意した。開演のブザーはもう鳴った。楽しい楽しい、遊戯をしよう。
拒否権は存在しない。
だって『遊ぶ』というのはそういうこと。いつだって、それを提供するのは子供で、子供というのは自分勝手で気ままなものだ。
無邪気というのは可愛らしく、可愛らしさは全てを許される。
そんな勘違いをしている。
勘違いのまま、生きている。
彼らは子供だ。だから遊ぶ。退屈を憎んで、誰だって引きずり込んで笑う。
さあ踊りましょう。
『お姫様』は演技上手。きっと楽しい舞台ができる。
台本はない。結末も用意していない。だからほら、真剣になれる。手を抜くなんて許されない。
例えばおとぎ話では、『お姫様』を救うのは『王子様』と決まっていて、幸せを祝福されて終るけど。
キャストの『お姫様』は美しいだけじゃないから、きっと毒の果実で眠っても、『王子様』は助けに来ない。
そんなことは望んでもいないだろう。
そもそもの話、外側だけを見る『王子様』は、綺麗なお人形を求めてるから、『王子様』の望むコレクションに、『お姫様』はなれない。
だって純粋なだけでは、この世界では生きられない。
そのしたたかさと美しさで誘惑する、お姫様の正体は何?
真実を映しすぎる鏡か、自作自演の魔女なのか。
なんにせよ、舞台の上で彼女は既に踊り始めた。真っ白い肌に真っ赤な唇で、偽りの愛を歌うのだろう。
彼女は自分を愛してる。
自分だけを見て、世界をそこで完結している。
傲慢で臆病な『お姫様』。
――誰かを愛するには勇気が必要だ。
だからそう、彼女は自分だけを愛するでしょう。
合理的で自分に優しい。
遊びがどんな結末を迎えるかは知らないけれど、身勝手にキャストも決定済みで、
――もう後戻りはできないのだから。
車の中、黒の男と白の女は、物言わぬまま、ただ、不機嫌と愉悦をごちゃ混ぜにして、
笑った。