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このせかいのかみさまは、  作者: 月圭
第一章 赤の夢
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1-16 玩具をあげよう、


 目が覚める。気だるい朝。


 のそり、起き上がって僅か、レオは眉を寄せる。血色の瞳はどこか焦点がまだ合わない。

 首を巡らせた。カーテンの隙間、注した陽光。

 緩く粒子が舞っている。

 ベッドから抜け出して伸び。髪をかき混ぜればくしゃりと柔らかい音がした。


 場所は一階。事務所の真下。彼らの居住区。

 億劫そうに身支度を整え、階段から二階へ。音はしない。冷えた空気が誰もいないことを告げる。

 ミリアは今朝、まだ起きてきていない。

 いつものことだ。ミリアの方が朝は遅い。


 ――正確に言うならばレオの睡眠時間が短すぎる。

 真夜中というよりは朝方に眠りについて数時間で起きる。それが彼の毎日。白い肌にこびりついた隈が消えた所をミリアだって見たことがない。


 不健康。

 改善できる気はしていない。

 する気もないけれど。


 上がってレオが足を向けたのは流し。コーヒーを一杯。手慣れた動き。銘柄にこだわりは皆無だが作るのは豆から。器具は揃ってる。ミリアのささやかな趣味。多少手間だが文句はない。レオを含め、ここに立ち入る人間は案外この過程を好んでる。


 広がる香り。朝の恒例。あと半時もすればミリアも起き出す。

 いつもの流れ。

 ゆたり、パイプ椅子に腰を下ろす。小さくきしんだ音。

 カップに口をつければ苦い味。

 目は覚めている。

 さて今日はどうなるか。

 予定はもう決まっている。


『仕事』は昨日。連絡は仲介人へ。『結果』は伝わっているだろう。

 マリアから透けて見えた嘲弄と疑念。

『シルバーブレッド』の実力を知るからこそのそれ。

 伝えられた『言葉』にあのお姫様は何を思っただろう。


 仲介人。

 信頼している。腕は確か。付き合いも長い。

 けれど戯れも過ぎる。どんな言い方をしただろう。

 酔狂な言葉で揶揄ったか、腹立たしいほどに言葉少なか。

 どちらも、と言って笑いそう。

 趣味が悪い。チェーンスモーカー。煙の匂いがトレードマーク。

 隻眼の男。

 その趣味の悪さは実力と同じくらい折り紙付き。

 だがそう、厭ってはいない。

 だってひどく可愛らしく言うのならばガキ大将のようだ。

 そんな微笑ましい存在ではないけれど。


 温度が残るうちにコーヒーを飲み干す。そうすればさほど間をおかずに空気が揺れる。

 視線を向ければミリアの姿。

 時間通り。

 無言のままにまた香ばしい香りが満ちる。ふわり、金髪をたなびかせて彼女が向いに腰を下ろす。


「時間は?」

「一時間ね」


 聞いた言葉に正確な答え。

 性格の違いが如実。レオは時間管理が苦手だ。

 苦手というよりはどうでもいい。

 ミリアは違う。時間に細かい。嫌いなのだ。待たされることも待つことも。

 もっとも、時と場合に拠るけど。

 気ままなものだ。


 今日も二人は黒と白。

 正反対で対照的。

 でも違和感はない。


 コーヒーは時間をかけて飲み干される。

 レオの指にはいつの間にか車のキー。指で弄ぶ。

 一時間は長いようで短い。


 朝は特に口数が少ない二人。無言そのまま、席を立つのもおもむろ。

 ばさり、コートを着込む。それからカツリ、踏み出した音は揃う。



 さあ、遊びに行こうか。












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