1-15 愛し方を知っていた
美しさは彼女の全てだ。
だから『シルバーブレッド』を使った。
彼女の世界の調整を任せた。
綺麗な綺麗な仕事人たちは期待通り。マリアの傍にいるのにふさわしい。
愛らしいと、思ってあげられる。
でも、ただそう、彼等はひどく快楽的で盲目だから、ふざけが過ぎる。
嫌いではない。過ぎただけだ。
自分の世界に『完璧』を求めて何が悪い?
だから望んだ、『【B】の殺し屋』。
彼等もまた、美しい生き物であったから、マリアは充足を得る。世界の調和。彼女にとっての正しい世界の。
黒い男と白い女。
対照的で整合性がある。
人間味が薄いほどに。
何処までも人であるはずなのに。
生々しいほどに、毒々しいほどに、人でない何かに見える。
その美しさを讃えよう。
美しさだけが正しいのだから。
マリアの世界を形作る、処刑人の栄誉を与えてあげる。喜べばいい、歯車として使ってあげるのだ。
――この国々のどこにも処刑台はないけれど。
数えること二十五年前、世界法で決められた。そうして国々からは『死』という名前の断罪は消えた。
笑ってしまう。
横行する殺し屋。地下へ地下へと潜る闇。
人を尊重する法律が殺戮を呼ぶ。
馬鹿馬鹿しい。
だってほら、望まれるから存在する、命を刈り取る彼らは、ひどく利己的な死刑執行人。
人は利己的なものでしょう?
間違いなどどこにもない。人が信じたい世界の形。マリアにとっての世界の形。多くが重なったからこその現実。
処刑台を潰しても、どこにでも執行人と死刑囚は蠢いている。
むしろだれでもそれに成り得る。
破綻。
守りたかったのは命? それとも自由?
命であるというのならそう、確かにそれを『己のもの』と捕まえることに役立ったのだろう。
自由であるというのなら、それもまた否定はしない。
ほんの少し、他人が軽々しいものになっただけだ。
マリアが愛しているのは自分だけだ。自分が一番大切で自分が一番かわいい。それさえ理解していれば他に何が必要だというのか。
マリアでなくても多くはそう。
『愛』が何かを語るほどに、滑稽なことはないけれど。
信じたい世界は自分にいちばんやさしい世界なのだからそれでいい。
他人と相いれないなんて当たり前。
壊れているなんて言葉は陳腐すぎる。
壊れていない人間なんて存在しない。自分にとって自分が正しいのならそれ以外はすべて間違いだ。
例えばほら、かの醜悪な仲介人も、彼の思う世界と愛を持っている。マリアにとっては理解できないそれを。
戯言の中零された言葉に垣間見た。
マリアの世界の排除対象、その男。『シルバーブレッド』が消えた今、次の『お願い』は彼を消すこと。
マリアが認めた美しさを持つ黒い男と白い女のお仕事だ。
何も難しいことはない。
マリアにとって正しい世界の為にはそれが必要なのだから当然だ。
ただ一つ、仲介人の彼も『【B】の殺し屋』をひどく評価していた、それだけは褒めてあげましょう。
よく分っている。
彼と彼女では、同じものを見てはいないけど。
なぜならば、それを語る隻眼の奥。
男は嗤った。
「殺されたいくらいに愛しているよ」
ほら、まるで違う世界と愛で、やっぱり彼も、壊れているのだ。